電流を調べることで、システムがどのように動作しているかについて、重要な情報が得られます。決められた状況において、タスクを実行するために必要な電流の量は一定なので、システムが予測した範囲内で動作しているかどうかを判断するため、電流は有効な情報となります。この有益な信号を評価するために電流が測定される測定方法および場所は多くあります。
電流を測定する場所の 1 つは、特定の負荷またはシステムの、グラウンドへのリターン・パスです。この場所について必要なのは、アンプがグラウンドまでのコモン・モード信号を扱えることにあります。図 1-1 に示すように、小さな電流センシング抵抗 (シャント抵抗とも呼ばれます) をシステムのグラウンドへのリターン・パスと直列に配置すると、抵抗の両端の間に、電流に比例する電圧が発生します。
多くの種類のアンプは、このローサイド側での入力電圧範囲として、グラウンドまで対応させることが可能です。標準的なオペアンプ、差動アンプ、計装アンプ、電流センシング・アンプはすべて、グラウンドまでを含むコモン・モード入力範囲に対応できます。
表 1-1 は、これら 4 種類のアンプを、電流センシング・アプリケーションの観点から比較した概要です。
VCM = 0V |
VCM > 0V |
長所 | 短所 | |
---|---|---|---|---|
オペアンプ | + | x | 低コスト | 精度、 ローサイド |
差動アンプ | + | + | ハイサイド | 低ゲイン、 コスト |
計装アンプ | + | x | 高精度、高ゲイン | ローサイド、 コスト |
電流センシング・アンプ | + | + | ハイサイド、高ゲイン、高精度 | — |
ローサイド・センシングの欠点の 1 つは、監視対象の負荷が、システム・グラウンドと直接接続されなくなることです。電流がシャント抵抗を通過すると、図 1-2 に示すように、部品の両端に発生する電圧が変化し、システムの基準電位と、監視対象の負荷のグラウンド電位との間に差異が生じます。システムの電流に比例してグラウンド電位が上下することにシステムが対応できない場合、この変動する基準接続が問題となる可能性があります。
システム・グラウンドの変動に加えて、一部のフォルト状態ではローサイドの測定場所では検出が困難な可能性があります。短絡が発生しており、電流がシャント抵抗を通過せず、別のパスを経由してグラウンドへ流れている場合、ローサイド・アンプではこのイベントを検出できません。
負荷のハイサイド、または監視対象の電源レールおよび回路の他の部分と直列に電流を測定すると、ローサイドの電流測定に存在するシステムの基準電位の変動や、別の短絡パスの問題を回避できます。ハイサイドの場所ではシステム全体の電流を測定できるため、意図しないパスを通過する過剰な電流をすべて検出できます。ローサイドから移動することにより、電流により発生するシャント電圧のせいでシステムのグラウンドが変動することを排除できます。
ハイサイドの測定場所につきまとう課題は、アンプを高電圧バッテリなどの大きな入力電圧レールと接続する必要があることです。電流を測定するための一般的なシグナル・チェーン・パスは、電流センシング抵抗の両端に発生する電圧を増幅し、その増幅された信号を A/D コンバータ (ADC) へ送るものです。ADC (ディスクリートでも、マイクロコントローラに内蔵されているものでも) の入力範囲は、通信および産業用機器で監視対象となる電圧レールと比較して小さなものです。コモン・モード電圧の要件が 60V を超え、低電圧部品の許容入力範囲をはるかに超える入力信号に対応可能なアンプが必要になることもあります。
電流センシング・アンプは、このような高電圧の入力レベルに対応でき、同時にそのアンプに続く低電圧の部品をリニア入力範囲内に維持し、それらの部品を過電圧から保護するよう、特別に開発されたアンプです。
INA190 電流センシング・アンプは、図 1-3 に示すように高電圧の電源レール監視の要求に対応し、低電圧の部品と接続でき、しかも最低 1.7V の電源電圧で動作します。
システムがシャットダウンまたはスリープ状態に入った場合、ADC、マイクロコントローラ、信号路アンプに電力を供給する低電圧電源はオフになる可能性があります。ただし、監視用のアンプの電源がオフになっていても、バッテリは依然として測定回路に接続されています。INA190 は、無効化された場合または電源がゼロになった場合にバッテリから流れ出す不要な電流をなくす容量結合入力段を備えています。
常時オンの場合、電流センシング・アンプの入力回路は、デバイスの電源電圧にかかわらず、入力範囲全体に対応できるよう特別に設計されます。
INA190 は、電源電圧が印加されているかどうかにかかわらず、入力ピンでの 40V の最大入力電圧に耐えることができる一方で、電源から流れる電流はごくわずかであり、損傷することもありません。
スレッショルド電圧がより低いイネーブル、より小さいパッケージ、INA190 と同等の性能を必要とするアプリケーション向けには、0.96mm2 小型チップ・スケール・パッケージの INA191 を提供しています。最大 120V の電圧と高帯域幅を必要とするアプリケーションには、電流センシング専用アンプとして INA290 の採用は優れた選択肢です。INA240 は入力コモン・モード電圧範囲が 80V まで達し、エンハンスド PWM 除去回路を持つため、モータ制御やスイッチング電源など入力電圧が大きく遷移する用途に適しています。INA301 電流センシング・アンプには、チップ上で過電流検出を行うためのオンボード・コンパレータが搭載されています。
TI は、技術データと信頼性データ(データシートを含みます)、設計リソース(リファレンス・デザインを含みます)、アプリケーションや設計に関する各種アドバイス、Web ツール、安全性情報、その他のリソースを、欠陥が存在する可能性のある「現状のまま」提供しており、商品性および特定目的に対する適合性の黙示保証、第三者の知的財産権の非侵害保証を含むいかなる保証も、明示的または黙示的にかかわらず拒否します。 |
これらのリソースは、TI 製品を使用する設計の経験を積んだ開発者への提供を意図したものです。(1) お客様のアプリケーションに適した TI 製品の選定、(2) お客様のアプリケーションの設計、検証、試験、(3) お客様のアプリケーションが適用される各種規格や、その他のあらゆる安全性、セキュリティ、またはその他の要件を満たしていることを確実にする責任を、お客様のみが単独で負うものとします。上記の各種リソースは、予告なく変更される可能性があります。これらのリソースは、リソースで説明されている TI 製品を使用するアプリケーションの開発の目的でのみ、TI はその使用をお客様に許諾します。これらのリソースに関して、他の目的で複製することや掲載することは禁止されています。TI や第三者の知的財産権のライセンスが付与されている訳ではありません。お客様は、これらのリソースを自身で使用した結果発生するあらゆる申し立て、損害、費用、損失、責任について、TI およびその代理人を完全に補償するものとし、TI は一切の責任を拒否します。 |
TI の製品は、TI の販売条件(www.tij.co.jp/ja-jp/legal/termsofsale.html)、または ti.com やかかる TI 製品の関連資料などのいずれかを通じて提供する適用可能な条項の下で提供されています。TI がこれらのリソースを提供することは、適用されるTI の保証または他の保証の放棄の拡大や変更を意味するものではありません。IMPORTANT NOTICE |
Copyright © 2021, Texas Instruments Incorporated
日本語版 日本テキサス・インスツルメンツ株式会社 |