JAJA628B February   2017  – August 2018 INA317 , LPV821 , OPA180 , OPA187 , OPA188 , OPA189 , OPA2187 , OPA2189 , OPA2333P , OPA317 , OPA330 , OPA333 , OPA334 , OPA335 , OPA388 , OPA388-Q1 , OPA4187 , TLV333

 

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TI Tech Note

概要

ゼロドリフト・アンプは、極めて小さい入力オフセット電圧 (VOS) を実現し、時間経過や温度変化に伴う入力オフセット電圧ドリフト (dVOS/dT) をほぼゼロに抑制できる、汎用および高精度用途に適した独自の自己補正テクノロジーを採用しています。TI のゼロドリフト・トポロジには、1/f ノイズを除去し、広帯域ノイズや歪みを低減できるといったその他の利点もあるため、開発の複雑さを解消し、コストを削減できます。具体的な補正手法は、チョッパまたはオートゼロです。本書では、標準的な連続時間アンプとゼロドリフト・アンプの違いを説明します。

ゼロドリフト・アンプに適した用途

ゼロドリフト・アンプは、信号経路の安定性から恩恵を受ける幅広い汎用および高精度アプリケーションに適しています。これらのアンプは優れたオフセット / ドリフト性能を備えているため、ゲインを高く設定しマイクロボルト・レベルの信号とインターフェイスするのが一般的である信号経路の前半において特に有用です。このテクノロジーを活用できる一般的な用途は、高精度の歪みゲージや重量計、電流シャント測定、熱電対 / サーモパイル / ブリッジ・センサ・インターフェイスなどです。

レール・ツー・レール・ゼロドリフト・アンプ

標準的な連続時間アンプとシステム・レベルの自動補正メカニズムを組み合わせて使うことで、システム性能を最適化できます。しかし、自動補正機能を追加することによって、ハードウェアとソフトウェアは複雑化し、開発時間、コスト、基板実装面積も増大します。代替となるより効率的なソリューションは、OPA388 などのゼロドリフト・アンプを使用することです。

従来のレール・ツー・レール入力 CMOS アーキテクチャには、PMOS トランジスタ・ペア (青) と NMOS トランジスタ・ペア (赤) という 2 つの差動ペアがあります。レール・ツー・レール入力動作に対応するゼロドリフト・アンプは、同じく p チャネル (青) と n チャネル (赤) を組み合わせた相補型入力構成を使用しています (Figure 1 参照)。

OPA180 OPA188 OPA189 OPA317 OPA330 OPA333 OPA334 OPA335 OPA388 PCHNCH_Comp_Input_SBOA181.gifFigure 1. PMOS / NMOS 差動ペアの概略図

この入力アーキテクチャでは、ある程度のクロスオーバー歪みが生じます (クロスオーバー歪みの詳細については、『Zero-crossover Amplifiers: Features and Benefits』(英語) を参照)。しかし、アンプのオフセットは内部の定期的な補正によって調整されるため、オフセット遷移とクロスオーバー歪みの大きさは大幅に抑制されます。Figure 2 に、標準的な CMOS レール・ツー・レールとゼロドリフト・アンプのオフセットの比較を示します。

OPA180 OPA188 OPA189 OPA317 OPA330 OPA333 OPA334 OPA335 OPA388 SBOA182_VCM_Curve.gifFigure 2. CMOS とゼロドリフトの入力オフセット電圧の比較

ゼロドリフトの仕組み

チョッピング・ゼロドリフト・アンプの内部構造は、連続時間アンプと同じ数の段に構成可能ですが、大きな違いは、最初の段の入出力に 1 組のスイッチを設け、補正サイクルごとに入力信号を反転することです。Figure 3 に、前半サイクルを示します。前半サイクルでは、入力信号を 2 回反転するように両方の組のスイッチを構成していますが、オフセットは 1 回反転します。これにより入力信号の位相に保持されますが、オフセット誤差の極性は反転します。

OPA180 OPA188 OPA189 OPA317 OPA330 OPA333 OPA334 OPA335 OPA388 CHOP_01_SBOA182.gifFigure 3. 前半サイクルの内部構造

Figure 4 に、後半サイクルを示します。ここでは、信号とオフセット誤差をそのまま通過させるよう両方の組のスイッチを構成しています。事実上、入力信号の位相は反転せず、入力から出力までそのまま保持されます。前半のクロック位相と後半のクロック位相でオフセット誤差の極性が反対になるため、誤差は平均してゼロとなります。

OPA180 OPA188 OPA189 OPA317 OPA330 OPA333 OPA334 OPA335 OPA388 CHOP_02_SBOA182.gifFigure 4. 後半サイクルの内部構造

同じスイッチング周波数の同期ノッチ・フィルタを使用して残余誤差を低減します。この原理は、入力、出力、環境に及ぶまで、アンプの全動作を通じて継続的に働きます。基本的に、TI のゼロドリフト・テクノロジーは、この自己補正メカニズムによって超高性能と抜群の精度を実現しています。

Table 1 に、連続時間アンプとゼロドリフト・アンプの VOS と dVOS/dT の比較を示します。ゼロドリフト・アンプでは、VOS と dVOS/dT が 3 桁小さくなっています。

Table 1. 入力オフセット電圧およびドリフトの比較

デバイス Vos (µV) dVOS/dT (µV/°C)
OPA388
(ゼロドリフト)
標準値 0.25 0.005
最大値 5 0.05
OPA2325
(連続時間)
標準値 40 2
最大値 150 7.5

オートゼロは異なるトポロジを必要としますが、同様の機能を提供します。オートゼロ方式は出力時の歪みを低減でき、チョッピングは広帯域ノイズを低減できます。

ゼロドリフト・アンプのノイズ

一般に、ゼロドリフト・アンプでは 1/f ノイズ (0.1Hz~10Hz) を最小化できます。1/f ノイズ (フリッカ・ノイズまたはピンク・ノイズとも呼ぶ) は低周波で支配的なノイズ源であり、高精度 DC 用途では問題になります。ゼロドリフト・テクノロジーは、周期的な自己補正メカニズムにより、ゆっくり変化するオフセット誤差 (温度ドリフトや低周波ノイズなど) を効果的に補正します。

Figure 5 に、ゼロドリフト・アンプ (赤) と連続時間アンプ (黒) の 1/f および広帯域電圧ノイズ・スペクトル密度を示します。ゼロドリフトの曲線には 1/f 電圧ノイズがありません。

OPA180 OPA188 OPA189 OPA317 OPA330 OPA333 OPA334 OPA335 OPA388 C001_SBOA182.png
Figure 5. 電圧ノイズの比較

改めて、なぜゼロドリフトなのか?

ゼロドリフト・アンプは、極めて低い入力オフセット電圧を実現し、温度変化や時間経過に伴う入力オフセット電圧ドリフトをほぼゼロに抑制できる上に、1/f 電圧ノイズも生じません。これらの特長は、汎用および高精度アプリケーションに不可欠です。

その他の資料

以下のTable 2 に、TI のゼロドリフト・アンプの一部を示します。全製品については、ti.com/opamps にアクセスして、パラメトリック検索ツールの結果をご覧ください。

Table 2. TI のゼロドリフト・アンプ

デバイス 最適化されるパラメータ
OPA388 2.5V<Vs<5.5V ゼロクロスオーバー、オフセット (最大値):5μV、ドリフト (最大値):0.05μV/°C、GBW:10MHz、ノイズ:7nV/√Hz、RRIO
OPA2333P 1.8V<Vs<5.5V 2mm × 2mm SON パッケージ、オフセット (最大値):10μV、ドリフト (最大値): 0.05μV/°C、IQ (最大値):25μA/Ch、RRIO
OPA333 1.8V<Vs<5.5V オフセット (最大値):10μV、ドリフト (最大値):0.05μV/°C、IQ (最大値):25μA/Ch、RRIO
OPA188 4V<Vs<36V オフセット (最大値):25μV、ドリフト (最大値):0.085μV/°C、GBW:2MHz、ノイズ:8.8nV/√Hz、RRO
OPA317 1.8V<Vs<5.5V オフセット (最大値):20μV、ドリフト (最大値):0.05μV/°C、IQ (最大値):35μA/Ch、RRIO
OPA189 4.5V<Vs<36V オフセット (最大値):3μV、ドリフト (最大値):0.02μV/°C、GBW:14MHz、ノイズ:5.2nV/√Hz、RRO

Table 3. 関連資料

SBOA181 『Zero-crossover Amplifiers: Features and Benefits』(英語)