JAJA648B December   2018  – September 2024 ADS124S08

 

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電源
AVDD AVSS、DGND DVDD、IOVDD
3.3V 0V 3.3V

設計の説明

本書では、ADS124S08 を使用した 4 線式 RTD 用温度測定について説明します。この設計は、PT100 型 RTD (温度測定範囲:-200℃~850℃) 向けレシオメトリック測定を採用しています。導線の抵抗は測定に関与しないため、4 線式 RTD 測定は RTD 配線構成の中で最も正確です。この設計には、ADC 構成レジスタ設定と、デバイスの構成と読み出しを行うための疑似コードが含まれます。この回路は、PLC 用アナログ入力モジュールラボ用計測機器ファクトリ オートメーションなどの用途に使用できます。RTD の各種配線構成による高精度 ADC 測定の詳細については、『RTD 測定に関する基本的なガイド』を参照してください。

デザイン ノート

  1. アナログ電源とデジタル電源の両方に電源デカップリング コンデンサを使用します。AVDD は、330nF 以上のコンデンサで AVSS とデカップリングする必要があります。DVDD および IOVDD (DVDD に接続しない場合) は、0.1µF 以上のコンデンサで DGND とデカップリングする必要があります。電源に関する推奨事項の詳細については、『ADS124S0x 低消費電力、低ノイズ、高度統合、6 および 12 チャネル、4kSPS、24 ビット デルタ シグマ ADC (PGA および基準電圧搭載)』データシートを参照してください。
  2. 励起電流を入力フィルタ抵抗に流さないでください (ADC 入力と IDAC 電流源の出力に同じピンを使用しないでください)。励起電流により直列抵抗で電圧降下が生じ、測定誤差が増加します。
  3. IDAC 電流の内部基準電圧を有効にするため、REFOUT と REFCOM の間に 1µF のコンデンサが必要です。
  4. 精度が高くドリフトが小さい高精度基準抵抗を使用します。測定はレシオメトリックであるため、精度はこの基準抵抗の誤差で決まります。0.01% 精度の抵抗を使うと、ADC と同等のゲイン誤差を実現できます。
  5. 可能な場合、入力フィルタには C0G (NPO) セラミック コンデンサを使用します。このコンデンサに使用されている誘電体は、電圧、周波数、温度の変化に対して最も安定した電気的特性を備えています。
  6. 標準のコンデンサ値と 1% の抵抗値を採用して、ADC 入力とリファレンス入力の入力フィルタ定数を選択します。これらのフィルタの設計および解析例については、『ADS1148 および ADS1248 ファミリのデバイスを使用する RTD レシオメトリック測定およびフィルタリング』アプリケーション レポートを参照してください。
  7. この設計では、ADC マルチプレクサの 3 本の入力ピンへの接続を説明します。残りのアナログ入力は RTD、熱電対、その他の測定に使用できます。
  8. 4 線式 RTD 測定の設計は、2 線式 RTD 測定と同じですが、4 つの端子を接続する必要があり、導線抵抗の誤差は除去されます。その他の RTD 配線構成を使用した測定については、『RTD 測定に関する基本的なガイド』を参照してください。

部品選定

  1. RTD の動作範囲を確認します。

    例えば、温度測定範囲が −200℃~850℃の場合、PT100 RTD の範囲は約 20Ω~400Ω です。基準抵抗は RTD の最大値より大きくする必要があります。基準抵抗と PGA ゲインにより、正側フルスケール測定範囲が決まります。

  2. IDAC 励起電流と基準抵抗の値を決定します。

    この設計では、IDAC 電流源が導線 1 経由で RTD に電流を流し込みます。電流は導線 4 を通って RTD を出て、レシオメトリック測定を行うために RREF でシャントされます。測定は ADC の導線 2 と導線 3 の間で行い、ケルビン接続で導線抵抗の誤差を除去します。この 4 端子センシングにより、RTD 配線構成のうち 4 線式 RTD 測定は最も正確です。

    この設計では励起電流源を 1mA に選択します。これにより、RTD の自己発熱を抑制すると同時に RTD 電圧の値を最大化します。RTD の自己発熱係数の一般的な範囲は、小型の薄膜素子で 2.5mW/℃、大型の巻線素子で 65mW/℃です。励起電流 1mA、最大 RTD 抵抗値で、RTD の消費電力は 0.4mW 未満となり、自己発熱による測定誤差は 0.01℃未満に維持できます。

    IDAC の電流量を選択した後、RREF = 1620Ω に設定します。これにより基準電圧は 1.62V に設定され、最大 RTD 電圧は 400mV となります。この基準電圧はレベル シフトとして入力測定電圧を電源電圧の 1/2 付近に設定し、PGA の動作入力電圧範囲内に測定電圧を収めます。これらの値により、最大 RTD 電圧を正側フルスケール レンジにほぼ一致させ、それを超えないように、PGA ゲインを 4 に設定できます。

    基準抵抗 RREF は、精度が高くドリフトが小さい精密抵抗とする必要があります。RREF のすべての誤差は、同じ誤差を RTD 測定に反映させます。最高精度の基準電圧測定を実現するため、REFP0 ピンと REFN0 ピンはケルビン接続で RREF 抵抗に接続しています。これにより、基準抵抗測定で直列抵抗による誤差が生じないようにします。

    RTD 抵抗の最大値を用いて、以下の式で ADC 入力電圧を計算します。

    VAIN1 = IIDAC1 × (RRTD + RREF) = 1mA × (400Ω + 1620Ω) = 2.02V
    VAIN2 = IIDAC1 × RREF = 1mA × 1620Ω = 1.62V
    VINMAX = 1mA × 400Ω = 400mV
  3. 設計が ADC の動作範囲内であることを確認します。

    まず、ゲインは 4 であり、AVDD は 3.3V、AVSS は 0V であると仮定して、VAIN1 と VAIN2 が PGA の入力電圧の範囲内にあることを確認します。『ADS124S0x 低消費電力、低ノイズ、高度統合、6 および 12 チャネル、4kSPS、24 ビット デルタ シグマ ADC (PGA および基準電圧搭載)』データシートに示すように、絶対入力電圧は以下の式を満たしている必要があります。

    AVSS + 0.15V + [|VINMAX| × (Gain − 1) ÷ 2] < VAIN1, VAIN2< AVDD − 0.15V − [|VINMAX| (Gain − 1) ÷ 2]
    0V + 0.15V + [|VINMAX| × (Gain − 1) ÷ 2] < VAIN1, VAIN2 < 3.3V − 0.15V − [|VINMAX| (Gain − 1) ÷ 2]
    0.75 < VAIN1, VAIN2 < 2.55V

    AIN1 と AIN2 で観測される最大および最小入力電圧 (2.02V と 1.62V) は 0.75V と 2.55V の間にあるため、入力電圧は PGA の動作範囲内にあります。

    次に、IDAC 出力ピンの電圧が電流源のコンプライアンス電圧の範囲内にあることを確認します。IDAC ピンは AIN0 であり、その電圧は AIN1 と同じです。最大電圧で、VAIN0 は 2.02V です。『ADS124S0x 低消費電力、低ノイズ、高度統合、6 および 12 チャネル、4kSPS、24 ビット デルタ シグマ ADC (PGA および基準電圧搭載)』データシートの電気的特性の表に示すとおり、IDAC 電流が 1mA の場合、IDAC の出力電圧は AVSS~(AVDD − 0.6V) の範囲である必要があります。この例では、AVDD = 3.3V であるため、IDAC 出力は以下の条件を満たす必要があります。

    AVSS < VAIN0= VAIN1 < AVDD − 0.6V
    0V < VAIN0 < 2.7V

    前述の結果と合わせて、IDAC の出力コンプライアンスは満たされています。

  4. ADC 入力とリファレンス入力の差動および同相フィルタの値を選択します。

    この設計には、差動および同相入力 RC フィルタが含まれます。差動入力フィルタの帯域幅は、ADC のデータレートの 10 倍以上に設定します。同相コンデンサは、差動コンデンサの値の 1/10 になるように選択します。コンデンサの選択に起因して、同相入力フィルタの帯域幅は差動入力フィルタの帯域幅より約 20 倍広くなります。直列フィルタ抵抗がある程度の入力保護の役割を果たすとはいえ、ADC が正常に入力をサンプリングできるように入力抵抗を 10kΩ 未満に維持します。

    入力フィルタにより、同相信号より低い周波数の差動信号は減衰され、デバイスの PGA によって大幅に除去されます。同相コンデンサのミスマッチにより非対称ノイズ減衰が生じ、差動入力ノイズとして表れます。差動信号の帯域幅を狭くすることで、入力同相コンデンサのミスマッチの影響を低減できます。ADC 入力とリファレンス入力の入力フィルタは、同じ帯域幅に設計します。

    この設計では、ADS124S08 の低レイテンシ フィルタを使用して、データレートを 20SPS に選択しています。このフィルタにより、シングルサイクル セトリングの低ノイズ測定と、50Hz および 60Hz ライン ノイズ除去機能が実現できます。ADC 入力フィルタの場合、差動および同相フィルタの帯域幅周波数は以下の式で近似されます。

    fIN_DIFF = 1 ÷ [2 × π × CIN_DIFF (RRTD + 2 × RIN)]
    fIN_CM = 1 ÷ [2 × π × CIN_CM (RRTD + RIN + RREF)]

    ADC 入力フィルタの場合、RIN = 4.99kΩ、CIN_DIFF = 47nF、CIN_CM = 4.7nF です。これにより差動フィルタの帯域幅は 330Hz、同相フィルタの帯域幅は 5kHz に設定されます。

    リファレンス入力フィルタの帯域幅は以下の式で近似されます。

    fREF = 1 ÷ [2 × π × CREF × (RREF + RIN_REF)]

    リファレンス入力フィルタの場合、RIN_REF = 3.16kΩ、CREF_DIFF = 100nF です。これによりリファレンス フィルタの帯域幅は 330Hz に設定されます。REFN0 はグランドに設定されているため、同相フィルタリングは除去されます。ADC 入力フィルタとリファレンス入力フィルタの帯域幅を一致させることができるとは限りませんが、帯域幅を近づけることで測定でのノイズを低減できます。

    入力フィルタの部品選定に関する詳細な分析については、『ADS1148 および ADS1248 ファミリのデバイスを使用する RTD レシオメトリック測定およびフィルタリング』アプリケーション レポートを参照してください。

測定値の変換

RTD 測定は通常、レシオメトリック測定です。レシオメトリック測定を使用すると、ADC の出力コードを電圧に変換する必要はありません。これは、基準抵抗値に対する比としてのみ出力コードが測定され、励起電流の正確な値を必要としないことを意味します。唯一の要件は、RTD を流れる電流と基準抵抗を流れる電流が等しいことです。

24 ビット ADC での測定変換の式を以下に示します。

Output Code = 223 × Gain × (VRTD / VREF) = 223 × Gain × (IIDAC1 × RRTD) ÷ (IIDAC1 × RREF) = 223 × Gain × (RRTD ÷ RREF)
RRTD = RREF × [Output Code ÷ (Gain × 223)]

ADC は測定値を RTD 等価抵抗に変換します。RTD の応答は非直線性のため、抵抗から温度への変換には式またはルックアップ テーブルによる計算が必要です。RTD 抵抗の温度への変換の詳細については、『RTD 測定に関する基本的なガイド』を参照してください。

レジスタ設定

ADS124S08 を使用した、ローサイド リファレンスによる 4 線式 PT100 RTD 測定回路の構成レジスタ設定
レジスタ・アドレス レジスタ名 設定 概要
02h INPMUX 12h AINP = AIN1 と AINN = AIN2 を選択
03h PGA 0Ah PGA イネーブル、ゲイン = 4
04h DATARATE 14h 連続変換モード、低レイテンシ フィルタ、データレート 20SPS
05h REF 12h 正のリファレンス バッファをイネーブル、負のリファレンス バッファをディセーブル、REFP0 および REFN0 リファレンス入力を選択、内部リファレンス常時オン
06h IDACMAG 07h IDAC 電流量を 1mA に設定
07h IDACMUX F0h IDAC1 を AIN0 に設定、IDAC2 ディセーブル
08h VBIAS 00h どの入力にも VBIAS を使用しない
09h SYS 10h 通常動作モード

疑似コードの例

以下に示す疑似コード シーケンスには、ADS124S0x からの後続の読み取り値を連続変換モードで取り込むように、本デバイスと、ADC に接続するマイクロコントローラを設定するために必要な手順が含まれています。専用の DRDY ピンは、新しい変換データが使用可能かどうかを示します。疑似コードは、STATUS バイトおよび CRC データ検証を使用せずに示しています。ADS124S08 のファームウェアのコード例は、ADS124S08 の製品フォルダから入手できます。


Configure microcontroller for SPI mode 1 (CPOL = 0, CPHA = 1)
Configure microcontroller GPIO for /DRDY as a falling edge triggered interrupt input
Set CS low;
Send 06;// RESET command to make sure the device is properly reset after power-up
Set CS high;
Set CS low;// Configure the device
Send 42// WREG starting at 02h address
05// Write to 6 registers
12// Select AINP = AIN1 and AINN = AIN2
0A// PGA enabled, Gain = 4
14// Continuous conversion mode, low-latency filter, 20-SPS data rate
12// Positive reference buffer enabled, negative reference buffer disabled
  // REFP0 and REFN0 reference selected, internal reference always on
07// IDAC magnitude set to 1 mA
F0;// IDAC1 set to AIN0, IDAC2 disabled
Set CS high;
Set CS low; // For verification, read back configuration registers
Send 22// RREG starting at 02h address
05// Read from 6 registers
00 00 00 00 00 00;// Send 6 NOPs for the read
Set CS high;
Set CS low;
Send 08;// Send START command to start converting in continuous conversion mode;
Set CS high;
Loop
{
Wait for DRDY to transition low;
Set CS low;
Send 12// Send RDATA command
00 00 00;// Send 3 NOPs (24 SCLKs) to clock out data
Set CS high;
}
Set CS low;
Send 0A;//STOP command stops conversions and puts the device in standby mode;
Set CS to high;

RTD 回路の比較表

RTD 回路方式 利点 欠点
2 線式 RTD、ローサイド リファレンス 最も低コスト 最も精度が低い、導線抵抗の相殺なし
3 線式 RTD、ローサイド リファレンス、2 つの IDAC 電流源 導線抵抗の相殺が可能 IDAC 電流のミスマッチに敏感だが、IDAC 電流を交換し 2 つの測定値を平均化することでミスマッチを解消可能
3 線式 RTD、ローサイド リファレンス、1 つの IDAC 電流源 導線抵抗の相殺が可能 RTD の測定と導線抵抗の相殺を目的とした 2 回の測定が必要
3 線式 RTD、ハイサイド リファレンス、2 つの IDAC 電流源 導線抵抗の相殺が可能、ローサイド リファレンスを使用するよりも IDAC のミスマッチの影響が少ない 別途バイアス用の抵抗が必要、電圧の増加が低電源電圧動作に適合しない場合がある
4 線式 RTD、ローサイド リファレンス 最も精度が高い、導線抵抗誤差なし 最も高コスト

使用デバイス

デバイス 主な特長 リンク 他の使用可能デバイス
ADS124S08 高精度センサ測定用 PGA/基準電圧搭載 24 ビット、4kSPS、12 チャネル デルタ シグマ ADC センサ測定用 PGA / 基準電圧搭載 24 ビット、4kSPS、12 チャネル デルタ シグマ ADC 高精度 ADC
ADS114S08(1) 高精度センサ測定用 PGA/基準電圧搭載 16 ビット、4kSPS、12 チャネル デルタ シグマ ADC センサ測定用 PGA / 基準電圧搭載 16 ビット、4kSPS、12 チャネル デルタ シグマ ADC
ADS114S08 は ADS124S08 の 16 ビット版であり、同様の用途に使えます。

リソース