JAJA779 April   2023 AMC1202 , AMC1302 , AMC1302-Q1 , AMC3302 , AMC3302-Q1

 

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設計目標

電流源 (公称値) 電流源 (短絡) 入力電圧 出力電圧 電源
IIN MIN IIN MAX ISHORT VSHUNT, MIN VSHUNT, MAX

VOUT

VDD1 VDD2

±10mA

±10A ±200A ±10µV ±10mV

55mV~3.245V

5V

3.3V

設計の説明

サーキット ブレーカなどの一部のアプリケーションには、小さい公称電流を測定すると同時に、高い短絡電流に耐性のある回路が必要です。この回路設計資料では、±10mA〜±10A の公称負荷電流を正確に測定でき、最大 ±200A の短絡電流に耐性のある絶縁型電流センシング回路について説明します。この回路の出力は、MSP430 に統合されているような 3.3V のシングルエンド ADC で使用されることを想定しています。測定対象のライン電流と ADC との絶縁には、絶縁アンプ (AMC1302) を使用します。1mΩ シャント抵抗を使用すると、予測される最小公称電流から ±10μV の信号が生成されます。デルタ シグマ変調器にはデッド ゾーンがあるため、この信号はゼロ付近の電圧入力を正しく解決するには小さすぎます。この問題を解決するため、この回路は 2 チャネルのオペアンプ (TLV9002) を使用して、信号を 5V/V のゲインで増幅し、同相電圧を 1V に設定します。これにより、最小公称電流がデッドゾーン外になるだけでなく、最大公称電流が上昇して絶縁アンプのフルスケールの線形入力範囲に一致するようになります。絶縁アンプのフルスケールの線形入力範囲は ±50mV で、差動出力スイングは ±2.05V、出力同相電圧は 1.44V、固定内部ゲインは 41V/V です。絶縁型アンプの出力側では、2 番目の 2 チャネル オペアンプ (TLV9002) を使用します。最初のチャネルはシングルエンドの同相電圧を 1.65V に設定し、2 番目のチャネルは絶縁アンプからの差動出力信号を 3.3V のシングルエンド ADC で使用可能なシングルエンド信号に変換します。

AMC3330

デザイン ノート

  1. 絶縁アンプとしては、低消費電力、高分解能、±50mV の広いフルスケール入力電圧範囲を持つことから、AMC1302 が選択されています。
  2. オペアンプとしては、低コスト、低オフセット、小型、デュアル チャネルであることから TLV9002が選択されています。
  3. TLV9002IN、TLV9002OUT、AMC1302 に電源を供給する VDD1 と VDD2 には、低インピーダンス、低ノイズのソースを選択します。この電源ソースは、シングルエンド出力の同相電圧の設定にも使用されます。
    • VDD1 は GND1 を基準としており、VDD2 は GND2 を基準としています。
  4. 最高の精度を求める場合は、温度係数の小さい高精度シャント抵抗を使用してください。
  5. シャント抵抗は、予測される公称入力電流および短絡入力電流のレベルに適合するように選択します。
    1. 連続動作の場合は、IEEE 規格に従って、通常の条件下では定格電流の 2/3 を超える電流でシャント抵抗を動作させないでください。消費電力の要件が厳しいアプリケーションでは、シャント抵抗をさらに減らすか、定格ワット数を増やす必要がある場合もあります。
    2. 短絡電流については、シャント抵抗のデータシートで短期的な過負荷の仕様を確認してください。この電流は多くの場合、公称消費電力の 5 倍です。
    3. 消費電力の計算方法については、『絶縁型アンプ電流センシング Excel カリキュレータ』を参照して ください。
  6. 適切な分圧抵抗値を使用して、TLV9002IN と TLV9002OUT 両方のチャネル 1 の同相電圧を設定します。絶縁型アンプの入力同相仕様に違反しないことを確認してください。
  7. シングルエンド出力が適切な出力スイングになるように、TLV9002OUT のチャネル 2 のゲイン設定抵抗に適切な値を選択します。

設計手順

  1. 公称電流の最大値に基づいて、適切なシャント抵抗値を決定します。
    R S H U N T   =   V i n M a x I i n M a x   =   50 m V 10 A   =   5   m Ω
  2. このシャント抵抗は 200A の短絡電流に耐えられることが必要であるため、シャント抵抗の値をさらに 1/5 に低減できます。これは手順 6 で補償されます。最大公称電流動作時のシャント抵抗の消費電力を決定します。
    P o w e r   R S H U N T   =   I i n M a x 2   ×   R S H U N T   =   100   A 2   ×   1   m Ω   =   0.1   W

    最小公称電流動作時のシャント抵抗の消費電力を決定します。

    P o w e r   R S H U N T   =   I i n M i n 2   ×   R S H U N T   =   0.1   m A 2   ×   1   m Ω   =   0.1   μ W
  3. 短絡時のシャント抵抗の消費電力を決定します。選択した短期過負荷仕様 (通常は公称値の 5 倍) が、短絡による消費電力に耐えられることを確認してください。
    P o w e r   R S H U N T   =   I i n S h o r t 2   ×   R S H U N T   =   40,000   A 2   ×   1   m Ω   =   40   W

    消費電力を 1/5 に低減したシャント抵抗を選択します。短期過負荷要件が 40W の場合、シャント Pdissipation は 8W です。詳細については、『絶縁型電流センシングの設計上の考慮事項』アナログ設計ジャーナルを参照してください。

  4. TLV9002IN のチャネル 1 を使用して、TLV9002IN のチャネル 2 のシングルエンド出力の同相電圧 2.5V を設定します。チャネル 1 の 1V 出力も、AMC1302 の正入力に供給されます。5V 電源の場合、単純な分圧抵抗を使用して 5V を 1V に分圧できます。R1 に 4kΩ を使用すると、R2 は次の式で計算できます。
    R 2   =   V C M   ×   R 1 V D D   -   V C M   =   1.00   V   ×   4000   Ω 5.00   V   -   1.00   V   =   1000   Ω
  5. TLV9002IN のチャネル 2 を使用してシャント抵抗からの電圧を増幅し、最大公称電流範囲を測定する際に AMC1302 のフルスケール入力電圧範囲が使用されるようにします。シャント抵抗が 1mΩ で、最大公称電流が ±10A の場合、シャント抵抗からの出力電圧は ±10mV です。AMC1302 の最大入力電圧は ±50mV なので、シャント抵抗の出力を 5V/V で増幅する必要があります。R3|R4 を 1kΩ に維持した場合、R5|R6 の抵抗値は次の式で計算できます。
    G a i n   ( V V ) = R 5,6 R 3,4   ;   R 5,6 = G a i n   ( V V )   ×   R 3,4 = 5   V V   ×   1   k Ω = 5   k Ω
  6. 選択したシャント抵抗に基づいて、短絡時に AMC1302 の入力の絶対最大電圧制限に違反しないことを確認します。短絡電流が 200A の場合、AMC1302 には 1V の差動電圧が印加されます。入力同相モードは 1V に設定されているため、AMC1302 の負の入力には、 GND1 を基準として最大 2V が印加されます。
    V i n A M C   =   200   A   ×   0.001   Ω   ×   5   V V   =   1   V

    AMC1302 の絶対最大入力電圧は、ハイサイド電源電圧より 500mV 高くなります (『AMC1302 高精度、±50mV 入力、強化絶縁型アンプ』データシートに記載)。5V のハイサイド電源電圧では、入力電圧の絶対最大定格に違反しません。

  7. TLV9002OUT のチャネル 1 を使用して、TLV9002OUT のチャネル 2 のシングルエンド出力の同相電圧 1.65V を設定します。3.3V 電源の場合、単純な分圧抵抗を使用して 3.3V を 1.65V に分圧できます。R7 に 1 kΩ を使用すると、R8 は次の式で計算できます。
    R 8   =   V C M   ×   R 7 V D D   -   V C M   =   1.65   V   ×   1000   Ω 3.3   V   -   1.65   V   =   1000   Ω  
  8. TLV9002 はレール ツー レールのオペアンプですが、TLV9002 の出力は電源レールから 55mV までしかスイングできません。このため、 TLV9002OUT のシングルエンド出力は 55mV〜3.245V (3.19Vpk-pk) までスイングできます。
  9. AMC1302 の VOUTP および VOUTN 出力は 2.05Vpk-pk で、180 度の位相差があり、同相電圧は 1.44V です。したがって、差動出力は ±2.05V (4.1Vpk-pk) です。

    TLV9002OUT の出力制限内に維持するには、AMC1302 の出力を 3.2/4.1 の係数で減衰させる必要があります。R9 = R10、R11 = R12 の場合、R11 と R12 の計算には、次に示す差動からシングルエンドへの段の伝達関数を使用できます。

    V O U T =   V O U T P - V O U T N × R 11,12 R 9,10 + V C M  
  10. 前に計算した TLV9002OUT の出力スイングを使用し、R9 と R10 を 10kΩ とすると、R11 と R12 は次の式で 7.8kΩ と計算できます。
    3.2 =   2.465 V - 415 m V × R 11,12 10 k Ω + 1.65

    標準の 0.1% 抵抗値を使用する場合、7.8kΩ 抵抗を使用できます。これにより、TLV9002 の制限内で最大出力スイングが得られます。

  11. コンデンサ C1 および C2 は、抵抗 R11 および R12 と並列に配置して、高周波信号を制限します。R11 = R12、C1 = C2 の場合、カットオフ周波数は次の式で計算できます。
    f c =   1 2 × π × R 11,12 × C 1,2

    C1 = C2 = 1nF、R11 = R12 = 7800Ω の場合、カットオフ周波数は 20.414kHz と計算できます。

    f c =   1 2 × π × 7800 Ω × 1 n F = 20 . 414 k H z

設計シミュレーション

DC シミュレーション結果

シミュレーション結果は、シャントの両端の電圧、AMC1302 の差動入力 / 出力、TLV9002 アンプのシングルエンド出力を -10A〜10A でシミュレートした DC 特性を示します。

AMC3330 シミュレーション結果シミュレーション結果

短絡イベント シミュレーションは、短絡イベント発生時の回路シミュレーションの結果で、±200A 時に入出力がどのように応答するかを示します。すべてのグラフを貫く赤と青の線は、AMC1302 の出力がクリッピングを開始するポイントを示しています。回路の目的は、短絡イベントが発生した後も動作を継続することです。「設計手順」セクションでは、AMC1302 のハイサイドのゲインとシャント抵抗の値は、このイベント中の損傷を回避するように選択されています。以下のシミュレーションは、これらの選択を検証しています。短絡イベントが発生したときに AMC1302 に入力される最大入力電圧は ±1V で、部品の絶対最大定格を下回っています。したがって、シミュレーションにより、短絡イベントが発生した後も回路が動作を継続することが確認されました。

AMC3330 短絡イベントのシミュレーション短絡イベントのシミュレーション

閉ループの AC シミュレーション結果

AC シミュレーションは、シングルエンド出力の AC 伝達特性を示します。このシミュレーションは、周波数が手順 11 の 2 番目の式で計算されたカットオフに近づき、上回るときに予測されるゲイン (dB) を示しています。アナログ フロントエンドのゲインは 5V/V、AMC1302 のゲインは 41V/V、差動からシングルエンドへの変換のゲインは 0.78V/V なので、次の図に示す 44.07dB のゲインが予測されます。

AMC3330 AC シミュレーションAC シミュレーション

正弦波のシミュレーション結果

正弦波のシミュレーションは、シャントの出力、AMC1302 の差動入力と差動出力、振幅 -10A〜10A の正弦波に応答する TLV9002 のシングルエンド出力を示しています。AMC1302 の差動出力は予測どおり ±2.05Vpk-pk です。シングルエンド出力は 3.19Vpk-pk で、スイングは 55mV〜3.245V です。

AMC3330 正弦波シミュレーション正弦波シミュレーション

設計の参照資料

テキサス・インスツルメンツの包括的な回路ライブラリについては、『アナログ エンジニア向け回路クックブック』、差動からシングルエンドへの出力変換の詳細については、『差動出力 (絶縁型) アンプからシングルエンド入力 ADC の接続』アプリケーション ブリーフを参照してください。

設計に使用されている絶縁アンプ

AMC1302
動作電圧 1500VRMS
ゲイン 41V/V
帯域幅 280kHz (標準値)
線形入力電圧範囲 ±50mV
入力抵抗 4.9kΩ (標準値)
入力オフセット電圧とドリフト係数 ±50µV (最大値)、±0.8µV/℃ (最大値)
ゲイン誤差とドリフト係数 ±0.2% (最大値)、±35ppm/°C (最大値)
非線形性とドリフト係数 0.03% (最大値)、1ppm/℃ (標準値)
絶縁過渡過電圧 7071VPEAK
同相過渡耐性、CMTI 100kV/µs (最小値)

代替絶縁型アンプ

AMC3302
動作電圧 1200VRMS
ゲイン 41V/V
帯域幅 334kHz (標準値)
線形入力電圧範囲 ±50mV
入力抵抗 4.9kΩ (標準値)
入力オフセット電圧とドリフト係数 ±50µV (最大値)、±0.5µV/℃ (最大値)
ゲイン誤差とドリフト係数 ±0.2% (最大値)、±35ppm/°C (最大値)
非線形性とドリフト係数 ±0.03% (最大値)、1ppm/℃ (標準値)
絶縁過渡過電圧 6000VPEAK
同相過渡耐性、CMTI 95kV/μs (最小値)
AMC1202
動作電圧 1000VRMS
ゲイン 41V/V
帯域幅 280kHz (標準値)
線形入力電圧範囲 ±50mV
入力抵抗 4.9kΩ (標準値)
入力オフセット電圧とドリフト係数 ±50µV (最大値)、±0.8µV/℃ (最大値)
ゲイン誤差とドリフト係数 ±0.2% (最大値)、±35ppm/°C (最大値)
非線形性とドリフト係数 ±0.03% (最大値)、1ppm/℃ (標準値)
絶縁過渡過電圧 4250 VPEAK
同相過渡耐性、CMTI 100kV/µs (最小値)