ロボット システムの設計者は、より高度な自動化を実現するロボットの需要に対応する中で、設計の複雑さの増大という問題に直面しています。このような複雑さの増大は、図 1 に示すような協働ロボット (コボット) や自律型移動ロボット (AMR) のように、人間と密接に共同作業するロボットにおいて特に顕著です。人間との共同作業時および人間の周辺での動作において高い信頼性を確実にするため、この種のロボットはさらに多くの電子部品を必要とします。認識、ナビゲーション、モーション制御のような機能を実現するために、システム内で増加し続けるデータを分析して対応する必要があるため、この種のロボットで採用される組込みプロセッサは複雑になっています。
これらの組込みプロセッサを採用するにあたって、自社のシステム内でプロセッサを完全にサポートするハードウェアとソフトウェアを新規開発するのに必要な社内リソースや専門知識のない企業もあります。一方、社内リソースや専門知識を持つ企業であっても、ハードウェアやソフトウェアのリソースを開発するには多大な時間投資が必要となります。この時間は新製品の研究開発に費やした方が有益です。
設計コストを削減し、複雑さを低減するため、設計者は、テキサス・インスツルメンツや、「すぐに導入可能な」ハードウェア部品を専門とするサード パーティー パートナーの包括的なエコシステムを活用できます。テキサス・インスツルメンツでは、ソフトウェア開発キットや、人工知能 (AI) モデルの開発、ベンチマーク、導入を行うための使いやすいクラウド ベース ツールなど、ロボット アプリケーションの開発をさらに効率化するのに役立つソフトウェアと設計リソースも提供しています。
この記事では、テキサス・インスツルメンツの包括的なサード パーティー ネットワークと、設計リソースや使いやすいソフトウェアを利用して、ロボット システム開発プロセスを合理化し、市場投入までの期間を短縮する方法を説明します。
多くのロボット システムでは、特にモーター制御、通信、機能安全システムにおいて、「すぐに導入可能な」ハードウェア リソースを活用すると有益です。この記事では、主にビジョン処理アプリケーション向けのリソースに注目し、テキサス・インスツルメンツのハードウェア パートナーをいくつか紹介します。テキサス・インスツルメンツのパートナー エコシステムの詳細については、パートナー ディレクトリをご覧ください。
最新の製造とグローバル サプライ チェーンでは、生産性の向上と制御の強化が求められているため、コボットと AMR が普及しています。特に製造環境では、これらのロボットは、人間や他のロボットとの共同作業を強化すると同時に、人間が優先度の高いタスクに集中できるようにもなるため、業務効率を向上させることができます。
この種のロボットの利点は明確ですが、設計は複雑になる可能性があります。これは、特にネットワーク エッジで分析機能とディープ ラーニングを使用するビジョン処理システムを実装する場合に当てはまります。カメラ モジュールを開発し、コボットと AMR で AI モデルをテストして導入するには、時間がかかり、特定のプログラミング知識と専用のソフトウェアが必要になります。
スペースに制約のある Arm® ベースの設計でビジョン処理機能を迅速に開発するために、TechNexion ROVY-4VM システム オン モジュール (SoM)、スマート モビリティ アーキテクチャ (SMARC) モジュール、Congatec の conga-STDA4、BeagleBone AI-64®、Arducam V3Link™ カメラ キットなど、テキサス・インスツルメンツのサード パーティー ハードウェア パートナーのモジュールを使用できます。TechNexion、Congatec、BeagleBone の各モジュールは、デュアル Arm Cortex®-A72、DSP、ビジョン ベース アプリケーションのディープ ラーニング向けアクセラレータ搭載の異種アーキテクチャを採用した TDA4VM プロセッサをベース としています。
TechNexion ROVY-4VM のような SoM を使用すると、設計者はモジュールを中心に AMR 製品を開発することが可能で、設計プロセスを簡素化できます。ROVY-4VM は、プロセッサ、パワー マネージメント IC (PMIC)、メモリ (DDR、UFS、SPI NOR フラッシュ) を 1 つの PCB に統合しており、包括的なテストを実施済みで量産に対応しています。プロセッサのその他のペリフェラルはすべて、ボード間の高密度インターコネクト (HDI) に簡単に配線できます。選択した機能を持つキャリア ボードをゼロから設計することもできますが、TechNexion が ROVY-4VM 向けの包括的な AMR キットである ROVY-4VM-EVK を開発しています (図 2 の AMR デモを参照)。このキットをリファレンス デザインとして使用して、FPD-Link™ III テクノロジを使用した最大 8 台のプラグ アンド プレイ カメラの追加 (TECHN-3P-VLS3-X-SL)、ディスプレイの追加 (FPDLink III を使用)、標準またはシングルペア イーサネットのイーサネット ポートの拡張、 迅速なプロトタイプ製作と開発に適したアクセスしやすい標準 USB3/Gb イーサネット ポートなどの機能を迅速に有効にできます。
conga-STDA4 を使用すると、設計者は SGeT のオープン標準 SMARC モジュールのフォーム ファクタとピン配置を活用して、機能安全などの機能を強化し、Arm ベースのプロセッサと Linux ベースのソフトウェアによる分析機能を追加できます。現在ファクトリ オートメーションで使用されている多くの産業用アプリケーションは、SMARC モジュールをベースにしています。大規模な開発者のコミュニティによってサポートされているオープン規格である SMARC フォーム ファクタは、キャリア ボードの配線や、 DIN レール取付 IPC に使用されるペリフェラル セットなど、既存のキャリア ボードのさまざまな要素を再利用できるため、設計全体で拡張が容易で、多くの場合はモジュールを交換するだけですみます。これにより使いやすさが向上し、既存の設計の更新が簡単になるため、総システム コストとサイズを削減できると同時に、TDA4VM プロセッサの高度な機能セットを活用できます。
BeagleBoard.org Foundation が提供する BeagleBone AI-64 は、ロボット システムのビジョン処理機能を早期に開発するためのもう 1 つのオプションです。TDA4VM をベースとする BEAGL-BONE-AI-64 は、Debian OS を使用できる包括的なシステムであり、ArduCam 製の ARDCM-3P-V3LINK-CAM V3Link カメラ キット (図 3) と組み合わせて、ビジョン処理設計を簡素化し、設計者がロボットの制御方法を習得するのに役立ちます。Raspberry Pi エコシステムを利用するユーザーは、(AM67A プロセッサをベースとする) Beagle AI® の方が使い慣れており、ArduCam キットとの互換性もあるので、特定のアプリケーション向けのマルチカメラ ビジョン処理システムを迅速に開発およびテストできます。
ロボット システムの設計者は、「すぐに導入可能な」ハードウェアに加えて、開発を効率化するために、直感的で使いやすいソフトウェアも必要としています。このソフトウェアを使用すると、タスクの制御、調整、実行をより効率的に行うことができます。ソフトウェアの直感性が高いほど、ロボット システムの設計、プログラミング、トラブルシューティングが簡単になります。
ソフトウェアが使いやすいと、学習時間が短縮されるため、複雑なソフトウェア インターフェイスを理解するのに時間を費やしたり、追加のトレーニングを受けたりする必要なく、アプリケーションの機能の開発に集中できます。ビジョン処理の設計にテキサス・インスツルメンツのプロセッサを使用する場合、ロボット システムの設計者は以下のようなソフトウェア、Web ベースのツール、開発リソースにアクセスできます。
TDA4VM 向け SDK は、さまざまなシステム オン チップ (SoC) デバイスで使用可能な統合ソフトウェア プラットフォームであり、実装とコードの再利用を容易にします。この SDK が提供するフレキシブルなソフトウェア プラットフォームは、AI を活用したビジョン処理機能とリアルタイム処理機能を搭載したロボット アプリケーションの開発を効率化し、設計期間を短縮するのに役立ちます。SDK には、充実した資料と、ドライバ、ミドルウェア、アプリケーションのサンプルを含む包括的なソフトウェア セットが付属しており、ロボット アプリケーションの開発期間を大幅に短縮できます。
テキサス・インスツルメンツのロボット SDK は、TDA4VM および AM6xA アプリケーション プロセッサでのロボット アプリケーションの開発をサポートするために設計されています。リアルタイム制御、3D グラフィックス、画像、ビデオ処理などのロボット アプリケーションの開発を促進するソフトウェア コンポーネント、ライブラリ、ツールで構成されています。また、開発者が設計を開始する際に役立つサンプルや資料も含まれています。
Edge AI Studio は、エッジ AI アプリケーションの開発を効率化し、開発期間を短縮するために設計された一連の Web ベース ツールです。テキサス・インスツルメンツのプロセッサ上で機械学習モデルを開発、トレーニング、導入するための使いやすいインターフェイスを提供します。Edge AI Studio の Model Composer、Model Analyzer、Model Maker の各ツールは、ネットワーク エッジでリアルタイム処理を必要とする AI アプリケーションを開発する設計者や開発者に有益です。
Edge AI Studio は、テキサス・インスツルメンツのリモート ハードウェアを使用して AI アプリケーションを開発するための簡素化されたグラフィカル インターフェイスを提供するため、機械学習モデルの開発経験が浅い設計者でも使用できます。また、事前トレーニング済みのモデルが含まれており、これらのモデルをカスタマイズできます。
組込みプロセッサとそれらをサポートするサード パーティー ハードウェアの革新は、ロボットで実現可能な限界を押し上げ続けています。この種の機能の一部はすでにさまざまな業界で採用されていますが、高度なビジョン処理コンポーネントを使用して膨大な視覚データをリアルタイムで処理および分析する機能は、ロボットがより確実にかつ安全に瞬時の判断を下して反応し、動的な状況に適応するのに役立ちます。工場や倉庫で人間とさらに緊密に共同作業する協働ロボットから、市街地を安全に移動して物品を配送できる自律型の車両やドローンまで、ロボットは私たちの世界の働き方を変え続けます。
V3Link™ is a trademark of Texas Instruments.
Arm® and Cortex® are registered trademarks of Arm Limited (or its subsidiaries) in the US and/or elsewhere.
BeagleBone AI-64® and Beagle AI® are registered trademarks of BeagleBoard.org Foundation.
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