JAJA807 November   2024

 

  1.   1
  2.   2
  3.   商標

高電圧の車載やエネルギー インフラ システムが電力効率や電力密度、安全性に関する設計要件を満たすうえで、リアルタイム マイコン (MCU) は重要な役割を果たします。オンボード チャージャ (OBC) から無停電電源 (UPS) まで、これらのデバイスは、過酷な環境下でタイムクリティカルなタスク向けに高速で確実な性能を実現する必要があります。

F29H85x シリーズの C2000™ マイコンは、テキサス・インスツルメンツの C29 コアにより構築され、高電圧システム内で厳しい条件が要求される処理や安全設計の課題に対応できるように設計されています。これらのマイコンは、従来のテキサス・インスツルメンツ C28 コアや市場に出回っているその他のマイコンの 2~5 倍の性能向上を実現するほか、高度な安全性とセキュリティ コンポーネントを搭載しているため、エンジニアがシステムの信頼性とインテグリティを最適化しながら、設計の複雑さとコストを低減するのに役立ちます。

C29 コアには、次のような革新性があります。

  • 再設計されたプラットフォーム:
    完全に保護されたパイプラインを持つ VLIW アーキテクチャにより、最大 8 つの命令の並列実行が可能です。
  • 新しいコンパイラ:
    LLVM/Clang ベースのコンパイラを使用して性能を強化し、カスタム コーディングやアセンブリを必要とせずに性能を発揮できます。
  • 再設計された割り込み性能:
    ハードウェアにより、リアルタイム割り込みのための、コンテキストの迅速な自動保存と復元が可能になります。新しい割り込みコントローラを使用すると、割り込みの優先度としきい値を完全にユーザーが設定できます。
  • 強化されたプラットフォーム性能:
    低レイテンシのメモリとペリフェラルの相互接続の設計を特長とし、内蔵の安全 / セキュリティ機能で保護を強化しながら、最大のリアルタイム性能を維持します。

この記事では、F29H859TU-Q1F29H850TU などのリアルタイム制御マイコンと、それらの C29 コアを活用して、電気自動車 (OBC や高電圧と低電圧の DC/DC コンバータなど) やエネルギーインフラ (ソーラーインバータや UPS など) のサブシステムで、処理能力、電力効率、高速スイッチング周波数を向上させる方法を説明します。

電気自動車 (EV) のリアルタイム制御を強化

OBC、高電圧と低電圧の DC/DC コンバータ、ホスト統合システムのような電気自動車のサブシステムで、より統合性の高い設計アプローチを採用することで、設計者は電力効率の向上、システムのコストと重量の削減、設計における安全機能の管理の効率化を実現できます。

通常、単一のマイコン内で複数のアプリケーションを実行するには、機能ごとに専用のコアを持つ必要があります。たとえば、1 つのコアは OBC 専用で、もう 1 つのコアは高電圧および低電圧 DC/DC コンバータ専用にするなどです。F29H85x シリーズのマイコンを使用することで、ロックステップ動作のマイコンの 3 つのコアのうち 2 つを割り当てて、AUTOSAR や重要な安全 / セキュリティ タスクなど、ホスト マイコンが必要とする重要な機能を ASIL-D の整合性レベルで処理することができ、残りのコアはシステム内の制御機能を処理することができます。

C29 コアには安全 / セキュリティ ユニット (SSU) が統合されているため、同じコア内で複数の制御機能をシームレスに実行でき、それと同時に機能が相互に干渉するのを防止できます。これにより完全な分離が維持され、機能が相互に干渉することがありません。

F29H85x シリーズ マイコンは、拡張 EPWM 機能によって実現するマトリクス コンバータ トポロジなどの新しい制御トポロジやアルゴリズムを使用できるため、車載システムの性能をさらに向上させます。このような機能には、保証された最小デッドバンドや不正なコンボ ロジックのような安全性チェックも統合した複雑な比較方式が含まれます。さらに、これらのマイコンに内蔵された ADC は、ハードウェア オーバーサンプリングや結果セーフティ チェッカなどの機能を使用した高精度のセンシングを可能にし、一般的なタスクに必要なソフトウェアのオーバーヘッドを最小化します。

エネルギー インフラにおけるリアルタイム制御の強化

車載システムの課題と同様に、エネルギー インフラ アプリケーションの設計者は、システム効率の向上に対する高まる需要に対応する必要があります。ソーラー インバータや UPS (無停電電源) のようなエネルギー インフラをサポートするシステムは (図 1)、増えつつあるエネルギーを供給すると同時に、サイバー攻撃からも保護する必要があります。

 サーバー スタック用無停電電源図 1 サーバー スタック用無停電電源

電力効率と密度を向上させるために、設計者はワイド バンドギャップ半導体 (SiC と GaN) と F29H85x シリーズ マイコンを活用して、パワー エレクトロニクスのスイッチング周波数と制御ループ周波数を高めることができます。制御ループ周波数を高くすると、電力変換用のシステムの電力効率と密度が向上すると同時に、コンデンサやインダクタなどより小型の受動部品を使用できるため、ボード面積をさらに削減できます。

セキュリティの観点からは、ハードウェア セキュリティ モジュール (HSM) と SSU を C29 コアと統合することで、潜在的なマルウェアからエネルギーインフラストラクチャを保護できます。SSU を使用すると、リアルタイム性能を犠牲にすることなく、メモリとペリフェラルの保護を維持しながら、マルウェアがマイコン内で進行中の機能を中断することを防止できます。SSU は、ハードウェアのメモリとペリフェラルのアクセス許可を自動的に管理および切り替えます。SSU は、C29 CPU と連携して、分離されたアプリケーション機能ごとに独立したスタック ポインタとスタック メモリを管理し、マルウェアやその他のサイバー攻撃に対するセキュリティ保護を提供します。

F29H85x マイコンのアーキテクチャは、ダウンタイムほぼゼロでライブ ファームウェア アップデート (LFU) を容易にする A/B フラッシュ バンクをサポートしています。プログラミング後の基本的なフラッシュ コントローラの内容検証に加えて、HSM はアップデートの全体的な整合性を検証します。また、このアーキテクチャにはソフトウェア更新を以前のバージョンにロールバックする機能もあり、重要なセキュリティ更新のためのロールバックを永続的にブロックできます。

まとめ

効率的で安全なエネルギー設計に対する需要が増大し続ける中、F29H85x シリーズのマイコンと C29 コアは、将来の高電圧アプリケーションの開発に役立ちます。これらの高機能マイコンを採用すると、設計の簡素化、コストの削減、信頼性の向上を通じて、現在のシステムを拡張することができます。