JAJT293 August 2022
サーバーはデータ通信を処理するのに不可欠であるため、サーバー業界はインターネットと並行して飛躍的に成長しています。サーバー ユニットは元々 PC アーキテクチャに基づいていましたが、サーバー システムは増加するネットワーク ホストの数と複雑さに対応できる必要があります。
図 1 に、データ センター内の一般的なラック サーバー システムと、サーバー システムのブロック図を示します。電源ユニット (PSU) はサーバー システムの中核であり、複雑なシステム アーキテクチャを必要とします。この記事では、電力バジェット、冗長性、効率、動作温度、通信と制御という 5 つのサーバー PSU 設計トレンドについて考察します。
21 世紀初期には、ラックまたはブレード サーバー PSU の電力バジェットは 200W~300W の範囲でした。当時、中央演算装置 (CPU) 1 個あたりの消費電力は 30W~50W の範囲内でした。CPU 消費電力の傾向を 図 2 に示します。
現在、サーバー CPU の消費電力は約 200W であり、熱設計電力が 300W に近づいているので、サーバー PSU の電力バジェットは大幅に増加して 800W~2,000W の範囲になっています。クラウド コンピューティングやインターネット上での人工知能 (AI) 計算など、ますます多くのサーバー計算要件に対応するために、サーバーは、CPU と連携して動作するグラフィックス処理ユニット (GPU) を搭載することもあります。これにより、サーバの電力需要が 5 年以内に 3,000 W 以上に増加する可能性があります。ただし、ほとんどのラックまたはブレード サーバーの PSU は、電流定格が最大 16A の AC インレットを使用しているため、コンバータの効率を考慮すると、240V AC 入力で 3,600 W 前後という限られた電力バジェットになります。したがって、近い将来においても、サーバーラック PSU の電力制限は、やはり 3,600 W のままでしょう。
データ センターの電源シェルフについては、サーバー PSU の設計者は、電流定格 20A のIEC (国際電気標準会議) 60320 C20 AC インレットを広く適用しています。PSU の電力バジェットは、AC インレットの電流定格によって制限されます。現在のデータ センター PSU では、約 3,000W の電力を供給できます。しかし、近い将来、データ センター PSU の電力レベルが 5,000W を上回る可能性があります。 PSU あたりの電力バジェットを増やして電力密度を高めるためには、AC インレットにバスバーを使用して入力電流定格を増やすこともできます。
サーバーシステムでは信頼性と可用性が重要であり、冗長 PSU が必要になります。1 台または複数の PSU に障害が発生した場合、システム内の他の PSU が取って代わって電力を供給することができます。
シンプルなサーバーシステムは 、1+1 の冗長性を備えています。つまり、システム内に稼働中の PSU が 1 つ、冗長 PSU が 1 つあります。複雑なサーバーシステムでは、システムの信頼性とコストの考慮事項に応じて、N+1 または N+N (N > 2) の冗長性を備えています。PSU を交換する必要がある場合にシステムの正常な動作を維持するためには、システムにホットスワップ (ORing 制御) 技術が必要です。また、N+1 または N+N システムでは、複数の PSU が同時に電力を供給するため、サーバー PSU に電流共有 (カレント シェア) 技術が必要になります。
PSU がスタンバイモードのとき、すなわち、メイン電源レールから出力に電力を供給していない場合であっても、ホット スワップ イベントが発生した後、直ちに最大電力を供給する必要があるため、電力段を常に稼働させる必要があります。スタンバイ モードでの冗長電源の消費電力を低減するために、「コールド冗長性」機能がトレンドになりつつあります。コールド冗長性の目的は、主電源動作をシャットダウンするか、またはバーストモードで動作し、冗長 PSU のスタンバイ消費電力を最小限に抑えることです。
2000 年代初期の効率仕様は 65% をわずかに上回る程度でした。当時、サーバー PSU の設計者は効率を優先していませんでした。従来のコンバータ トポロジで、65% の効率目標を容易に達成できます。しかし、サーバーは継続的に動作する必要があるため、効率を高めることで総所有コストを大幅に削減できます。
2004 年以降、80 Plus 規格は、80% を上回る効率を達成可能な PC およびサーバーの PSU システムに対して認証を提供しています。現在量産されているサーバー PSU のほとんどは、80 Plus Gold (> 92% の効率) の要件を満たしており、80 Plus Platinum (> 94% の効率) を達成できるものもあります。
現在開発中のサーバー PSU は、主として、より高度な 80 Plus Titanium 仕様を目標にしています。この仕様では、50% 負荷において 96% を超えるピーク効率が要求されます。表 1 に、80 Plus のさまざまな仕様を示します。
また、データ センターの PSU が採用している Open Compute Project (OCP) オープンラック仕様では、PSU は 97.5% を上回るピーク効率を達成する必要があります。したがって、ブリッジレス力率補正 (PFC) やソフト スイッチング コンバータなどの新しいトポロジと、シリコン カーバイド (SiC) や窒化ガリウム (GaN) などのワイド バンドギャップ技術を組み合わせることによって、PSU が 80 Plus Titaniumおよび OCP の効率目標を達成できるようになります。
サーバー PSU の熱管理の観点では、設計者は、ファンが配置されている PSU AC インレットの周囲温度をサーバー PSU の動作温度として定義しています。この動作温度は、2000 年代初期には 最大 45°C でした。現在では、サーバールームの冷却システムによって異なりますが、最大 55°C に達しています。
動作温度が高いほど、サーバー冷却システムのエネルギーコストを削減できます。データセンターの設備投資 (ハードウェア機器など) と比較すると、運用費用としてのエネルギーコストは、長期的には設備投資よりも高くなると予想されます。電力使用効率 (PUE) の規格によれば、
PUE = データセンターの合計電力 / 実際の IT 電力
表 2に示すように、PUE の数値が小さいほど、データセンターの効率が高いことを意味します。図 3 は、さまざまな動作温度での PUE の推定値です。たとえば、PUE が 1.25 のデータセンターでは、全体の消費電力の 10% だけが冷却システムに使われています。これは、サーバー PSU の動作温度をより高くする必要があることを意味します。
通信と制御は、長年にわたってサーバー電源において重要な役割を果たしてきました。2000 年代初期には、PSU の内部情報は、SMBus (System Management Bus) インターフェイスを経由してシステム側へ送信されました。2007 年に、PMBus (Power Management Bus) インターフェイスに、構成、制御、監視、障害管理、入出力電流と電力、基板の温度、ファンの速度制御、リアルタイム更新コード、過電圧 (電流、温度)、保護などの機能が追加されました。その後、データセンターの電源シェルフに対する需要の増加に対応して、CAN (Controller Area Network) バスがサーバー電源通信に採用されました。
また、電源管理コントローラも通信バスとともに進化してきました。2000 年代初期には、サーバー PSU の制御には、主にアナログ コントローラが使われていました。通信の必要性が高まるにつれて、そのような要求をデジタル コントローラで容易に実現できるようになりました。また、デジタル制御を使用すると、ハードウェア エンジニアのデバッグ作業が軽減され、PSU の設計段階や検証段階での人件費が削減される可能性があります。
体積が一定のままでサーバーの電力バジェットが増加すると、電力密度の要件が厳しくなります。電力密度は、2000 年代初期には 1 桁でしたが、新しく開発されたサーバー PSU では 100W/in 3 近くにまで向上しました 。トポロジとコンポーネント テクノロジーの進化を通じてコンバータの効率を改善することが、高い電力密度を達成するための解決策です。
電流、電力、効率のトレンドの場合と同様に、理想ダイオード / ORing コントローラは、小型パッケージで大電流を供給する必要があります。また、理想ダイオード / ORing コントローラは、監視、フォルト処理、過渡処理などの機能を統合して、これらの機能の実現に必要な総部品点数と PCB 面積を削減する必要があります。
たとえば、サーバー PSU 内の PFC 回路は、パッシブ PFC からアクティブ ブリッジ PFC、さらにはアクティブ ブリッジレス PFC へと進化してきました。絶縁 DC/DC コンバータは、ハード スイッチングのフライバック コンバータやフォワード コンバータから、ソフト スイッチングのインダクタ - インダクタ - コンデンサ共振や位相シフト フルブリッジ コンバータへと進化してきました。非絶縁 DC/DC コンバータは、リニア レギュレータや磁気アンプから、同期整流器を採用した降圧コンバータへと進化してきました。このようにして全体の効率が向上すると、内部消費電力が減少し、熱に関する問題を解決するために必要な労力が減少します。
サーバー PSU に適用されるコンポーネント テクノロジーも、IGBT やシリコン MOSFET から、SiC MOSFET や GaN FET などのワイド バンドギャップ デバイスへと進化しています。IGBT やシリコン MOSFET は、スイッチング特性が理想的ではないので、スイッチング周波数が 200kHz 未満に制限されます。ワイド バンドギャップ デバイスは、理想スイッチに近いスイッチング特性を備えており、ワイド バンドギャップ デバイスを使用すれば、より高いスイッチング周波数を実現して、PSU に使用する磁気部品の数を削減できます。
動作温度が上昇するにつれて、サーバー PSU 内の部品はより大きな熱ストレスに対処する必要が生じます。その結果、回路の進化も促進されます。たとえば、従来の実装では、スタートアップ時の入力突入電流を抑制するために、機械式リレーと抵抗を並列に使用します。しかし、サイズの大きさ、信頼性に関する懸念、低い温度定格により、サーバーの PSU 内にある機械式リレーは、今では、ソリッドステート リレーに置き換えられる傾向にあります。
> 180W/in3 の電力密度を備えた 3.6kW の単相トーテムポール ブリッジレス PFC デザイン、およびアクティブ クランプ設計で> 270W/in3 の電力密度を備えた 3kW の位相シフト フルブリッジは、サーバーにおける共通冗長電源の仕様を満たすことを目的としています (図 4)。
3.6kW PFC デザインでは、ソリッドステートリレーが高い動作温度に対応します。この場合、LMG3522R030 GaN FET を使って、ブリッジレス トーテムポール PFC トポロジを利用できます。「ベビー ブースト」機能により、バルク コンデンサの体積を低減し、電力密度を高めることができます。
3kW 位相シフト フルブリッジ デザインでは、LMG3522R030 GaN FET が、循環電流を低減するのに役立っており、ソフトスイッチングを実現できます。アクティブ クランプ回路がロスレス スナバとして機能することで、コンバータの効率が向上し、同期整流器の電圧ストレスが軽減されます。前述のすべての制御要件は、C2000™ マイクロコントローラをデジタル制御プロセッサとして動作させることにより達成できます。
以前 EDN.com で公開された記事です。