JAJT303 February 2024 UCC12051-Q1
従来、車載用電子機器は、自動車の始動に使われるものと同じ 12V 鉛酸バッテリから電力を得てきました。ジェネレータが作動しており、かつバッテリ ケーブルが切り離された際に発生する可能性がある最大 42V のサージによっても、電圧は安全特別低電圧 (SELV) の範囲 (60VDC 未満) に維持されます。そのため、車載回路での感電の危険をなくすためにプリント基板 (PCB) の配線間隔を気にする必要はありません。
電気自動車 (EV) のモーターは、より高い動作電圧 (400V または 800V) を必要とするため、今度は感電の危険が車載アプリケーションにおける懸案事項となっています。AC 商用電源に接続された回路と、商用電源から電力を得た SELV 回路との境界に適用されるものと同じ厳しい間隔規定が、今度は EV の高電圧バッテリに接続された回路と、12V システム (インフォテインメント、ボディ エレクトロニクス (主に照明) など) から電力を得て動作する SELV 回路の境界にも適用されるようになりました。
高電圧 EV バッテリで動作するトラクション インバータ内の大電力半導体スイッチを駆動するために必要とされるバイアス電源の多くは、低電圧 12V システムから電力を得ています。問題は、これらの絶縁型電源が多くの同相ノイズを自動車の 12V バッテリ ラインに注入した結果、108MHz にまで及ぶ車載 CISPR (Comité International Spécial des Perturbations Radioélectriques:国際無線障害特別委員) 25 伝導エミッションの限度値を満たせなくなることです。このノイズは主に、バイアス電源の絶縁トランスの 1 次側巻線と 2 次側巻線との間でメイン スイッチング波形が静電容量結合することで生成されます。1 次側グランドと 2 次側グランドとの間に接続された、高いサージ電圧定格を持つバイパス コンデンサ (Y コンデンサ) は小さなループを形成し、この同相ノイズをほぼ閉じ込めます。そして、バッテリ ラインでの同相フィルタ処理がこのノイズをさらに低減し、CISPR 25 の限度値に合格できるようにします。
高電圧 EV バッテリと、ほとんどの従来型車載回路で使用されている低電圧 12V バッテリ システムとの間の強化された間隔規定として、一般的な目標値は 8mm 間隔です。これは、「400VRMS、汚染度 2、材料グループ III」または「800VRMS、汚染度 2、材料グループ I」に対応します。間隔要件の詳細については、国際電気標準会議 (IEC) 60664-1 規格『低電圧システム内の機器の絶縁協調 - 第 1 部:原則、要求事項および試験』を参照してください。
IEC の厳格な間隔要件は、汚染された空気にさらされた表面での高電圧絶縁破壊 (沿面距離) と、空気自体の絶縁破壊またはアーク放電 (空間距離) によって決定されています。トランスや集積回路 (IC) など、1 次側と 2 次側の間のバリアを橋渡しする部品の中と、同様に、空気にも湿気にもさらされない多層 PCB の内層の中では、数キロボルトの高電位テストにバリアが耐えることができる限り、間隔の要件は大幅に緩和されます。強化絶縁バリア アプリケーションで使用される IC の一般的なテスト レベルは 5kV であり、これに合格すれば、4 層以上の PCB において、1 次側グランドと 2 次側グランドを内層に交互に配置できます。内層にも間隔の要件がありますが、それらの値は空気に露出した層の要件よりも大幅に小さい値です。一部の用途では、800V バッテリ システムでも 1mm の間隔で十分です。
テキサス・インスツルメンツは、UCC12051-Q1 絶縁型 DC/DC コンバータ のエミッション性能と CISPR 25 Class 5 の限度値との関係を実証するため、2 種類のボードを作成しました。このコンバータは、標準的なバッテリ ラインの電磁干渉フィルタを使い、5V 入力、5V 出力、100mA 負荷で動作するように設計されています。1 つのボード (未発売) は、4 層すべてで 1 次側と 2 次側との間に 8mm の間隔を確保しています。また、もう 1 つのボード (『車載用 CISPR 25 クラス 5 エミッションのための絶縁型 5V バイアス電源のリファレンス デザイン』) は、1 次側グランドと 2 次側グランドとの間隔を 1mm とし、2 つの内層で 1 次側グランドと 2 次側グランドを交互に配置しました。1 次側グランドと 2 次側グランドとの間の追加の実効容量の推定値は 11pF でした。CISPR 25 で懸念される最初の周波数がその 4 次高調波 (32MHz) になるように、UCC12051-Q1 の内蔵絶縁型コンバータを 8MHz でスイッチングさせました。
図 1 は、絶縁型 5V リファレンス デザインの回路図の抜粋です。この図は、コンバータの絶縁トランスによって生成された高周波ノイズを閉じ込めるためのコンデンサを 1 次側グランドと 2 次側グランドとの間に接続した IC 絶縁型コンバータを示しています。未発売のボードは、PCB 層の交互配置がないことを除いて、絶縁型 5V リファレンス デザインと同じです。
安全のための冗長性の必要性と、1 次側と 2 次側の端から端までの間隔を維持する必要性を考慮して、1 次側と 2 次側のグランドをブリッジするため 2 つの Y コンデンサ (C100 および C101) を直列に配置しました。したがって、実効的な容量は各コンデンサの値の半分です。場合によっては、必要な間隔を維持するため、3 つのコンデンサ (330pF のコンデンサ) を直列に接続することも必要です。
図 2 の左側の画像は、すべての層に 8mm の間隔がある未発売のボードです。右側の画像は、最上層と最下層が 8mm 間隔、内層はわずか 1mm 間隔とし、1 次側と 2 次側のグランド プレーンを重ね合わせた絶縁型 5V リファレンス デザインです。
この絶縁型 5V リファレンス デザインにおいて、この交互配置と、1 次側と 2 次側のグランドの間に追加された 11pF の静電容量は、200MHz を上回る放射エミッション対してのみ有効であると予想していました。実際、層を交互配置した結果、バイパス コンデンサ C100 および C101 を使わなくても、200MHz を上回るすべての周波数で放射エミッションが CISPR 25 Class 5 に合格できました (図 3)。層を交互配置しなかった場合、同じ周波数範囲で合格するのに、1 次側と 2 次側のグランドの間に Y コンデンサを追加する必要がありました。エミッション テストの構成については、テスト レポートをご覧ください。
驚いたことに、伝導エミッションの厳しい限度値が課されている 30~108MHz の範囲のフィルタ処理 (C101 および C102) が大幅に改善されました。1 次側グランドと 2 次側グランドとの間の 110pF の実効的な追加容量と交互配置を組み合わせることで、30~108MHz の範囲全体で伝導ノイズが約 4~8dB 低減されました。交互配置を行うことで、この周波数範囲の全域で、4dB 足りない不合格が 4dB の余裕を持った合格に変換されました。
図 4 と図 5 に、内層の交互配置のみが異なるこれらの 2 枚のボードの伝導エミッション スキャンを示します。どちらのスキャンでも、同じライン インピーダンス安定化ネットワーク (LISN)、同じ同相バッテリ ライン フィルタ処理、同じ 5V 出力の 100mA 負荷を使いました。
11pF (推定値) の容量値を持つ交互配置された層は、Y コンデンサの実効的な容量値 (110pF) を 11pF 増やす場合 (フィルタ処理の効果は約 1dB 改善) よりもはるかに大きくフィルタ処理に貢献しました。内層のグランド プレーンのおかげで、ブリッジ Y コンデンサの実効インダクタンスが減少し、これらの Y コンデンサは高い周波数の高調波をより効果的にシャントできるようになります。
このフィルタ処理性能の改善は、その目的が出力ノイズの制限、非絶縁型アプリケーションでのエミッションの制御、半導体のストレスと故障の低減のいずれであろうと、近接したグランド プレーンの利点に加えて、コンデンサのフィルタ処理性能を向上させます。
以前 EDN.com で公開された記事です。