JAJU908 November 2023
コイルは、接点を閉じる駆動力を提供するものであり、高電圧リレーの重要な部品です。コイルを流れる電流が磁界を生成し、可動鉄心を引き付けて接点を閉じたり、反対に接点を開いたりします。高電圧リレーのメーカーは、TE、Panasonic、GIGAVIC、HF など複数ありますが、すべてのリレー・コイルの駆動電流要件は類似しています。図 3-17 に示すように、電流プロファイルは 3 つのフェーズに分けることができます。最初のフェーズはピックアップ・フェーズと呼ばれます。このフェーズ中はリレーが確実に閉じられるようにするため、電流を十分に大きくし、十分長い時間にわたって維持する必要があります。2 番目のフェーズはホールド・フェーズであり、より小さい電流を継続してリレーを効率的に閉じ、リレーを閉じた状態で維持します。最後のフェーズは電流高速減衰です。このフェーズでは、電流が非常に急速に低下し、磁力が消失して接点を開きます。図 3-17 に、電流曲線における 3 つのフェーズの要件を示します。ピックアップ・フェーズとホールド・フェーズの実際の電流は、最大値と最小値を持つ PWM 信号にすることもできます。
一般的に、リレー・ベンダは 2 種類のリレー・コイルを提供しています。 1 つは内部エコノマイザ付きのエコノマイズ・コイルで、もう 1 つは外部エコノマイザを必要とする非エコノマイズ・コイルです。エコノマイズ・コイルには、2 コイル・エコノマイザ、電圧フィードバックによるパルス幅変調、電流フィードバックによるパルス幅変調など、いくつかの方式の中から、いずれかの内蔵エコノマイザを装備しています。この内蔵エコノマイザがあれば、コイルの 2 つの端子に電力を供給するだけで、必要な電流波形を生成できます。非エコノマイズ・コイルとは、内部回路を持たないコイルであり、必要な電流波形を生成するための外部回路を必要とします。
安全上の理由により、リレー・コイルを駆動するためには、ハイサイドとローサイドの両方にスイッチを使用することをシステムの観点から推奨します。ハイサイドまたはローサイドの一方だけにスイッチを使用している場合、短絡障害が発生した際に、コイルは常に励磁されたままになり、遮断できません。この障害は、ハイサイド・スイッチが入力に短絡した場合、およびローサイド・スイッチがグランドに短絡した場合に発生します。大きな電流がコイルに流れ、スイッチをオフにできないため、消費電力が大きくなってコイルが損傷する可能性があります。
この電流プロファイルを実現するには、複雑な設計を実装することが不可欠です。そうでなければ、コイルを流れる電流は、印加電圧をコイル抵抗で割った値で決まる最大値に達します。一般に、リレーの適切な動作を実現するために、ピックアップ・フェーズおよびホールド・フェーズについて、最大電流と最小電流がそれぞれの仕様に規定されています。一部のベンダは、各フェーズでの最小実効電流を規定しています。これらの電流は、電源電圧とコイル抵抗で決定される電流よりもはるかに小さくなります。これは、エネルギー消費を節約するだけでなく、リレーの動作寿命も延長します。
図 2-4 に、リレー・ドライバ回路を示します。
RY_24V は、リレー・コイルに電力を供給します。このデザインでは、LM74701-Q1 を使って、逆極性保護および順方向電圧降下の小さいレギュレーションを実現しています。TPS4H160-Q1 は、コイルの正端子に対して RY_24V をオン・オフするために使用しています。TPS4H160-Q1 は、8A の電流制限を備えています。この制限値は、十分な余裕をもってピックアップ・フェーズの電流に対応できる大きさです。TPS4H160-Q1 のバージョン B は、負荷電流監視機能に使用されます。バージョン B では、SEL、SEH の 2 本のピンを使用して、共有の電流センス機能を 4 つのチャネル間で多重化します。ULN2803C は、コイルの負端子に対して GND をオン・オフするのに使用しています。ULN2803C は、誘導性負荷スイッチング用の共通カソード・クランプ・ダイオード付きで高電圧出力が可能な、8 つの NPN ダーリントン・ペアで構成されます。各ダーリントン・ペアのコレクタ電流定格は 500mA です。ダーリントン・ペアを並列接続することで、最大 4A の大電流を供給できます。
ローサイド端子で短絡障害が発生した場合には、ハイサイド・スイッチ TPS4H160-Q1 がオン・オフ制御として機能し、コイルを保護します。TPS4H160-Q1 に対して、フリーホイール回路を付けることもできます。ハイサイド・スイッチをオフにしたとき、コイルを流れる電流が突然遮断されないようにするためです。これがなければ、コイルのインダクタンスに起因する非常に大きな電圧スパイクが発生し、部品が損傷する可能性があります。なお、ハイサイド端子とローサイド端子の両方に診断機能があると、BESS アプリケーションでは役に立ちます。