半導体業界では常に、より電力密度の高いシステムを可能にするような、製造技術の改良が求められています。このような回路の 1 つに H-ブリッジがあります。図 1 に示すように、H-ブリッジは単純な回路で、負荷の間に相互接続された 4 つの FET トランジスタで構成されます。H-ブリッジは、電源から負荷への電流の方向について、制御と管理が必要な場合に多く使用されます。負荷の誘導性が高い場合、H-ブリッジの制御によって、負荷に蓄積されているエネルギーも安全にグランドへ放出できます。H-ブリッジ回路は、モーター制御、DC/DC コンバータ、オーディオ・サブシステム、LED ライティングの制御に広く使用され、システムの安全性と信頼性を高めます。シリコン FET トランジスタで構成される H-ブリッジは、多くの場合に 95% を超える効率を達成できます。これに対して、GaN FET トランジスタでは 99% を超える効率が可能です。高効率の H-ブリッジと電流センシング・アンプを組み合わせることで、負荷電流の監視、管理、制御を行い、最終機器の安全性、信頼性、および総合的な電力効率を高めることが可能です。
完全な H-ブリッジ回路の構成と制御
H-ブリッジ回路は、FET のオン/オフによって制御できます。パルス幅変調 (PWM) 方式によって、電流フローを制御するための各種の波形を効率的に生成できます。PWM 波形のデューティ・サイクルを制御して、負荷へ流れる電流を効果的に制御できます。図 2 は、さまざまなデューティ・サイクルを持つ PWM 波形を示したものです。PWM ジェネレータのデューティ・サイクルを調整すると、負荷への出力電流を正確に制御できます。
PWM 波形を使用して H-ブリッジを制御するときは、バッテリからグランドへ短絡が発生しないことを確認するため、十分な検討が必要です。たとえば、図 1 では、Q1 と Q2 を同時にオンにしないでください。この場合、大電流の短絡が発生し、電子駆動回路が損害を受けます。完全な H-ブリッジ制御の可能な状態を、表 1 に示します。
Q1 | Q2 | Q3 | Q4 | 負荷の状態 |
---|---|---|---|---|
オン | オフ | オフ | オン | H-ブリッジから負荷へ電流が流れる |
オフ | オン | オン | オフ | 負荷への電流の方向が逆転する |
オフ | オン | オフ | オン | 負荷からグランドへ放電するための安全なパスが提供される |
オン | オフ | オン | オフ | 負荷に蓄積されている電流の再循環 |
オフ | オン | オフ | オン | 負荷に蓄積されている電流の再循環 |
オン | オン | オフ | オフ | バッテリからグランドへの短絡 |
オフ | オフ | オン | オン | バッテリからグランドへの短絡 |
オン | オン | オン | オン | バッテリからグランドへの短絡 |
H-ブリッジでのモーター制御用の電流測定
完全な H-ブリッジ・モーター制御での双方向電流センシングは、システムの監視と制御を安全性と信頼性の高い方法で行ううえで重要です。H-ブリッジでの正確な電流測定により、モーターのトルクを正確に制御、またはステッパ・モーターの位置を正確に設定できます。
図 3 に示すように、H-ブリッジで電流を測定する一般的な場所には、ハイサイド、インライン、ローサイドがあります。モーターは誘導性が高いため、PWM 出力は Low から High への遷移時にはオーバーシュートし、High から Low への遷移時にはアンダーシュートする傾向があります。アンプのオーバーシュートとアンダーシュートの特性は、正しい部品の選択に重要です。高速な応答時間でオーバーシュートとアンダーシュートの条件を維持でき、誘導性システムの過酷な要件に耐えられる電流センス・アンプが重要です。貴重な電流センシング・データをシステムに提供することで、早期故障につながる可能性がある、モーターやその他の誘導性システム機能の異常を検出するのに役立ちます。
H-ブリッジのさまざまな場所について、電流測定における長所と短所を、表 2 に示します。
電流測定 | 長所 | 短所 |
---|---|---|
ハイサイド | バッテリからの短絡負荷を検出して診断可能 | 高電圧同相モード・アンプ |
インライン | モーターの電流を直接測定、低い帯域幅のアンプ | 高い dv/dt の信号PWM のセトリング時間 |
ローサイド | 低コスト、低同相電圧 | 短絡した負荷を検出不能 |
INA240 電流センス・アンプは、-4V~80V の同相電圧範囲で動作できます。H-ブリッジ・アプリケーションでは、測定場所がハイサイド、インライン、ローサイドのいずれであっても、INA240 を使用できます。オフセットが低く (25μV)、電圧オフセットのドリフト係数も低い (0.25μV/℃) ことに加えて、ゲイン誤差 (0.2%) やゲイン・ドリフト係数 (2.5ppm/℃) も低いため、システムの温度にかかわらず正確な測定を行えます。高パフォーマンスの DC 仕様に加えて、INA240 は dv/dt 過渡で動作し、除去するよう設計されているため、インラインの測定場所でリアルタイムの負荷電流を測定できます。インライン・センシングには、クローズドループ制御システムの処理電力の要件が減少し、高い電力密度を実現できるという、システム・レベルの利点があります。
その他の推奨デバイス
INA241 は超高精度アナログ電流センス・アンプです。INA241 は、高電圧双方向アプリケーションで 1Mhz の帯域幅と組み合わせて使用することができ、H-ブリッジ・アプリケーション内のインライン制御用の高精度な動作で高速な応答時間を実現します。INA241 は、-5V~110V の同相電圧で電流を測定でき、-20V~120V の電圧に耐えることができます。
INA253 または INA254 デバイスは、超高精度の電流センス・アンプで、低誘導性、高精度の 2mΩ または 400μΩ シャントを内蔵しており、それぞれ精度は 0.1% または 0.5% で、温度ドリフトは 15ppm/℃未満です。INA253 は、TA = 85℃で ±15A 未満の連続電流を必要とするアプリケーションに限定されており、INA254 は TA = 85℃で ±50A 未満の連続電流を必要とするアプリケーションに限定されています。INA253 および INA254 内蔵シャントは、INA240 アンプに内部でケルビン接続されています。INA253 および INA254 デバイスは、高精度シャントを内蔵した INA240 アンプの性能上の利点を提供し、未校正のシステム・ゲイン精度は 0.2% 未満です。
INA281 は、モーターのハイサイド電流センシングなどの高電圧アプリケーションで使用できます。INA281 は -4V~110V の同相電圧で電流を測定でき、-20V~120V の電圧に耐えることができるため、電圧が負にスイングする可能性があるさまざまなアプリケーションに対応できます。
ローサイド・センシングのオプションとしてコストが最適化された電流センス・アンプである INA381 があり、コンパレータが内蔵されており、PCB のフットプリント・サイズを低減し、設計を簡素化します。
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