バッテリ試験装置は、バッテリ・パックの機能と性能を出荷前に検証するために使用されます。本書では、レギュレートされた電流と電圧の目標誤差レベルを達成する方法を説明すると同時に、バッテリ・テスタが実行する 3 つの主要な機能試験について説明します。
バッテリ・セルまたはバッテリ・パックは、組み立て後、完全に制御した充放電サイクルを各ユニットで最低 1 回実行することで、電力貯蔵デバイスとして機能するように初期化する必要があります。バッテリ・ベンダは、このプロセスを利用してバッテリ・セルの等級付けも行います。これは、目標仕様に基づいて各種性能グループにセルを分類する作業です。バッテリ初期化回路の詳細については、双方向バッテリ初期化システム電源ボードのリファレンス・デザインを参照してください。
ループ特性試験は、充放電シーケンスを繰り返すことでバッテリ・セルまたはバッテリ・パックのサイクル特性を評価します。これにより、そのバッテリ固有の寿命および信頼性パラメータを検証し、それらが規定の許容誤差の範囲内にあることを確認します。
機能試験では、バッテリ・パックが機能することを出荷前に検証します。これにより、各バッテリ・セルおよびバッテリ・パックが正常に動作することを確認します。
一般的なシステムでは、降圧コンバータをバッテリ充電用電源として使用し、昇圧コンバータをバッテリ放電に使用します。従来型の演算増幅器 (オペアンプ) と計測アンプ (INA) はどちらも、充放電電圧および電流を制御するために帰還ループで使用します。
バッテリを充電する場合、初段の電圧オペアンプと電流センス INA を使用してバッテリ・セルまたはバッテリ・パックのバッテリ電圧および充電電流を測定しながら降圧コンバータを有効にします。電流センス・オペアンプとセンス抵抗を切り替えることで、センス抵抗を流れる電流の向きに関係なく電流センス・オペアンプへの入力が正になるようにします。電圧ループと電流ループのそれぞれで、これらの前処理した信号が 2 段目のエラー・オペアンプへの入力となります。
各エラー・オペアンプで増幅された出力は、3 段目のバッファ・オペアンプへの入力となります。バッファ・オペアンプの出力は降圧コンバータの帰還ピンに入力され、出力電圧または電流を制御します。昇降圧機能は、出力電流要件に応じて複数の方法で実現できますが、以下の 2 つの手法が最も一般的です。
大電流要件の場合、内蔵の充電コントローラと外部 FET を使用できます。しかし、低コスト・システムで一般的な低電流要件の場合、この機能はディスクリートで実装できます (図 1-2 参照)。設計に際しては、エラー・オペアンプの正入力ピンの VV_ref と VI_ref を調整することで、降圧コンバータの目標出力電圧および電流を最適値に調整できます。
一般的なバッテリ充電用途では、電流ループ・エラー・オペアンプの出力電圧は HIGH で起動し、降圧コンバータは定電流出力になります。
次の段階では、電圧ループ・エラー・オペアンプの出力電圧が HIGH になり、降圧コンバータは定電圧出力になります。バッテリを放電する場合、昇圧コンバータが有効になります。オペアンプはバッテリ放電電流および電圧を制御し、バッテリ充電時と同様に機能します。昇圧コンバータはバッテリ電圧を VDC (通常 12V) まで昇圧します。
一般的なシステム要件:
上記の要件を満たすには、オフセット電圧 (VOS) と VOS 温度ドリフトが小さく、CMRR が高い TLV07 などのオペアンプが必要です。
これらのオペアンプは閉ループと電力段を構成し、エラー・オペアンプの反転入力の電圧を基準電圧 VV_ref および VI_ref にぴったり近付けることで、大きなループ・ゲインによる誤差を最小限に抑えます。
主要な誤差は電圧および電流センス・アンプに起因するため、高精度アンプを選定することが重要です。
例えば、レギュレートされた出力電流の目標値 ISET が 10A、電流センス抵抗 RSENSE が 20mΩ の場合、アンプの入力誤差は次のようになります。
レギュレートされた出力電圧の目標値 VSET を 4.2V に設定した場合、アンプの入力誤差は次のようになります。
温度は 25℃から 85℃まで上昇し、バッテリ電圧は 4V であると仮定した場合、弊社の低オフセット / 低オフセット・ドリフト・オペアンプの 1 つである TLV07 の実際の誤差を簡単に計算できます。
上記の計算値から、TLV07 と同等の高精度オペアンプが、システムの出力電流および電圧誤差要件を満たすのに理想的であることは明らかです。
次の例では、すべての帰還抵抗を内蔵しており、VOS_max = 150µV かつ dVOS/dTmax = 0.5µV/℃を達成しており、シンプルな設計のシステムで電流シャント・アンプ機能を実行するのに適した INA を使っています。
システムがさらに高い性能仕様を要求する場合、電流誤差と電圧誤差をそれぞれ 0.05% と 0.1% に変更できます。この場合、ゼロドリフトの INA188 などの高精度 INA を使用できます。上記の例と同じ条件 (60℃の温度上昇、4V の VBAT) を仮定した場合、INA188 による実際の誤差は VI_ERR_RTI = 67µV、VV_ERR_RTI < = 4.2mV です。
図 1-3 に示す電圧および電流センスの参考回路から判断すると、I+ と I- の寄与が電流センス抵抗に表れます。B+ と B- の成分はバッテリの正および負端子によるものです。実際のバッテリ電圧は 5V を上回る可能性があるため、オペアンプの電源電圧は通常 12V です。TLV07、INA188、INA125 はすべて最大 36V (±18V) の電源電圧に対応しており、システム要件を満たしています。
充放電サイクル中にバッテリ電流がほぼゼロになる可能性があるため、初段の電流センス・オペアンプにバイポーラ電源を実装して電流センス信号のクリッピングを回避します。エラー・オペアンプの各段で R12、C3、C4 と R6、C1、C2 にそれぞれタイプ III 補償を適用します。ループの安定性を確保するには、実際の電源設計に基づいてこれらの値を微調整する必要があります。
電圧および電流センシングは、バッテリ試験装置システムで最も重要な 2 つの測定です。さらに、この用途での最も重要なパラメータ特性は、高精度のオペアンプまたは INA の小さな電圧オフセットおよびドリフトです。これらのパラメータは、システムの誤差に対する初段アンプの寄与を最小限に抑えると同時に高性能センシングを確保する上で重要です。
デバイス | システムの利点 | |
---|---|---|
TLV07 (オペアンプ) デバイス |
オフセット電圧およびドリフトが小さいため、レギュレートされた電流と電圧の誤差を低コスト・システムでも十分に調整可能 | |
INA125 (計測アンプ) |
100dB 以上の高い CMR (同相信号除去比) が出力のダイナミック・レンジを拡大 (オフセット電圧およびドリフトが小さいためコストと時間のかかる較正が不要) | |
INA188 (計測アンプ) |
低オフセット電圧とゼロドリフトにより、高い CMR (104dB 以上) で同相干渉を低減させると同時に、レギュレートされた電流と電圧の誤差を低減 |
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