JAJA691 September 2021 TMAG5170 , TMAG5170-Q1 , TMAG5173-Q1
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できるだけ高い精度を達成するには、多くの場合、システムを低速で動作させる必要があり、その結果、システムの性能が低下します。高速、リアルタイム制御を必要とするアプリケーション、すなわち高速で高精度の測定を必要とするアプリケーションの場合、システム性能の低下は許容できません。これらの要件を持つアプリケーションの 1 つは、リニア・ ムーバーとも呼ばれるモータ搬送システムです。リニア・ ムーバーは、各ムーバーを個別に位置決めできるようにする組み込みマイクロコントローラ (MCU) を備えたスマート・トラック・システムで構成されます。 このシステム構成には、高い搬送速度、正確な位置決め、ライン上での製品の前後移動による製造効率向上など、オートメーション制御において多くのメリットがあります。
リニア・ ムーバーは、センサ・アレイを使用して、 ムーバーに取り付けられた磁石の絶対位置を追跡します。図 1-1 に示すように、センサは X 軸方向に一定間隔に配置されています。隣接するリニア 3D ホール・エフェクト位置センサを使用して、磁界の X 成分および Z 成分から角度を計算することにより、 ムーバーの絶対位置が決定されます。
精度と高速性が求められるリニア・ ムーバー・システムでは、高性能のリニア 3D ホール・エフェクト位置センサにより誤差を低減できます。内部要因としてのこれらの誤差の発生源は、感度、オフセット、直線性、温度変化によるノイズ、各軸に結合する入力換算磁気ノイズなどです。外部から発生する誤差には、多くの要因があります。機械的振動、磁石とセンサの間の意図しない空間的変動および公差、高速に変化する磁界、他軸角度測定などです。
高性能のリニア 3D ホール・エフェクト位置センサの重要な要素は、オンボードの角度 CORDIC (座標回転デジタル・コンピュータ) 計算機能で、 2 次元空間で反復的な三角法近似を実行して角度と振幅の両方を計算し、0.25 度の分解能を実現します。この計算をデバイス上で実行すると、磁気情報を後処理する必要がなくなります。
単軸測定、ゲイン調整、フィルタリング、データ変換など、個別の内部信号パスを持たないリニア 3D ホール・エフェクト位置センサでは、高速に変化する磁界が問題となります。誤差を低減するために、 3D ホール・エフェクト位置センサは、単一のデータ・コンバータと擬似同時サンプリングと呼ばれる機能を使って、最適なソリューションを実現します。
図 1-2 は、 Z と X1’ のサンプリングが同時に行われる理想的な状況を示しています。しかし、磁界が変化していること、および測定を行う信号パスが単一であることにより、これは不可能です。擬似同時サンプリングでは、 X1’ の直前と直後の X 成分 (それぞれ X1 と X2 と表示)の平均値を、Z に対応する X 軸の値として使用します。 磁界の変化が比較的短い期間に対して線形であると仮定すれば、この結果は、X 軸と Z 軸を同時にサンプリングした値に近似しています。
リニア 3D ホール・エフェクト位置センサは、通常、パッケージと同一面内および垂直方向の磁界を検出できるセンサ・テクノロジーを搭載しています。これらは 2 つの別のセンサであるため、それぞれの磁気ノイズは異なります。したがって、各軸のサンプルの平均をとってノイズフロアを均等化すれば好都合です。最大 32 個のサンプルを平均できるリニア 3D ホール・エフェクト位置センサを使用すると、ノイズ・フロアを大幅に低減できます。
TMAG5170のような高速で高精度の測定を実施できる高精度 3D ホール・エフェクト位置センサは、このアプリケーションで非常に役に立ちます。TMAG5170 は、最大フルスケール感度誤差 ±2.6% であり、(軸ごとの) 感度ミスマッチ誤差が小さく、温度ドリフト係数も小さいので、非常に高い精度を実現しています。このように精度が高いため、システム・レベルの較正が不要になり、総システム・コストを低減できます。さらに、 TMAG5170 は最大 20kSPS のサンプル・レートを実現しており、多くのリニア動作アプリケーションに十分な高い速度になっています。サンプル・レートの影響の詳細については、『Angle Measurement with Multi-Axis Hall-Effect Sensors』 (英語) アプリケーション・レポートを参照してください。
十分な測定精度と速度を保ちながら、消費電力をできる限り抑えることは、移動や位置を監視するシステムには重要です。これは、磁気センサの消費電力がシステムの合計電力の大部分を占める可能性のある、バッテリ駆動または低消費電力のシステムにとって不可欠です。この例の 1 つは、 4 ~ 20mA ループを通じて、プログラマブル・ロジック・コントローラと通信する、工場の現場向けリモート・モニタです。
その他のバッテリ駆動または低消費電力アプリケーションの例として、ビル・セキュリティ・システムやホーム・セキュリティ・システムで使用されているドア・センサや窓センサがあります。角度検出機能を搭載したドア・センサは、開閉イベントを検出し、ドアがどれだけ開いたかを測定することができます。この機能は、リング磁石と、従来のドアヒンジに組み込まれたリニア 3D ホール・エフェクト位置センサを使用 して実装できます (図 2-1を参照)。低消費電力アプリケーションの場合、リニア 3D ホール・エフェクト位置センサは、5Hz 以下の低い周波数で動作する低消費電力のデューティ・サイクル・モードで使用する必要があります。
このアプリケーションでリニア 3D ホール・エフェクト位置センサを使用する利点の 1 つは、2 軸だけの感度で角度を監視し、 3 番目の軸を使用して、悪意をもってセンサを騙そうとする磁界を検出できることです。 たとえば、センサに磁石を置き、システムをだましてドアがまだ閉まっていると錯覚させるなどです。
TMAG5170 は、システム の消費電力を最適化するためのさまざまな電力オプション (表 2-1を参照) を備えています。アプリケーションの要求に応じて、センサをフル・アクティブ変換、スタンバイ、デューティ・サイクル、スリープ、またはディープ・スリープに設定できます。
電力モード | 動作 |
---|---|
アクティブ変換 | 継続的なデータ・ストリームを生成します。磁界のフル分析または処理に使用します。消費電流の代表値は、 数mA 程度 (低い 1 桁の範囲) です。 |
スタンバイ | デバイスは低消費電力状態であり、 MCU から指示があれば測定を開始します。消費電流:1mA 未満 |
デューティ・サイクル | デバイスはスリープ・モードに移行し、指定された間隔でウェークアップして測定を行います。消費電流は 1Hz で 1.3µA です。 |
スリープ | デューティ・サイクル・モードと同様ですが、デバイスは自動的に測定を開始するのではなく、 MCU からの指示を待って測定を行います。 |
ディープ・スリープ | デバイスは実質的にパワーダウンしており、消費電流は 5nA です。 |
ホール・エフェクト・センサを使用した設計で最も重要な唯一の設計上の検討事項は、磁石に対するセンサの配置です。センサの配置にフレキシビリティがないと、最終製品のフォーム・ファクタが望ましくないものになる可能性があります。新規設計のさまざまな機械的側面は、多くの場合、設計プロセスの初期段階では十分に定義されていません。したがって、リニア 3D ホール・エフェクト位置センサは、選択可能な磁気感度範囲、ゲインおよびオフセットの補正、可変な更新レート、温度補償など、設定を変更できる機能を備えている必要があります。TMAG5170 はこのような機能を提供します。このデバイスは汎用性が高いため、あらゆる設計フェーズで構成変更が可能で、さまざまなアプリケーションに適しています。
一般に、温度が上昇すると、磁石の残留磁気すなわち磁束密度を示す値は減少します。さまざまな種類の磁石 (ネオジム鉄ボロンやフェライト磁石など) を使用したシステムの性能を向上させるために、温度補償機能を備えたリニア 3D ホール・エフェクト位置センサを使用すると、より高いフレキシビリティが得られます。TMAG5170 は、オンボードで設定可能な温度補償機能を搭載しており、磁石のみ、またはセンサのみが温度変化にさらされる場合はオフにすることもできます。
ジンバル・モーターは、特定の感度範囲やその他のパラメータに合わせた構成変更を必要とするアプリケーションの例です。ジンバル・モーターは、MCU に角度測定情報を提供する、ハンドヘルド・カメラ・スタビライザやドローンで使用されています。これらのモーターは、動きが発生したときにモーターの位置を常に調整することで、映像を安定させます。正確かつ高精度に角度を測定できる、軸上または軸外に配置されたセンサ (図 3-1を参照) を使用すると、磁石とセンサの配置の柔軟性を持たせることができます。
家電製品、試験および測定機器、パーソナル・エレクトロニクス (図 3-2を参照) のヒューマン・インターフェイスおよび制御では、ダイヤルが回るたびに磁界を高精度で測定できるリニア 3D ホール・エフェクト位置センサのメリットを活用できます。磁界情報を使って、いずれか2 つの次元 (XY、YZ、または ZX) 間の角度位置を計算します。 この図ではTMAG5170 のセンサ同一平面外 (アウトオブプレーン) の構成でダイヤルが実装されていますが、図に示す 3 つの方法のどれでも実施可能であり、柔軟性がさらに高くなります。X および Y 成分の大きな変化を監視してプッシュ検出を実装できるほか、 3D 感度を使って理想的な構成からのずれを検出することができます (3 番目の未使用 Z 軸を監視)。 これにより、ダイヤルの磨耗や破損に対する予知保全のアラートを実現できます。
回転シャフトの角度測定を計算する際に、軸上での測定 (センサが回転磁石の直下または直上にある) であれば、等価な大きさの磁界ベクトルが得られるので、最も正確な磁界測定が可能になります。しかし、図 3-2 に示すヒューマン・インターフェースとコントロール・ノブの場合、シャフトがセンサの配置を妨げているため、軸上の実装は不可能です。X および Y 成分を監視することで、磁界は正弦関数と余弦関数で表現され、アークタンジェント関数を使用すればそれらの間の角度を計算できます。
図 3-3 に、ダイヤルのように一定速度で回転する磁石により生成される磁界を示します。BX は X 方向の磁界、BY は Y 方向の磁界を表しています。これらの正弦波形および余弦波形 (BX および BY) は、軸上での測定結果を表します。同一平面外 (アウトオブプレーン) 実装 (先に 図 3-2 で示したもの) では、これとは異なる磁界強度が得られるため角度計算が複雑になります。この場合、 1 つの磁界ベクトルの大きさが他の磁界より小さくなる可能性があります。図では、これを B X に対して BX(OFF-AXIS) と示しています。2 つの適切な波形を得る代わりに、BX(OFF-AXIS) 磁界では歪みが生じているので、角度計算誤差が発生します。
この他に、磁界測定で考慮する必要のあるもう 1 つの要素はオフセットです。測定値全体をオフセット (図 3-3では 3 つの下向き矢印で表示) の分だけ減少させて、BX(OFF-AXIS)の磁界ベクトルに一致する BX(OFF-AXIS, OFFSET)の磁界ベクトルを効果的に生成することにより、小さな磁界オフセットを補正し、正確な回転角度計算を行います。単純化のため、このオフセットは 1 つの測定軸のみにあるものとしています。実際には、すべての軸に固有のオフセットが存在し、補正が必要です。オフセットを除去した状態で、磁界ベクトルの 1 つを正規化して、他のベクトルと一致させる必要があります。この例では、BX(OFF-AXIS) に合わせて B Yを正規化します (BY(NORMALIZED)と表示)。この大きさは BX(OFF-AXIS)を BYで割った値に等しくなります。このゲインおよびオフセット補正を行うように TMAG5170 を設定すると、最も正確な角度計算が保証されます。また、設計にとって最も便利な場所にセンサを配置できる柔軟性も備えています。