JAJA659A March   2019  – March 2022 INA180-Q1 , INA181-Q1 , INA186-Q1 , INA240-Q1

 

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車載用 12V バッテリの電流を監視することで、各種アプリケーションにとって重要なデータ (例:モジュールの消費電流、負荷診断、負荷フィードバック制御) が得られます。TI の電流センシング・ポートフォリオは、各種機能を内蔵し、低電圧レールからの電源供給でも 12V 環境で動作し、車載認定済みのアナログおよびデジタル電流センス・アンプ (CSA) デバイスでこの分野に対応できます。本書では、この分野の電流センシングに対応するための推奨デバイスおよびアーキテクチャを紹介します。

GUID-68403AB8-4D81-42DF-B4AD-FD80012C10FD-low.gif 図 1-1 12V レールの電流センス・アンプ

車載分野には、電気的過渡現象保護規格 ISO7637-2 および ISO16750-2、ジャンプ・スタート、逆極性、コールド・クランクなどの条件に由来する制約があります。一般に、システムレベルの保護および抑制方式を採用することで、こうした電圧サージ条件から下流の回路を保護できます。これらのソリューションに含まれるデバイスの種類には、スマート・ハイサイド・スイッチ、スマート・ダイオード、その他のディスクリート・デバイスがあります。これらの製品は電流センシング機能を内蔵していることもありますが、多くの場合、精度はそれほど高くなく (最大誤差 ±3%~±20%)、ダイナミック・レンジも限られています。

TI の専用電流センサは、車載環境の全温度範囲でも低消費電力かつ高精度 (誤差 1% 未満) です。

整合された内部ゲイン・ネットワークと入力オフセットのゼロ設定により、ディスクリート・ソリューションまたは補足的に電流センシング機能を内蔵した IC と比較して、全温度範囲で測定ドリフトを低減できます。TI の電流アンプの統合技術により、温度較正とシステム較正を不要にし、低コスト化できます。

通常、一般的なシステム保護方式では電圧サージに対して完全には抑制および保護できないため、これらの主要な規格は代表的な電圧生存性要件として読み替えられています。システムによっては、電流センサは負荷ダンプ、逆バッテリ、高速負荷スイッチング、誘導性キックバック電圧に耐える必要があります。例えば、12V バッテリ・レールで動作するには、負荷ダンプ条件中に少なくとも 40V の電圧に耐える必要があります。そのシステムの最悪条件の VCM を満たす入力同相電圧 (VCM) 定格を持つ電流センサを選定する必要があります。さもなければ、最悪条件下でデバイスを保護するために入力電圧をクランプする機構が必要です。

TI は、12V 車載バッテリで動作し、40V 以上の電圧レベルに耐える各種の電流 (電力) センシング・アンプを提供しています。究極的には、超高精度、ゼロドリフト、広帯域幅、低コストのソリューションを提供しています。表 1-1 に、TI の製品選定ツールをオンラインで利用して、40V の電圧に耐える必要がある車載 12V バッテリ・レールのハイサイド電流センシングに適した製品をまとめました。表 1-1 のすべての製品には 20V/V~500V/V の複数のゲインを持った製品バリエーションがあることに注意します。

表 1-1 12V 車載バッテリ監視用電流センス・アンプ
TI の電流センス・アンプ
対応可能な
VCM
VOS_MAX
(25℃)
BW 最大ゲイン誤差 (25℃) IQ_MAX
(25℃)
特長
INA240-Q1 -6V~+90V ±25µV 400kHz ±0.2% 2.4mA PWM 除去機能 (極めて高い CMRR)、AEC Q100 (温度グレード 1 および 0)
INA190-Q1 -0.3V~+42V ±10µV 45kHz ±0.3% 65μA INA186-Q1 の高精度バージョン。広いダイナミック・レンジ。
INA186-Q1 -0.3V~+42V ±50µV 45kHz ±1% 65μA 小さな入力バイアス電流 (IB = ±500pA (標準値))。広いダイナミック・レンジ。1.7V の電源電圧 (VS) で動作。
INA180-Q1 (INA181-Q1) -0.3V~+28V ±500µV 350kHz ±1% 0.5mA シングル、デュアル、クワッド・チャネル。単方向または双方向バージョン

表 1-1 によると、INA240-Q1 は最も高性能ですが、12V バッテリの監視には最適化されていません。それに比べて INA186-Q1 は、低消費電力、低コスト、小型パッケージです。INA186-Q1 は高い AC CMRR (140dB) と広いダイナミック・レンジ (全温度範囲で VS - 40mV までの VOUT 振幅) を特長としています。また、INA186-Q1 は、大半の CSA と比較して差動入力抵抗値を 3 桁増加させる独自の容量性結合入力アーキテクチャを採用しています。入力インピーダンスが高いため、ゲインへの影響を最小限に抑えながら、デバイス入力での電流ノイズを除去できます。データシートの式によれば、R1 = 1kΩ の場合、A1 (25V/V) 以外のすべての製品バリエーションで実効ゲインは 0.0435% 低下します。図 1-2 に、バッテリ監視での INA186-Q1 の使用方法を示します。(出力ではなく) 入力でフィルタ処理することは電流ノイズが増幅されないことを意味します。そのため INA186-Q1 は、ADC に対して出力フィルタを使用せずに、よりきれいな信号で ADC を駆動できます。

GUID-1E87DF9B-8D02-4542-A663-49CBCF881751-low.gif 図 1-2 12V バッテリで動作する INA186-Q1 (ノイズ・フィルタ処理あり / なし)

幅広い電流センス製品を取りそろえているため、一般的な入力保護方式を採用した場合でもトレードオフを最適化できます。選択したデバイスの同相電圧の絶対最大定格が目標の最大電圧サージを上回れない場合、入力保護が必要です。保護のために、複数の受動部品と共に、過渡電圧サプレッサ (TVS) またはツェナー・ダイオードを電流センサの入力に接続する必要があります。図 1-3 に、コストを最適化した電流センサである INA181-Q1 を使用した例を示します。

GUID-39D153CE-F7E7-44F4-B10B-01DD239E5E35-low.gif 図 1-3 INA181-Q1 と 28V を超える VCM に対応する入力保護

図 1-3 で、ダイオード D1 はデバイスの入力 VCM を 28V (INA181-Q1 の絶対最大定格) 未満にクランプします。R2 (任意) は、D1 と CSA の内部 ESD 構造とが同時にオンになるのを防ぐために使用できますが、通常は必要ありません。必要な場合、R2 を R1 より小さくします。ダイオードの電力定格は目標の最大上昇電圧に依存しますが、それ以上にターンオン電流に依存します。R1 抵抗を大きくすることでダイオード電流を低減できますが、これによって回路の実効ゲインが下がり、より重要なことには、ほとんどの電流センサ (INA186-Q1 以外) でゲイン変動誤差が増加します。

設計時には、INA181-Q1 の内部抵抗ゲイン・ネットワークと差動入力抵抗の値から、データシートの式を用いて R1 使用時の実効回路ゲインを計算できます。外部抵抗を追加すると、システム・ゲイン変動誤差が増加してデータシートの限度値を超過することに注意します。これは、レシオメトリックになるように INA181-Q1 の内部抵抗は整合されていますが、これらの内部抵抗は標準値になるようにトリミングされている訳ではないという事実によります。そのため、これらの抵抗の絶対値は最大 ±20% のばらつきを持っています。

総合的に見て、入力保護を追加した場合の総コストは比較的低く、ゲイン誤差変動の増大も許容範囲内であるため、INA181-Q1 を選択することも可能ですが、より高い VCM 定格を持つデバイスを使用する方が、全温度範囲にわたる高精度電流センシングをより簡単に少ない部品数で実現できます。

その他の推奨デバイス

広い VCM 範囲または内蔵機能 (例:シャント抵抗、コンパレータ) を必要とするアプリケーションについては、表 1-2 を参照してください。

表 1-2 その他の推奨デバイス
デバイス 最適化されるパラメータ 性能のトレードオフ
INA253 2mΩ のシャント抵抗を内蔵 (ゲイン誤差仕様に含まれています)。エンハンスド PWM 除去機能 IQ
INA301-Q1 BW とスルーレート。可変スレッショルド、アラート応答時間 1µs の内部コンパレータ 40V の最大 VCM
INA302-Q1INA303-Q1 BW とスルーレート。可変スレッショルド、アラート応答時間 1µs のデュアル・コンパレータ出力 40V の最大 VCM
LMP8278Q-Q1 -12V~+50V の VCM に対応。可変ゲインおよびフィルタリング。バッファ付き出力 VOS
INA1x8-Q1INA1x9-Q1 60V 以上の VCM。電流出力 (可変ゲイン)。トリミング済み入力抵抗。電源オフ時の IB が小さい VOS