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多様なアプリケーションで組込みシステムの普及が進んでいることから、単一の SoC に高度な統合が求められています。このような高度な統合は、消費電力の増加、熱システム・コストの増加、性能の低下、バッテリ寿命の短縮につながります。これらの課題を克服するためには、対象となる組込みシステムでの SoC の使用状況に応じて、SoC の定義、アーキテクチャ化、設計を行う必要があります。アプリケーションはそれぞれ異なっているため、SoC の動作設定を適切に選択すると、最適な性能と電力を実現できます。このホワイト・ペーパーでは、テキサス・インスツルメンツの次世代 Sitara MPU デバイスである AM62x プロセッサについて開発された新しい機能と手法について説明します。
AM62x プロセッサは、64 ビット・アーキテクチャで高性能のクワッド・コア Cortex A53 と、強力な 3D グラフィック・エンジン、汎用用途または安全のための M4F MCU チャネル、アプリケーション・ドメインによる干渉からの完全な解放 (Freedom from Interference:FFI)、基礎的セキュリティと車載 / 産業用セキュリティを実現するデュアル・コア M4F、デバイス・リソースと低消費電力管理専用の R5F コアを備えています。 このデバイスのモジュール型アーキテクチャは、コネクティビティ、電力、セキュリティ、安全性、 コストなどの重要なシステム・リソースを犠牲にすることなく、複数の低電力モードをサポートして高性能を実現します。図1に、AM62x プロセッサの概略ブロック図を示します。
AM62 プロセッサは、動的消費電力と静的消費電力を低減するために、いくつかの重要な手法を使用しています。表 2-1 に、AM62x パワー・マネージメントの機能と利点を示します。
主な機能 | AM62x のパワー・マネージメント | 利点 |
---|---|---|
低消費電力モード | ディープスリープ、MCUのみ、スタンバイ、部分的 /O | バッテリ動作寿命の延長 |
アクティブ・パワー・マネージメント | 125MHzでの低バス・クロック周波数動作 (OPP Low) | 低い動的消費電力で、アクティビティの少ない使用事例に対応 |
ダイナミック周波数スケーリング (DFS) | 熱管理 | |
電源の簡素化 |
最大 1.25GHz (A53、0.75V 時) 最大 1.4GHz (A53、0.85V 時) |
0.75V のコア電源で、差別化された低消費電力性能を実現 0.75V のコア電源で高性能を実現 |
単一のコア電源 よりシンプルな電源ドメイン |
電源ソリューションの低コスト化、パワー・マネージメント用ソフトウェア制御の簡素化 | |
内蔵 LDO のシンプルな電源シーケンスにより、低コストのディスクリート電源ソリューションを実現 |
システム全体の電源ソリューションを容易に最適化 低コスト電源ソリューション |
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コンパニオン PMIC | 新しい低コスト PMIC | AM62x 向けに最適化された低コスト PMIC |
AM62x プロセッサは、さまざまなレベルの消費電力で最適化された低消費電力モードをサポートしています。すなわち、部分的 I/O モード、ディープスリープ・モード、スタンバイ・モード (mW未満 から 数mW まで) があります。 表 2-2 に、AM62x プロセッサでサポートされる各種低消費電力モードの概要を示します。
低消費電力モード | ウェイクアップ発生元 | アプリケーションの状態と使用事例 |
---|---|---|
部分的 I/O | CANUART I/O バンク・ピン | CANUART I/O バンクの I/O ピンからの I/O ウェークアップ機能を維持するために、CANUART I/O バンク の I/O ピンを除いて、SoC全体がオフになります。 |
ディープスリープ | GP タイマ、RTC タイマ、UART、I2C、MCU GPIO0、 I/O デイジー・チェーン、USB ウェークアップ・イベント | コア・ドメインのレジスタ情報は失われます。コア・ドメインのオンチップ・ペリフェラル・レジスタ (コンテキスト) 情報は、このモードに移行する前に、アプリケーションによって DDR に保存する必要があります。DDR はセルフ・リフレッシュになっています。ブート ROM が実行され、ウェークアップのためのペリフェラル・コンテキスト回復に分岐して、その後システムが再開されます。このモードは主に、バッテリ寿命またはバックアップ動作のための RAM へのサスペンドに使用されます。 |
MCU のみ | MCU チャネルで、ディープスリープ・ウェークアップ・イベント、割り込みイベントをサポート | MCU サブシステムは、MCU の PLL クロックで動作します。それ以外の SoC のステータスは、ディープスリープと同じです。DDR はセルフ・リフレッシュになっています。この低消費電力モードでは、MCUドメインのペリフェラルを使用してアプリケーションを実行できます。 |
スタンバイ | いずれかの SoC 割り込みイベント | オンチップの内容は完全に維持されます。いずれかの SoC 割り込みイベントによって、この低消費電力モードからウェークアップ・イベントを発生させることができます。A53 および MCU M4F は、WFI またはパワーダウン状態です。DDRメモリはセルフ・リフレッシュになっています。このデバイスは、ウェークアップ/ MCU ドメイン以外のペリフェラルを使用して低レベルの処理を実行でき、これらのペリフェラルからのウェークアップをサポートします。 |
部分的 I/O:CANUART I/O バンクの I/O ピンと小規模なロジックがアクティブになり、SoC の残りの部分はオフになります。ユーザーは、I/Oピンを使用して複数の I/O ウェークアップ・イベントを集約し、PMIC_LPM_EN ピンを切り替えて、I/O ウェークアップ・イベントがトリガされたときに PMIC またはディスクリート電源ソリューションをイネーブルにできます。I/O ウェークアップ・イベントに関する情報は、CANUART I/O バンクの MMR に記録されるので、ソフトウェアがコールド・ブートとウェークアップを区別してウェークアップ・イベントに迅速に応答するのに役立ちます。このモードを使用して、CAN ウェークアップまたはイーサネット・ウェークアップをサポートできます。
ディープスリープ:ディープスリープ・モードは、スタンバイまたは MCU のみモードよりも低い消費電力を実現します。通常、ディープスリープモードは、処理や高性能が必要なイベント発生を待っている間、消費電力を非常に低くしたい場合に使用します。ディープスリープは、 DDR をセルフリフレッシュにした状態でも消費電力が最小のモードであるため、ウェークアップ・イベントは完全なコールド・ブートを必要とせず、ウェークアップ・レイテンシを大幅に短縮できます。RTC または他のタイマ機能が不要な場合は、両方の発振器を無効にすることで、このモードで最小の消費電力を実現できます。
MCU のみ:MCUのみモードは、低消費電力モード時に低レベルの処理を必要とする、低消費電力の使用事例で使用できます。SoC のステータスは、ディープスリープと同じですが、MCU チャネルが完全にアクティブであり、MCU チャネル・リソースとペリフェラルを使用してアプリケーションを実行できます。MCU チャネルのいずれかの割り込みイベントによって、MCU のみモードからウェークアップを開始できます。また、ディープスリープでサポートされているウェークアップ・イベントは、MCU のみモードからのウェークアップもトリガすることができます。
スタンバイ:デバイスをスタンバイ・モードに設定して、低いアクティビティ・レベルでの消費電力を低減できます。この第 1 レベルのパワー・マネージメントを使用すると、デバイスのコンテキストを維持して、高速な復帰時間を実現できます。スタンバイ状態では、アクティブ・モードより消費電力が低くなりますが、電源オフになったドメインのコンテキストをオンチップ・メモリまたは DDR に保存して、ウェークアップ時に正常に復帰するために、そのコンテキストを回復する必要があります。