JAJT296 January 2021 LMG3422R030 , TMS320F28388D
Brent McDonald
電気自動車 (EV) の電力を最適化するため、オンボード チャージャ (OBC) は高効率、軽量、小型である必要があります。EV が軽量であるほど、車両を動かすために必要な電力も少なくてすみ、全体的な効率が向上します。
OBC は、適切なグリッドから車両への電力供給 (G2V) 電圧および現在のバッテリ充電アルゴリズムをサポートする必要があります。そのため、OBC は電力グリッドと EV の間で電力コンディショニング インターフェイスとして機能します (図 1)。さらに、ピーク容量が変動する可能性のある再生可能エネルギー源を EV で補完できるように、自動車からグリッド (V2G) への電力供給能力も必要です。
電力グリッドと EV 内部の高電圧バッテリの間のインターフェイスを容易にするため、電磁干渉 (EMI) フィルタ、力率補正 (PFC)、絶縁型 DC/DC 電力段が必要です。図 2 に、このアーキテクチャを示します。
この記事では、DC/DC 段についてのみ説明します。執筆時点での DC/DC 段の一般的な選択肢は、コンデンサ - インダクタ - インダクタ - インダクタ - コンデンサ (CLLLC) (図 3) とデュアル アクティブ ブリッジ (DAB) トポロジ (図4) の 2 つです。どちらのオプションも、小型のソリューション サイズを実現でき、G2V と V2G に必要な電力要件を満たすことができます。
これら 2 つのトポロジ オプションが OBC のサイズと性能にどのように影響するかを理解するため、バッテリ充電フェーズ (G2V) のみに焦点を当て、スイッチで許容可能な最大バッテリ電力を供給して充電時間を最短にする方法を検討してみます。たとえば、次の動作条件下のスイッチについて考えてみます。
式 1 を使用すると、スイッチの TJ は 125℃となります 。
TJ=PDISS⋅ϑJA+TA (1)
この設計のスイッチは、125℃を超える温度を許容できないため、この条件がスイッチを破損することなく OBC でバッテリに供給できる最高の電力レベルを表します。目標は、スイッチ内の消費電力を最小限に抑え、バッテリをできるだけ高速に充電することです。
スイッチの電力損失の大部分は主に、2 乗平均平方根 (RMS) 電流と、スイッチがゼロ電圧スイッチング (ZVS) を維持する能力の 2 つの要因によるものです。
静電容量が小さく、ターンオン / ターンオフが高速なテキサス・インスツルメンツの GaN スイッチを使用すると、シリコンを使用する場合と比べ、コンバータが高いスイッチング周波数で動作できます。高周波動作は、リアクティブ素子のサイズに直接影響するため、トランス、インダクタ、コンデンサを小型化できます。まず DAB と CLLLC のベースライン設計を確立し、その後コンバータの ZVS 範囲を拡張するための回路の改善方法を検討します。
表 1 に、OBC の基本的な要件を示します。
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DAB と CLLLC 両方の詳細な設計を作成すると、実行可能性が最も高いタンク設計を判断するのに役立ちます。これを行う手順はここでは説明しませんが、スイッチ内での電力損失を適切に近似し、コンプライアンスと全体的な機能を検証するには、回路シミュレーションが最適です。さまざまな電力レベルと入出力電圧にわたってバッチ モードで実行するようシミュレータを設定し、DAB と CLLLC のインダクタ、コンデンサ、巻線比のさまざまな値をテストしました。各シミュレーション実行で、VIN、VOUT、スイッチ電力、RMS 電流、スイッチ ZVS 条件などのパラメータのデータを収集しました。表 2 に、最適化された 2 つのトポロジ設計を示します。
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図 5 に、主なシミュレーション結果を示します。各トポロジには 8 個のスイッチがありますが、これらのグラフでは電力損失が最大のスイッチのみをプロットしています。各スイッチに 3 つのグラフがあります。1 つ目は、スイッチ内の総損失を示します。2 つ目は、このスイッチを流れる RMS 電流を示します。右端の 3 つ目のグラフは、特定の GaN スイッチをオンにしたときに発生するワーストケースのドレイン - ソース間電圧を示します。これは、ZVS がどれだけ損失するかを表します。この電圧が高いほど、スイッチでの損失が大きくなります。したがって、スイッチの RMS 電流と、ZVS を維持する能力の組み合わせが、デバイス内の電力損失の最大部分を占めます。
これらの事実を踏まえてデータを慎重に検討すると、CLLLC のほうが ZVS を維持できる動作範囲が広いことは明らかです。したがって、CLLLC スイッチの電力損失が小さいのは、ZVS の維持能力が高いことによるものです。ただし、6.6kW での動作時には、DAB のほうが性能が優れています。これは、範囲のほとんどの部分で ZVS が良好で、RMS 電流が低いことによるものです。これらの結果に基づき、RMS 電流に悪影響を及ぼさずに ZVS を改善する方法を検討してみます。
図 6 および図 7 に、図 3 および図 4 と同じ CLLLC および DAB 回路にインダクタ (黄色で表示) を追加したトポロジを示します。このインダクタは、ZVS を維持する動作範囲を拡張するのに必要な追加電流を供給します。ここでは、これらの追加インダクタが常時動作している状況を考えてみます。
表 3 に、新しいインダクタの値と、先ほどと同じ他のタンク パラメータを示します。
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図 8 に、図 5 のシミュレーションを繰り返した結果を示します。
この場合、DAB は動作条件の全範囲にわたって完全な ZVS を実現できることがわかります。これは、GaN スイッチの VDS がターンオン時に常に 0V であることから明らかです。CLLLC は完全な ZVS を実現していませんが、ZVS が大幅に改善されています。ただし、どちらのトポロジでも ZVS は改善していますが、RMS 電流が大幅に増加しています。電力損失だけに注目すると、範囲のほとんどの部分で DAB コンバータのほうが優れているのがわかります。
図 8 の図 5 との比較に戻ると、整流インダクタを追加することで、条件によっては損失が悪化していることがわかります。ここで、図 5 と図 8 の最小損失を達成できるハイブリッド アプローチがないかを考えてみます。
整流インダクタを追加することで、コンバータが ZVS を維持する動作条件を広げることができます。これは、コンバータだけでは ZVS を維持できない条件において大きな利点となります。整流インダクタの問題点は、損失が改善するのは、整流インダクタがなければ ZVS を維持できない条件のみだということです。コンバータがすでに ZVS を維持できている条件では、整流インダクタは電流を増加させるため、スイッチでのオーム損失が大きくなります。
この考察に基づき、重負荷では整流インダクタをオフにし、軽負荷ではオンにするハイブリッド アプローチをテストしてみます。図 9 に、このアプローチでのシミュレーション結果を示します。このアプローチでは、重負荷時には、各トポロジで RMS 電流を低く保ち、すでにある ZVS を維持する能力を活かすことができます。
ここでは、スイッチに不要な RMS 電流が流れるのを防ぎ、ソリューションのサイズが不要に大きくならないようにするため、スイッチの熱エンベロープ内に収まる最小限の整流インダクタンスと動作時間のみを追加するように注意しました。結果を見ると、DAB コンバータは、全動作範囲にわたって完全に ZVS を維持できていません。ZVS 条件は大幅に改善されていますが、前述の 20W スイッチ ターゲット内に維持するのに必要な条件を満たすだけにとどまっています。
トレードオフをより明確にすため、図 10 に各方法の電力損失をまとめて示します。DAB コンバータのほうが、スイッチ内の電力損失に関して優れていることがわかります。
これら 2 つのコンバータの性能の違いを理解しやすくするため、図 10 のデータを再フォーマットしてプロットしたものを図 11 に示します。このグラフは、それぞれのコンバータが供給できる最大電力を示しています。ここでは、スイッチが 20W を超える電力を安全に消費できないと想定しています。20W は、接合部温度を 125℃未満に保ちながらスイッチで許容できる最大損失を表します。
図 11 で青い線が赤い線の上にあることから、DAB コンバータが CLLLC よりも広範囲にわたってより多くの電力を供給できることがわかります。これにより、DAB のほうが明らかに優れていると判断しがちですが、サイズと重量の最小化が OBC の主要な要件であることに注意してください。DAB コンバータには 2 個の追加インダクタを必要としますが、CLLLC に必要なのは 1 個のインダクタのみです。この点で、CLLLC のほうが有利であると考えられます。
エンジニアリングにおいては、ほとんどの場合、最良の方法は要件に対するトレードオフで決まります。何かを犠牲にせずに大きな利点が得られることはまれで、それはこの場合にも当てはまります。CLLLC は、サイズに関して明らかな利点があるため、DAB よりもわずかに勝っていると考えられます。
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