IGBTとGaN FETの比較

ストリングインバータは、IGBT（絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタ）などのパワースイッチで構成されています。この種のパワーデバイスには、テール電流やダイオードの逆回復などの問題があり、スイッチング損失が大きくなります。さらに、これらの現象は温度の影響を受け、特に静的冷却ソリューションでは電力損失が大きくなります。したがって、これらのパワーデバイスは低周波数で動作する必要があり、よりかさばる受動部品と、よりかさばるヒートシンクが必要になります。スイッチング周波数の範囲は 5kHz ～ 15kHz です。

窒化ガリウム（GaN）などのワイド・バンドギャップ・パワースイッチには、少数キャリア現象がないので、スイッチング損失を低減できます。スイッチング損失を低減すると、システム損失を同じ状態に維持できるため、スイッチング周波数を高くでき、その結果、受動部品を削減できます。スイッチング周波数は平均して 6 倍高くなります。

この記事では、GaN FET（電界効果トランジスタ）を用いた 10kW ストリングインバータを提案します。また、GaN の複数の利点を検討し、住宅用ソーラーアプリケーションでこのようなシステムを製作する場合の利点についても解説します。

GaN を用いたストリングインバータに関する設計上の検討事項

図 2に、バッテリエネルギーストレージシステム搭載、10kW、GaN ベースの単相ストリングインバータのリファレンスデザインを示します。これには、すべての能動部品および受動部品が含まれています。

図 2 GaN デバイスを用いた 10kW 単相リファレンスデザイン

図 3はコンバータの回路図です。

図 3 単相ストリングインバータのリファレンスデザインのブロック図

このリファレンスデザインは、それぞれのスイッチング周波数で動作する 4 つの電力変換システムで構成されています。

• 2 つの独立したストリング入力に対応する 2 つの昇圧コンバータ。各 5kW 定格（134kHz）。
• 10kW 定格のインターリーブ双方向 DC/DC コンバータ（67kHz）。
• グリッドに向けて電力を供給する、4.6kW 定格の双方向 DC/AC コンバータ（89kHz）。

パワー デバイス

650V 定格 30mΩ GaN FET の LMG3522R030 を上面で冷却できるので、底面放熱デバイスに比べて熱インピーダンスが小さくなります。これらの FET はゲートドライバを統合しており、ソリューションコストの削減と設計の小型化に寄与します。

MCU

図 3に示すように、1 つの MCU がリファレンスデザインを制御します。TMS320F28P550SJにより、4 つの電力変換段、保護機能、複数の制御ループの実装をリアルタイムで制御できます。MCU を電源グランド（GND DC–）に接続することも可能です。内蔵のゲートドライバにより、GaN FET を直接コントロールすることもできます。底面側（Q1A、Q1B、Q2、Q4、Q6、Q7）には絶縁型ゲートドライバは不要です。

電流センシング

このシステムでは、さまざまなコンバータ段ごとに、さまざまなポイントで電流を測定する必要があります。昇圧コンバータは、マイコンが電源グランドを基準としていることから、負のレールに接続しているINA181などのシャントベースのソリューションを使用して電流を測定します。インターリーブコンバータの場合、高精度の電流センシング強化絶縁型アンプであるAMC1302のようなデバイスを使用して、時間と温度の変化に対して高精度に、バッテリ内の電流を測定する必要があります。内部の GaN 低 ドロップアウトレギュレータによって生成される 5V が電流検出アンプに供給されます。インバータ段では、TMCS1123などのホール効果電流センサによってグリッド電流測定が可能になります。帯域幅が広く精度が高いため、電流 THD を容易に低減できることが重要です。

実験結果

このリファレンスデザインは、以下のシステム電圧で行いました。

• ストリング入力電圧：350V
• 公称バッテリ電圧：160V
• グリッド電圧：230V
• DC リンク電圧：400V でコントロール。

コンバータがさまざまなシナリオで動作した場合の、次の効率性データを収集しました。

• ストリング入力からドレインされ、グリッドに供給される電力（図 4を参照）。
• バッテリからドレインされ、グリッドに供給される電力（図 5を参照）
• ストリング入力からドレインされ、バッテリに供給される電力（図 6を参照）。

図 4 太陽光発電パネルの出力から電力をグリッドに変換する（350V_DC、230V _AC）場合の効率

図 5 バッテリの出力から電力をグリッドに変換する（160V_DC、230V_AC）場合の効率

図 6 太陽光発電パネルの電力をバッテリに変換する（350V_DC、160V_DC）場合の効率

これらのグラフは、標準的な IGBT ソリューションに比べて 6 倍高速なスイッチングを行っても、全体の効率が現在の IGBT ソリューションと同等であることを示しています。ハウスキーピング電源を含め、効率は 98% 付近にとどまります。3 つの図はすべて、2 つの電力変換段を含んでいます。

まとめ

GaN は電力密度を高めるのに役立ちます。その結果、最終製品の重量を低減できます。全体のシステム効率が約 98% で、電力密度が 2.3kW/L のストリングインバータのリファレンスデザインは優れた性能を示しています。さらに、統合型ゲートドライバソリューションを実装すれば、システム全体のコストを考えると、コスト削減につながる可能性があります。

その他の資料

• 次に掲げる TI のリファレンス デザインをぜひご覧ください。
  • 1.6kW、双方向マイクロインバータによる GaN リファレンス デザイン。
  • ソーラー アプリケーションでの機械学習によるアーク検出用アナログ ・フロント・ エンドのリファレンス デザイン。
  • 400W GaN ベース MPPT チャージ コントローラおよびパワー オプティマイザのリファレンス デザイン。
  • バッテリ蓄電システム搭載、10kW、GaN ベースの単相ストリング インバータによるリファレンス デザイン。
• How2Powerの記事『Assessing Performance of a 10-kW String Inverter Based on GaN FETs』（英語）をご覧ください。

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