STEM 教育を通じて次世代の若手女性イノベーターを支援する

TI と TI 社員は、世界各地で少女たちが STEM (科学、技術、工学、数学) 分野に自信を持てるように教育するプログラムや協力関係を構築しています。

10 9 月 2024 | 企業文化

Alysa Rickman は年若い少女だったころ、よく自分のおもちゃを分解しては叱られていました。電池で動く人形を切り開き、中の電子部品を詳しく調べようとしたこともありました。

「それは、私が科学や STEM に興味を抱くようになったきっかけでした」と彼女は語り、自分の未来の職業は外科医か技術者かで五分五分だったと冗談めかして言います。

Alysa は最終的に、後者の進路を選択しました。現在は、米国テキサス州ダラスにある TI の拠点で、半導体のテストおよびバンプ業務計画アナリストとして働いています。彼女の役割のうち非常に満足度の高い活動の 1 つは、女性従業員ネットワーク (Women's Employee Network:WEN) の議長を務めていることです。これは、TI 社内にいくつもある従業員リソース グループの 1 つで、30 以上の支部と、合計約 3,000 人のメンバーを擁しています。WEN とともに携わるボランティア活動を通じて、彼女は自分が子供だったときと同じように、好奇心旺盛な年若い女性を啓発することを望んでいます。

「TI には革新の長い歴史があります。66 年前に集積回路を考案した Jack Kilby のような先駆者が築き上げてきた歴史です。その一環として、次世代の女性エンジニアも含め、TI は引き続き学生や生徒を啓発しています」と、Alysa は語ります。「少女たちが STEM 分野で潜在能力を秘めており、また彼女たちが今後、未来を形作る優れたエンジニアになれる可能性があると彼女たちに伝えることに、私は熱意を抱いています」

自信のギャップ:課題を理解する

STEM の進路で、Alysa のような女性のロール モデル (模範となる成功例) がより多く必要なことは明らかです。米国の労働者のうち、女性の比率は約半数です。それに対し、STEM 関連の職種ではわずか約 35% にとどまります[1]。ただし、このような不均等性は米国に限った問題ではありません。これは世界的な現象です。

しかも、STEM 分野の性別ギャップ (男女差) は単純な機会の不足にとどまらないことが複数の研究によって示唆されています。そこには、自信の欠如という根深い問題があります。ある研究は、少女たちがわずか 6 歳で、男の子の方が「より賢い」という認識を持ち始めることを示しています。11 歳までに、多くの少女は数学や理科のような科目で後れを取り始めます[2]。このような早期の男女差は、年齢が経過した後にも影響を及ぼします。工学、コンピュータ サイエンス、物理学の分野における学士のうち、女性が占める割合はわずか 1/5 です[3]。

この男女差に取り組もうと関心を持つことは、個人の進路にとどまらない、より大きな事柄事項につながります。「革新はどこから来るのだろうか、と考えると、それは多様な考え方から来るのです」と、ドイツのフライジングにある TI の拠点で財務ディレクターを務める Carolina Tejle Hartmann は語ります。「事実、STEM 分野で女性は今もなお数が少ないのです。少女たちが STEM 分野で働くことができ、より良い世界を作り出す革新に携われる、と少女たちに示すことが重要です。また、少女たちには情熱を形にする力余裕があることを示し、その機会を用意することは私たちの責任です」

TI のグローバルな到達領域の拡大

このグローバルな課題に取り組もうとする TI の戦略は、財政的な投資に社員のボランティア活動を組み合わせた、いわば 2 倍の取り組みです。2010 年以来、TI と TI Foundation (TI 財団) は米国内での STEM プログラムに約 8,000 万ドルの投資をしてきました。少女や若い女性を含め、STEM 教育の機会を得られなかった人々に、STEM 教育を受ける機会を作り出すことを特に重視してきました。

社員が参加することも、これらの取り組みにとって重要です。2023 年だけで、WEN のメンバーは 1,300 時間以上をボランティア活動に費やし、少女向けの STEM 構想を含め、より強力なコミュニティを築き上げる活動に携わりました。その貢献は、メンタリング (指導) プログラムから、実践的なイノベーション ワークショップ (講習会) や就職フェアに至るまで広い範囲にわたるもので、いずれも STEM 分野で次世代の女性を啓発することを意図していました。

加えて、TI はターゲットを絞った以下のような構想を世界各地で既に開始しています。

米国

米国内で、TI はテキサス州北東部ガール スカウト (Girl Scouts of Northeast Texas:GSNETX) のような団体と協力し、同団体の STEM センター オブ エクセレンス (STEM Center of Excellence) を支援しています。これは、92 エーカー (37.3 ヘクタール) の面積に最新の設備を整備し、少女に焦点を当てた実践的な STEM 活動を行う施設です。これまでの協力を通じて、コーディング バッジ策定などの構想が実現しました。これは、少女たちにプログラミングの基本的な概念を紹介するものです。現在、数名の TI 社員が GSNETX の評議員を務め、多くの社員が定期的にボランティア活動に参加しています。

「少女や若い女性に向けて労働者との強力なパイプラインを築くのは良いことであり、しかも私たちのコミュニティが成功を遂げるうえで不可欠です」と、GSNETX の CEO (最高経営責任者) である Jennifer Bartkowski 氏は語ります。「テキサス・インスツルメンツは GSNETX のためにいつでも何か協力をしてくれます。その結果、私たちはより力を増し、TI がコミュニティ内で必要とするパートナーとして行動できるような団体になっています」

TI が支援している別の団体は、Young Women's Preparatory Network (若い女性向け準備ネットワーク) です。これは非営利団体で、米国テキサス州全体の公立学区と協力し、少女を対象とした STEM 特化型学校のネットワークを運営しています。TI Foundation は最近、4 年間にわたる合計 200 万ドルの寄付を行いました。この寄付は、Young Women’s STEAM Academy (若い女性向けの STEM アカデミー) を支援します。これは、米国テキサス州バウチ スプリングズ (Balch Springs) に拠点を置く公立学校であり、それによって上記ネットワークに参加できるようにするほか、中等教育からさらに高度な内容への拡大を行い、高校 3 年生 (12th grade) までの期間にわたって連続した STEM 教育を実現します。このプログラムが成功していることは明らかです。この学校の生徒全員 (100%) が高校を卒業し、卒業生の半分以上は、大学または単科大学で STEM の学位の取得を目指しています。

ドイツ

ドイツで、TI 社員たちは少女の日 (Girls' Day) 構想に参加しています。これは、少女の STEM の進路を推進しようとする国家規模の取り組みです。この年次イベントの開催期間中、TI は 8 年生から 13 年生 (おおよそ日本の中学校 2 年生から高校 3 年生に相当) の少女を迎え、実践的な活動や施設案内に携わります。2023 年のイベント期間中、ミュンヘン都市圏 (greater Munich area) の学校に在学している少女たちは、TI の拠点に来訪した 1 人の宇宙飛行士とともに、1 日をその拠点で過ごしました。TI は 20 年にわたってこのイベントを開催し、女性エンジニアが担当する啓発プレゼンテーションに出席する機会を参加者たちに提供してきたほか、質疑応答の時間を設け、TI の日常業務に関する実践的な情報も提示してきました。少女たちは、TI 社員との間でその職務について詳細に話し合う機会があり、独自の電子回路を製作することもできます。

生徒たちは進路に関して TI 社員との話し合いに参加するほか、実践的な STEM 活動に取り組む

TI 社員たちは、15 歳から 18 歳までの年齢の少女を対象にした 1 週間の STEM 夏季キャンプである Future Tech Makers (未来の技術製作者) も主催します。この中には、プログラミング、ロボット、半導体の基礎に関するワークショップのほか、大学の見学もあります。

「TI の重要な価値基準の 1 つは包摂性であり、もう 1 つは革新です」と、Carolina は語り、ここまでに説明した多様な構想が、これらの重点的な領域の両方に取り組んでいることに注意を促します。「個人的な観点では、少女たちがロール モデルを目にすることが重要であると考えています。学校や家庭で目にする機会があるとは限らないからです。TI がロール モデルを提示できるとしたら、参加者に対してある程度責務を果たせるだろうと私は考えています」

Marion Loessl は、ドイツを拠点とするフィールド アプリケーション エンジニアです。彼女は自分の職務経験で、ロール モデルの重要性を認識しました。そして、自分の経験を活用して少女たちを啓発することを希望しています。「私はテクノロジー業界で、目を開かせてくれるような多くの女性たちに会ってきました。彼女たちは私のキャリア全体で自信を持たせてくれました」と、Marion は語ります。「私は 1 人の女性エンジニアとして、少女たちのロール モデルになれることを望んでいます」

インド

TI はインドで、地元のニーズに合わせてカスタマイズした多様なプログラムを実施しています。たとえば、Nurture Merit (養成の利点) プロジェクトは、聡明であっても経済的に不利な境遇にある少女たちに、奨学金を給付し、指導の機会を提供します。現在までに、このプロジェクトは 146 人の生徒を支援し、175 人の TI 社員がメンター (指導者) の役割を果たしています。このプログラムの利点は明白です。2020 年に最初のグループに入った 12 人の生徒は、現在はいくつかの大手企業に雇用されています。

またインドでは、Women in Semiconductors and Hardware (半導体とハードウェア分野の女性たち) プログラムも実施しており、女性の工学系学生を対象に期間 1 か月のメンタリング構想を提供しています。その中には、シミュレーション (疑似的な) プロジェクトを使用するオンライン形式と対面形式のセッション、技術資料の読み込み、チーム単位のプレゼンテーション、ラボでの実習もあります。このプログラムを無事修了した学生には、TI のインターンシップに応募する機会が与えられます。

アジア / パシフィック

台湾では、TI Taiwan Primary School STEM education program (TI 台湾小学生向け STEM 教育プログラム) を 2017 年に開始しました。これは、少女たちに早いうちから科学分野への興味を抱いてもらうくことを意図しています。このプログラムは、3 種類の教育キットの開発に役立ちました。また、約 200 人のボランティアと、合計 700 人に達する教員、生徒、保護者が参加しました。

TI 中国法人は、STEM を主題とする創造的な競技会への招待状を発送しています。Sijin Chen さんの人生にとって、その招待状は間違いなく転換点になりました。上海に移住してきた労働者の子供である Sijin さんは、TI のボランティアの助けを得て自分のチームを主導し、競技会で首位になりましたが、彼女はそのような事態を想像したことすらありませんでした。しかし、この競技会を通じて、彼女は STEM に関する知識の驚異とその広大な力に感銘を受け、将来はエンジニアになろうという考えを抱き始めました。その後、自分の地元に戻った後も、Sijin さんは引き続き、自分の STEM スキルを向上させるさまざまな機会を積極的に探し求めました。彼女は 2023 年に、若者を対象としたグローバルな AI 競技会に参加し、2 位を獲得しました。TI は、STEM に関する自信を築き、自らの能力を見いだすように多くの生徒を支援してきました。Sijin さんの話は、その代表的な例縮図の 1 つです。

Hope for Pearl (真珠の希望) という、中国全体を対象として運営されている別のプログラムもあります。これは、成績が良好であっても、低収入の家庭出身の学生を支援するものです。この構想では、現時点までに STEM 特化型教育で合計 14 の Pearl クラスを創設し、およそ 645 人の学生を支援し、手を差し伸べてきました。さらに、171 人の TI 社員がこのプログラムに参加し、合計 950 時間以上にわたって活動しました。

Alan Li は、TI の中国北西部を担当する地域ディレクターです。Hope for Pearl でのボランティア活動は、彼にとって個人的に思い入れの深いものとなっています。「これらの学生たちと時間を過ごすと、自分自身の学校時代を思い出します」と、彼は語ります。「私の通っていた高校のリソースは最善とは言えないものでしたが、それでも私は、教育を通じて自分の人生を変えるためのあらゆる機会をとらえました。それらは私の力になり、私は現在、世界でも非常に賢く、非常に能力が高い人々とともに働いています」

情報共有、模範、支持の重要性

Adrienne Alexander は、TI で機械エンジニア兼開発プロセス オーナーを務めています。彼女も、年若い少女の手に届く STEM プロジェクトの影響力を目にしてきました。2023 年に、彼女は TI が支援する組織的支援プログラムの一環として、米国ユタ州南部にあるナバホ準自治領 (Navajo Nation) を訪れました。彼女と数人のチーム メンバーは、その場所で小学校の生徒に STEM の概念を紹介するために、画期的な「Tinker Totes」を使用しました。これは、実践的な学習を目的として STEM 関連の物品を多数詰め込んだトートバッグです。ほかに、生徒が製作やプログラミングに使用できるシンプルな電子デバイスも用意しました。

この経験は、多くの生徒、特に少女たちにとって大きな変化をもたらすものでした。「彼女たちの目が輝くのを見られたのは素晴らしいことでした」と、Adrienne は振り返ります。「それまでは STEM の進路を決して考えたことのなかった少女たちが、『私はエンジニアになりたい。私は科学者になりたい』と突然話し始めたのです」

この記事の冒頭に登場した Alysa は、Adrienne の自尊心に共感します。Alysa は定期的に学校や就職フェアで話をし、STEM 分野での自分の経歴を共有しています。最近の 1 つのイベントで、彼女は自分の職業に関する話をしました。その話を聞いた後、1 人の少女がやってきて、女性、特に黒人女性が彼女のようなレベルのエンジニアになれたことについての驚きを語りました。「私は女性もエンジニアになれるということをまったく知りませんでした」と、少女は Alysa に言いました。「私もエンジニアになりたいと思います」

Alysa は、この会話から強い感銘を受けました。「私にとって、体験を共有することに加え、何かの模範として希望を示せることは、非常に啓発的、また喜ばしいことです」と、彼女は語ります。

これらの逸話を個別に取り上げてみると、それぞれはほんの小さな勝利にしか見えないかもしれません。しかし、Alysa や Adrienne のような TI 社員がよく知っているように、本当に大切なのは火を点ける小さいきっかけです。そして、年若い少女の未来の進路を変化させることです。

「模範を示すことが鍵になります。女性や少女にとっては、可能性を見出せることが重要です」と、Alysa は語り、より包摂的で多様性のある労働環境を次世代に向けて形成できるかどうかは、現在の世代の技術的リーダーにかかっていると指摘します。

「新世代の女性リーダーが登場できるように支援するのは刺激的な活動です。それらの人々がいつの日か、半導体を通じてエレクトロニクスをより手ごろな価格で提供することで、より良い世界を創造するという TI の情熱を推進する活動に参加してくれることを願っています。他の人々のための機会も確実にあります。私たちはただそれを支持するだけでよいのです」


参考:
[1] U.S. National Science Foundation (全米科学財団):Diversity and STEM: (多様性と STEM:) Women, Minorities and Persons with Disabilities (女性、マイノリティ、障害のある人々)
[2] Girl Scouts Research Institute (ガール スカウト研究機関):Generation STEM report (STEM 世代報告書)
[3] Society of Women Engineers (女性エンジニア協会):Degree attainment report (学位取得報告書)

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