Matter による標準化の重要性:新しいワイヤレス・プロトコルでスマート・デバイスの接続基盤を構築

スマートなコネクテッド (ネットワーク接続型) デバイスが私たちの日常生活で一般的になりつつある現在、Matter ワイヤレス・コネクティビティ・プロトコルは、分断化した IoTエコシステムの統合を目指します

8 12 月 2022 | テクノロジーと革新

電球やドアベル、サーモスタット、ドアロックなどのスマート・ホームのデバイスが、相互連携することは本来それほど難しいことではありません。

しかし、異なるメーカーやブランドが製造したスマート・ホーム・デバイスをシームレスに相互接続しようとする試みは、多くの国や地域が参加する国際連合で働く翻訳者や通訳に似ている、という印象を受けるかもしれません。

「スマート・ホームのブランド各社は、独自のエコシステムを築いており、あるブランドが製造した製品は通常、別ブランドの製品とは連携しません。このような異なるエコシステムをサポートしようとする場合、複数の SKU (商品のバリエーション) または複数のソフトウェア・プロファイルを用意する必要が生じ、これはメーカー各社にとって長年の課題になっていました」と、TI で SimpleLink™ Wi-Fi®ファミリの製品マーケティングをリードする Johnsy Varghese は語ります。

この課題に対処するため、Apple、Google、Amazon、Samsungなど、業界をリードする多くのテック企業は、Connectivity Standards Alliance (CSA) の一員として 2019 年に TI などの半導体メーカーと協力し、スマート・ホームにとっての共通言語の策定に踏み出しました。2022 年 11 月 3 日に発表された Matter は接続性(コネクティビティ)規格の 1 つであり、スマート・ホーム分野の開発者はこの規格を活用することで、消費者が選択したスマート・ホーム・プラットフォームでシームレスに動作する製品を開発しやすくなります。これにより消費者は、各種製品を自宅のスマート・ホーム・エコシステムに組み込むことが容易になるだけでなく、エネルギー消費、快適性、安全性を向上させるスマートな製品の開発をするためのツールをテック企業へ委ねることになります。

シームレスなコネクティビティの実現

異なる企業による複数のデバイス・エコシステムの間でインターフェイスを確立するという課題に加えて、ソフトウェア・デベロッパーは Bluetooth® や Wi-Fi から、ZigBee®や Thread まで、多様なコネクティビティ・プロトコルも適切に動作させる必要があります。

「これまでは設計に採用してこなかったワイヤレス・コネクティビティを、現在より多くの企業が統合に参加するのを目にしています。10 年前、冷蔵庫メーカーはコネクティビティ・プロトコルを気にする必要はありませんでした。しかし、そのようなメーカーは現在、これまで取り扱ったことのない、セキュリティとハードウェア設計に関連する様々な新しい課題に直面しています」と、コネクティビティ・マーケティング責任者を務める Nick Smith は語ります。

TI はOEM メーカー各社とエンジニアに対し、コネクティビティの学習促進を支援するほか、Wi-Fi と Threadをサポートしている SimpleLink ワイヤレス・マイコン (MCU) 向けの新しい Matter 対応 SDK (ソフトウェア開発キット) を提供し、各社が自社製品に Matter を迅速に統合できるようサポートしています。エンジニアは、この新しいソフトウェアと『CC3235SF』や『CC2652R7』のようなワイヤレス・マイコンを使用することで、超低消費電力、セキュア、かつバッテリ動作のスマート・ホーム・アプリケーションと産業用 IoT アプリケーションを製作し、多様な独自エコシステムのさまざまなデバイスにシームレスに接続することができます。

IP (インターネット・プロトコル) を土台とする複数のネットワークを標準化することで、Matter は Wi-Fi と Thread の各技術の利点を組み合わせ、これらのプロトコル間の情報交換を円滑にし、デベロッパーと消費者に向けたコネクティビティ・インターフェイスを簡素化します。

「Matter は、基になるプロトコルを選定する際に、デベロッパーにとって最善の選択肢を優先できるフレキシビリティを実現します。
たとえば、Wi-Fi は現在、家庭内で広く採用されており、ストリーミング用途で高いスループットを達成すると同時に、クラウドにも自然に接続できます。一方、Thread を採用すると、メッシュ・ネットワークを実現できるほか、消費電力を大幅に低減できるので、バッテリ動作デバイスに役立ちます」と、Johnsy は語ります。

エネルギー効率の向上を実現

スマート・ホームを構築する際、分断化が低減することにどのような利点があるでしょうか?

まず、住宅オーナーはエコシステムや製品を選定する際に、選択肢が大幅に広がります。また、セットアップ (相互接続の設定手順)、セキュリティ、利便性に関して、操作や環境設定の複雑さを低減できます。スマート・ホーム環境を構築しようとする際に、最初の導入障壁が低くなると、より多くの住宅オーナーが、自動化の進んだコネクテッド (ネットワーク接続型) システムの導入に踏み出しやすくなります。この種のシステムを導入すると、生活がしやすくなり、私たちの日常においてエネルギー効率をいっそう改善できます。

たとえば、Matter を採用する場合、HVAC (エアコン) システムは自然な方法でセキュリティ・システムとの通信を実施できるので、住宅オーナーは単一のインターフェイスを通じて自宅にある複数のスマート・ホーム・デバイスを管理することができます。その結果、住宅全体の自動化システムは、ユーザーが在宅中か不在のどちらなのかという情報をセキュリティ・システムから受け取り、その情報に基づいて HVAC (エアコン) の運転方法を調整することができます。

グローバル展開をしているポンプ・メーカーである Grundfos は、Matter に対応した TI の技術を活用して、HVAC (エアコン) 向けの一連のポンプを製作しました。これらのポンプは他のスマート・ホーム・デバイスとデータを共有し、エネルギー効率を改善することができます。たとえば、ドアが施錠される、または家電製品の電源がオフになるといった状況で、家の中に誰もいないことが明らかになった場合、これらのポンプはスタンバイ状態に移行し、エネルギーを節減します。

「当社は、高度なポンプ・ソリューションと水関連技術のグローバル・リーダーであり、HVAC (エアコン) 分野で Matter を推進する連携の一員として行動できることをうれしく思います。私たち Grundfos は、革新と持続可能性に関する当社の目標を達成するうえで、協力が鍵になると強く確信しています。当社は TI との協力を通じて、Matter 対応の低消費電力ワイヤレス・ソリューションを市場に送り出します。当社のエンド・ユーザーの快適さ向上や、HVAC システムのエネルギー消費量低減を実現するうえで、この協力は重要な役割を果たします」と、Grundfos Holding A/S の上級副社長 (SVP) 兼技術グループ責任者を務める Anders Johansson 氏は語ります。

スマート・ホームのセキュリティ向上

複数の IoT エコシステム間、また複数のプロトコル間での相互接続性の改善に加えて、Matter 認証済みデバイスは強化型の検証機能とセキュリティを搭載しているため、Matter を採用すると、それらのデバイス相互間の接続がいっそうセキュアになります。

「Matter を採用すると、多数のセキュリティ・レイヤを事前指定できるので、メーカーは開発作業を簡素化できます。CSA 内に多数のセキュリティ・エキスパートがおり、このプロトコルを策定する際にその知識を応用してきたので、誰であっても Matter を採用するとその利点を活用できます」と、Marian は語ります。

Matter 対応の Wi-Fi アプリケーションに取り組む設計者は、TI のデュアル・バンドや多層セキュリティ・アプローチを活用すると、外部部品を追加することなく、デバイスのデータを保護することができます。

Matter の推進

2021 年 5 月に TI は Wi-Fi と Thread に対応した SimpleLink ワイヤレス・マイコンを搭載した、Matter コネクティビティの最初の実用化デモを提供しました。

Matter と IoT の将来について、TI の複数の技術エキスパートは分断化の低減が原動力となり、個々の住宅内の自動化をはるかに超えたスマート・エコシステムの成長がいっそう進むと予測しています。

「私たちはこの構想に参加できることを本当にうれしく思っています。私たちが重視しているのは、適切なツールを開発ユーザーの手に届けることです。そうすれば、開発ユーザーはこの新しいプロトコルの開発で優位性を確保し、非常に魅力的な製品を開発することができるでしょう」と Nick は語ります。

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