JAJA645A December 2018 – September 2024 ADS1261
AVDD | AVSS、DGND | DVDD |
---|---|---|
5V | 0V | 3.3V |
本書では、ADS1261 を使用した 3 線式 RTD 用温度測定回路について説明します。この設計は、特性がそろった 2 つの励起電流源を使ったハイサイド リファレンスによる PT100 RTD (温度測定範囲:-200℃~850℃) 用レシオメトリック測定を採用しています。この設計には、ADC 構成レジスタ設定と、デバイスの構成と読み出しを行うための疑似コードが含まれます。この回路は、PLC 用アナログ入力モジュール、ラボおよびフィールド用計測機器、ファクトリ オートメーションおよび制御などの用途に使用できます。各種の RTD配線構成で高精度の ADC 測定を行う方法の詳細については、『RTD 測定に関する基本的なガイド』を参照してください。
例えば、温度測定範囲が −200℃~850℃の場合、PT100 RTD の範囲は約 20Ω~400Ω です。基準抵抗は RTD の最大値より大きくする必要があります。基準抵抗と PGA ゲインにより、正側フルスケール測定範囲が決まります。
特性がそろった 2 つの IDAC 電流源を使用して、導線抵抗を相殺します。導線 1 と導線 2 の抵抗が同じであり、かつ IDAC1 と IDAC2 の電流が同じであると仮定すると、導線抵抗の誤差は相殺されます。AIN2 と AIN3 での測定電圧で相殺が行われます。
IDAC1 は導線 1 を通して基準抵抗 RREF と RTD に電流を流し込みます。IDAC2 は導線 2 に電流を流し込みます。まず、回路に示す入力保護では電圧降下がないものと仮定します。AIN2 と AIN3 の電圧は以下の式で計算します。
ADC の測定値は AIN2 と AIN3 の差分であり、上記の式の減算に相当します。
次に、RLEAD3 と RBIAS の項が消えます。
RLEAD1 と RLEAD2 が等しく、かつ IIDAC1 と IIDAC2 が等しい場合 (IIDAC となり)、導線抵抗の誤差は相殺され、次の式が残ります。
この設計では励起電流源を 500μA とします。これにより、RTD の自己発熱を抑制すると同時に RTD 電圧の値を最大化します。RTD の自己発熱係数の一般的な範囲は、小型の薄膜素子で 2.5mW/℃、大型の巻線素子で 65mW/℃です。励起電流 500μA、最大 RTD 抵抗値で、RTD の消費電力は 0.4mW 未満となり、自己発熱による測定誤差は 0.005℃ 未満に維持できます。
IDAC 電流量を選択した後、RREF = 3.52kΩ に設定します。500μA の励起電流を使用することで、基準電圧は 1.76V に設定され、最大 RTD 電圧は 200mV となります。これらの値により、最大 RTD 電圧を正側フルスケール レンジにほぼ一致させ、それを超えないように、PGA ゲインを 8 に設定します。
基準抵抗 RREF は、精度が高くドリフトが小さい精密抵抗にする必要があります。RREF のすべての誤差は、同じ誤差を RTD 測定に反映させます。最高精度の基準電圧測定を実現するため、REFP ピンと REFN ピン (AIN0 と AIN1) はケルビン接続で RREF 抵抗に接続しています。これにより、基準抵抗測定で直列抵抗による誤差が生じないようにします。
ハイサイド リファレンスの場合、基準抵抗と RTD を流れる電流は同じであることに注意します。ローサイド リファレンスを使用した 3 線式 RTD 測定では、IDAC 電流のミスマッチが誤差の大きな要因になります。この設計では、ミスマッチは、導線抵抗の相殺でわずかな誤差となるだけで、RTD 測定の大きなゲイン誤差にはつながりません。
基準抵抗、IDAC 電流量、ADC ゲインを設定した後、RBIAS 抵抗を選択し、入力測定のバイアス電圧を設定します。通常、入力が中間電源電圧になるように RBIAS を選択します。しかし、回路で使用する基準抵抗、RTD 抵抗、バイアス抵抗、オプションの入力保護による電圧降下の合計値は大きくなります。RBIAS の入力オフセットは、RTD の測定電圧を PGA の入力範囲内に維持するのに十分な高さとしながらも、励起電流の出力ピン電圧が IDAC のコンプライアンス電圧範囲内に収まるよう、高くしすぎないことが重要です。
RBIAS を 1.1kΩ に設定して、この要件を満たします。最大 RTD 抵抗値 400Ω を用いて、次の式で ADC 入力電圧を計算します。導線の抵抗は小さいため、この計算では無視できます。
まず、ゲインは 8 であり、AVDD は 5V、AVSS は 0V であると仮定して、AIN2 と AIN3 が PGA の入力電圧の範囲内にあることを確認します。『ADS126x 高精度、5 チャネルおよび 10 チャネル、40kSPS、24 ビット、PGA およびモニタ付きのデルタ シグマ ADC』データシートに示すとおり、絶対入力電圧は次の要件を満たしている必要があります。
AIN3 と AIN2 で観測される最大および最小入力電圧 (1.1V と 1.3V) は 1V と 4V の間にあるため、入力電圧は PGA の動作範囲内にあります。
次に、IDAC 出力ピンの電圧がコンプライアンス電圧の範囲内にあることを確認します。次の式に示すとおり、RTD の電圧が最大のとき、IDAC 電流出力の電圧は最も高くなり、出力コンプライアンスによって最も制限されます。前述のとおり、導線抵抗の小さな電圧の寄与は無視できます。
最大 RTD 電圧は 200mV であり、入力保護ショットキー ダイオード (VD) の電圧降下は 300mV であると仮定します。
IDAC 電流のコンプライアンス範囲は、『ADS126x 高精度、5 チャネルおよび 10 チャネル、40kSPS、24 ビット、PGA およびモニタ付きのデルタ シグマ ADC』データシートの「電流源」セクションにある「電気的特性」表に記載されています。次の式で IDAC 電流のコンプライアンス範囲が与えられます。
この設計例では、AVDD が 5V であるため以下のように単純化できます。
上記の式により、IDAC1 ピンの出力コンプライアンスを満たしています。IDAC2 ピンの電圧は IDAC1 の電圧より常に低くなるため、どちらの電流源もコンプライアンス範囲に収まります。
回路図にはオプションである 2 つの入力保護ダイオードが記載されています。この低 VF ダイオードは、IDAC 電流源を入力障害から保護するためのものであり、直列抵抗で置き換えることができます。直列抵抗を使用する場合、IDAC 出力ピンのコンプライアンス電圧を確認する式で、追加されたダイオード電圧 (0.3V) を新しい直列抵抗での IIDAC による電圧降下に置き換えます。
続いて、基準電圧が ADC の基準電圧入力範囲内であることを確認します。ADS1261 の差動リファレンス入力電圧範囲については、『ADS126x 高精度、5 チャネルおよび 10 チャネル、40kSPS、24 ビット、PGA およびモニタ付きのデルタ シグマ ADC』データシートの「推奨動作条件」に記載されている次の式で示しています。
また、正負のリファレンス入力電圧の絶対値を以下の式で確認します。計算値は、基準電圧が ADC リファレンスの入力範囲内にあることを示しています。
この設計には、差動および同相入力 RC フィルタが含まれます。差動入力フィルタの帯域幅は、ADC のデータレートの 10 倍以上に設定します。同相コンデンサは、差動コンデンサの値の 1/10 になるように選択します。コンデンサの選択に起因して、同相入力フィルタの帯域幅は差動入力フィルタの帯域幅より約 20 倍広くなります。直列フィルタ抵抗がある程度の入力保護の役割を果たすとはいえ、ADC が正常に入力をサンプリングできるように入力抵抗を 10kΩ 未満に維持します。
入力フィルタにより、同相信号より低い周波数の差動信号は減衰され、デバイスの PGA によって大幅に除去されます。同相コンデンサのミスマッチにより非対称ノイズ減衰が生じ、差動入力ノイズとして表れます。差動信号の帯域幅を狭くすることで、入力同相コンデンサのミスマッチの影響を低減できます。ADC 入力とリファレンス入力の入力フィルタは、同じ帯域幅に設計します。
この設計では、ADS1261 の低レイテンシ フィルタを使用して、データレートを 20SPS に選択しています。このフィルタにより、シングルサイクル セトリングの低ノイズ測定と、50Hz および 60Hz ライン ノイズ除去機能が実現できます。ADC 入力フィルタの場合、差動および同相フィルタの帯域幅周波数は以下の式で近似されます。
ADC 入力フィルタの場合、RIN = 4.99kΩ、CIN_DIFF = 47nF、CIN_CM = 4.7nF です。これにより差動フィルタの帯域幅は 330Hz、同相フィルタの帯域幅は 5.4kHz に設定されます。
同様に、リファレンス入力フィルタの帯域幅は以下の式で近似されます。
リファレンス入力フィルタの場合、RIN_REF = 3.32kΩ、CREF_DIFF = 47nF、CREF_CM = 4.7nF です。これにより差動フィルタの帯域幅は 330Hz、同相フィルタの帯域幅は 5.3kHz に設定されます。ADC 入力フィルタとリファレンス入力フィルタの帯域幅を一致させることができるとは限りませんが、帯域幅を近づけることで測定でのノイズを低減できます。
入力フィルタの部品選定に関する詳細な分析については、『ADS1148 および ADS1248 ファミリのデバイスを使用する RTD レシオメトリック測定およびフィルタリング』を参照してください。
RTD 測定は通常、レシオメトリック測定です。レシオメトリック測定を使用すると、ADC の出力コードを電圧に変換する必要はありません。これは、基準抵抗値に対する比としてのみ出力コードが測定され、励起電流の正確な値を必要としないことを意味します。唯一の要件は、RTD を流れる電流と基準抵抗を流れる電流が等しいことです。
24 ビット ADC での測定変換の式を以下に示します。
ADC は測定値を RTD 等価抵抗に変換します。RTD の応答の非直線性のため、抵抗から温度への変換には式による計算またはルックアップ テーブルが必要です。RTD 抵抗の温度への変換の詳細については、『RTD 測定に関する基本的なガイド』を参照してください。
レジスタ・アドレス | レジスタ名 | 設定 | 概要 |
---|---|---|---|
02h | MODE0 | 24h | 20SPS、FIR デジタル フィルタ |
03h | MODE1 | 01h | 通常モード、連続変換、変換間遅延 50μs |
04h | MODE2 | 00h | GPIO ディセーブル |
05h | MODE3 | 00h | パワーダウンなし、STATUS または CRC バイトなし、タイムアウトをディセーブル |
06h | REF | 1Ah | 内部リファレンスをイネーブル、REFP = AIN0、REFN = AIN1 |
0Dh | IMUX | 4Ah | IDAC2 = AIN4、IDAC1 = AINCOM |
0Eh | IMAG | 44h | IMAG2 = IMAG1 = 500μA |
0Fh | RESERVED | 00h | 予約済み |
10h | PGA | 03h | PGA イネーブル、ゲイン = 8 |
11h | INPMUX | 34h | AINP = AIN2 と AINN = AIN3 を選択 |
12h | INPBIAS | 00h | VBIAS 電圧およびバーンアウト電流源をディセーブル |
以下に示す疑似コード シーケンスには、ADS1261 からの後続の読み取り値を連続変換モードで取り込むように、本デバイスと、ADC に接続するマイクロコントローラを設定するために必要な手順が含まれています。専用の DRDY ピンは、新しい変換データが使用可能かどうかを示します。疑似コードは、STATUS バイトおよび CRC データ検証を使用せずに示しています。ADS1261 のコード例は、ADS1261 の製品フォルダから入手できます。
Configure microcontroller for SPI mode 1 (CPOL = 0, CPHA = 1)
Configure microcontroller GPIO for /DRDY as a falling edge triggered interrupt input
Set CS low;
Send 06;//RESET command to make sure the device is properly reset after power-up
Set CS high;
Set CS low;// Configure the device
Send 42// WREG starting at 02h address
04// Write to 5 registers
24// 20SPS, FIR digital filter
01// Normal mode, Continuous conversion, 50µs delay between conversions
00// GPIOs disabled
00// No power-down, no STATUS or CRC byte, timeout disabled
1A;// Internal reference enabled, REFP = AIN0, REFN = AIN1
Set CS high;
Set CS low;// Configure the device, IDACs
Send 4D// WREG starting at 0Dh address
05// Write to 6 registers
4A// IMUX2 = AIN4, IMUX1 = AINCOM
44// IMAG2 = IMAG1 = 500µA
00// RESERVED
03// PGA enabled, Gain = 8
34// Select AINP = AIN2 and AINN = AIN3
00;// VBIAS voltages and burn-out current sources disabled
Set CS high;
Set CS low;// For verification, read back configuration registers
Send 22// RREG starting at 02h address
10// Read from 17 registers
00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00;// Send 17 NOPs for the read
Set CS high;
Set CS low;
Send 08;// Send START command to start converting in continuous conversion mode;
Set CS high;
Loop
{
Wait for DRDY to transition low;
Set CS low;
Send 12// Send RDATA command
00 00 00;// Send 3 NOPs (24 SCLKs) to clock out data
Set CS high;
}
Set CS low;
Send 0A;//STOP command stops conversions and puts the device in standby mode;
Set CS to high;
RTD 回路方式 | 利点 | 欠点 |
---|---|---|
2 線式 RTD、ローサイド リファレンス | 最も低コスト | 最も精度が低い、導線抵抗の相殺なし |
3 線式 RTD、ローサイド リファレンス、2 つの IDAC 電流源 | 導線抵抗の相殺が可能 | IDAC 電流のミスマッチに敏感だが、IDAC 電流を交換し 2 つの測定値を平均化することでミスマッチを解消可能 |
3 線式 RTD、ローサイド リファレンス、1 つの IDAC 電流源 | 導線抵抗の相殺が可能 | RTD の測定と導線抵抗の相殺を目的とした 2 回の測定が必要 |
3 線式 RTD、ハイサイド リファレンス、2 つの IDAC 電流源 | 導線抵抗の相殺が可能、ローサイド リファレンスを使用するよりも IDAC のミスマッチの影響が少ない | 別途バイアス用の抵抗が必要、電圧の増加が低電源電圧動作に適合しない場合がある |
4 線式 RTD、ローサイド リファレンス | 最も精度が高い、導線抵抗誤差なし | 最も高コスト |
デバイス | 主な特長 | リンク | 他の使用可能デバイス |
---|---|---|---|
ADS1261 | ファクトリ オートメーション向け、PGA、Vref、2 個の IDAC、AC 励起を搭載した 24 ビット、40kSPS、10 チャネル デルタ シグマ ADC | ファクトリ オートメーション向け、PGA、VREF、IDAC、AC 励起を搭載した 24 ビット、40kSPS、10 チャネル デルタ シグマ ADC | 高精度 ADC |