JAJT302 February 2024 LMG3526R030 , TMS320F280049C , UCC27517
Brent McDonald
従来型の連続導通モード (CCM) 制御では、軽負荷、最大効率時に力率補正 (PFC) を改善すると同時に受動部品の小型化を実現する、コスト効率の優れたソリューションのニーズを満たすことが困難になりつつあります。エンジニアは、これらの懸念に対処するために複雑なマルチモード ソリューションの研究が積極的に進めています [1]、[2]。これらのアプローチは、インダクタのサイズを縮小すると同時に、軽負荷時のソフト スイッチングにより効率を改善できるという点で魅力的です。
しかし、この Power Tip では、高効率と低全高調波歪 (THD) を実現する新しいアプローチを紹介します。この方法は、複雑なマルチモード制御アルゴリズムを使用する必要がなく、また、あらゆる動作条件でスイッチング損失をゼロにすることができます。これは、スイッチがゼロ電圧スイッチング (ZVS) でオンになるかどうかを示すフラグを内蔵した、高性能な窒化ガリウム (GaN) スイッチを使用します。このアプローチにより、THD を強制的に非常に低くすると同時に、あらゆる動作条件で高効率の ZVS を実現できます。
このシステムで使用しているトポロジは、統合型の三角波電流モード (iTCM) トーテムポール PFC です [3]。大電力で高効率のシステムの場合、トーテムポール PFC には導通損失に関して明確な利点があります。このトポロジの TCM バージョンでは、スイッチがオンになる前に必ずインダクタ電流がマイナスで十分に大きくなるようにすることで、強制的に ZVS を行います [4]。図 1 に、トーテムポール PFC の iTCM バージョンを図示します。
TCM コンバータと iTCM コンバータの違いは、Lb1、Lb2、Cb の存在です。通常動作時、Cb の両端の電圧は入力電圧 Vac と等しくなります。180 度の位相差で動作する 2 つの相は、リップル電流を打ち消すことで Cb での 2 乗平均平方根電流ストレスを低減します。Lb1 と Lb2 は 、TCM 動作に必要な高周波 AC リップル電流のみを処理する大きさとなっています。これにより、[4] で定義されているように、TCM で使用するインダクタに必要な DC バイアスが除去されます。Lb1 と Lb2 のフェライト コアは、ZVS に必要な高い磁束スイングが存在する状況でも、損失を低減するのに役立ちます。Lg1 と Lg2 は、Lb1 と Lb2 に比べて値が大きいため (10 倍程度)、ほとんどの高周波電流が入力電源に流れ込むのを防ぎ、電磁干渉 (EMI) を低減できます。さらに、Lg1 と Lg2 でリップル電流が低減されているため、低コストのコア材料の使用が可能となります。図 1 には、いくつかの主要な分岐のリップル電流エンベロープも示しています。
テキサス・インスツルメンツ (TI) の TMS320F280049C マイコンと LMG3526R030 GaN 電界効果トランジスタ (FET) により、制御が容易になります。これらの FET には、ゼロ電圧検出 (ZVD) 信号が内蔵されており、ZVS によりスイッチがオンになると必ずアサートされます。マイコンは ZVD 情報を使用してスイッチのタイミング パラメータを調整し、ZVS を実現するのに必要十分な電流でスイッチをオンにします。単純化のため、単相 iTCM PFC コンバータを 図 2 に図示します。表 1 に、この図で使用される主要な変数を定義します。マイコンは、システムの一連の微分方程式を正確に解くアルゴリズムを使用しています。これらの式は、両方のスイッチを強制的に ZVS し、電流を強制的に電流コマンドと等しくする条件を使用します。システムが両方のスイッチに対して適切な量の ZVS で動作していれば、これらの式は正確です。正常に動作していれば、このアルゴリズムは 0% THD のタイミング パラメータと最適な ZVS 量を求めます。ZVS 状態を容易にするため、各スイッチ (S1 および S2) はそれぞれの ZVS ターンオン ステータスをサイクルごとにマイクロコントローラに報告します。図 2 の Vhs,zvd、および Vls,zvd は、ZVD のレポーティングを示しています。
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図 3 に、ZVD のタイミング調整プロセスを図示します。各スイッチング サイクル中に、マイクロコントローラは ZVD 信号の累積履歴に基づいてスイッチのタイミング パラメータ (ton、toff、trp、trv) を計算します。図 3b は、理想的な周波数で動作しているシステムを示します。理想的とは THD が 0% でハイサイドとローサイドの各 FET に最適な量の ZVS が得られることを意味します。図 3a は、動作周波数が理想周波数より 50kHz 低い場合を示しています。ハイサイド FET は (ハイサイド ZVD 信号の損失によって示されるように) ZVS を失う一方で、ローサイド FET は ZVS を実現するために必要な値よりも多くの負の電流が流れることに注意してください。その結果、効率が低下し、力率が歪みます。図 3c は、動作周波数が理想周波数より 50kHz 高いときに発生します。この場合、ハイサイド FET は ZVS となりますが、ローサイド FET は ZVS を失います。ここでも、効率と歪みの明らかな損失が発生しています。
ZVD 信号の有無に基づいて、コントローラは周波数を増減し、システムを最適な動作ポイントにプッシュします。このように、制御動作は積分器のように動作し、最適な動作周波数を見つけようとします。最適となるのは、システムが、サイクルごとに ZVS をほぼ得られていないスレッショルドで停止しているときです。
図 4 に、これまで説明したトポロジとアルゴリズムを使用して製作したプロトタイプを示します。
表 2 に、プロトタイプの仕様と重要なコンポーネントの値のまとめを示します。
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図 5 にプロトタイプの測定ノードを示し、図 6 に最大電力 (5kW) で動作するプロトタイプのシステム波形を図示します。スイッチ ノード電流 IL,A および IL,B は、それぞれのブランチの Lg および Lb の電流の和です。プロットのズーム部分には、正のハーフサイクル中の波形の詳細が表示されます。電流波形は理想的な三角波で、スイッチ ノード電圧 VA および VB に示されるように、ZVS を実現するのに必要十分な負電流になっています。さらに、電流波形の正弦波エンベロープは、THD が低いことを示唆しています。
負荷範囲全体にわたって測定された効率と THD を、図 7 に示します。効率は負荷範囲のほぼ全体にわたって 98.5% を上回っており、最大効率は 99% 超となっています。THD の最大値は 10% で、ほとんどの負荷範囲で 5% 未満です。性能を最適化するために、ユニットの位相は約 2kW で減少または増加します。
ZVD 信号を使用してトーテムポール PFC コンバータの動作周波数を制御し、高効率と低 THD を実現することができます。このやり方およびシステムのシミュレーション モデルの詳細については、『可変周波数、ZVS、5kW、GaN ベース、2 相トーテムポール PFC のリファレンス デザイン』を参照してください。
この記事は、以前 EDN.com で公開された記事 です。
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