JAJT356 October 2024 RES60A-Q1
最新の電気自動車 (EV) とハイブリッド電気自動車 (HEV) において、バッテリ管理システム (BMS) はバッテリ パックの頭脳の役割を果たし、バッテリの性能や安全性、寿命を確保する役割を担います。BMS は充電状態などのパラメータを監視してエネルギーの残量や健全性を把握し、バッテリ セルの全体的な状態と経年劣化の評価を行います。これらの指標は、効率的なエネルギー使用を維持し、バッテリの早期劣化を抑制するのに役立ちます。
バッテリ効率や環境サステナビリティに関する規制を満たすために、自動車メーカー各社は自動車の寿命全体を通して、バッテリの健全性を高い水準で維持する必要があります。たとえば、カリフォルニア州大気資源委員会は、10 年あるいは 150,000 マイル走行後の電気自動車のバッテリ充電 1 回当たりの航続距離が、初期の 80% 以上を維持することを 2030 年モデルまでに達成するように義務付けた規格を発表しました。これは 2026 年モデルへ適用される要件をさらに厳しくしていった結果であり、2031 年以降のモデルに対しても引き続き厳しくなっていきます。同様の規格がすでに世界各地で施行されており、より進んだ統合型ソリューションを BMS に実装し、センシング精度をさらに向上することが求められています。この記事では電圧減衰に統合型の高電圧抵抗デバイダを使用して、ディスクリート抵抗チェーンに比べ精度が高くスペース効率の優れたアプローチを実現する方法をご紹介します。これにより、BMS がバッテリ パックのバランスを改善し、バッテリ寿命を延ばすことが可能になります。
図 1 に、EV 内部のバッテリ セルとバッテリ管理システムを図示します。
一般的な EV バッテリの電圧は 400V 以上であり、この業界では 1kV 以上の高電圧へと移行しつつあります。より電圧の高いバッテリは、最大電流要件の低減と効率の最大化に役立ちます。この電圧を測定して適切な車両システムにその電圧を伝えるには、A/D コンバータ (ADC) を使用した信号変換が必要ですが、通常、この ADC は 5V 前後の電源電圧で動作します。ADC は、この電圧を超える入力信号を受け付けることはできません。
ADC や他の低電圧部品を、より高いバッテリ電圧から保護するには、高電圧ドメインと低電圧ドメインの間のバリアを維持するために、絶縁型アンプなどのデバイスが必要です。絶縁型アンプは 2 つの電圧ドメインの間のブリッジとして機能するのですが、ADC と同じような電圧範囲しか受け入れることができないので、絶縁アンプに達する前にバッテリ電圧を減衰させる必要があります。これには一般に抵抗デバイダが使用され、高電圧信号をより低い電圧のフルスケール レンジまで低減します。
図 2 は、バッテリ電圧を許容可能なレベルまで減衰するために、長い一連の抵抗を使用して設計した DC バス測定の回路図です。
400V を上回る電圧を取り扱う場合、電気的アーク放電を防止し、安全な絶縁を確保するために、沿面距離と空間距離を考慮する必要があります。従来の抵抗デバイダでは 2 つの抵抗しか必要ありませんが、高電圧減衰では多くの場合、沿面距離と空間距離の観点から高電圧ノードと低電圧ノードの間の物理的距離を増やすために、抵抗チェーンが長くなることが特徴です。IEC 60115-8 により、各抵抗の両端間での最大持続電圧降下は制限されており、通常、1206 サイズの表面実装抵抗では 200V、0805 サイズでは 150V となっています。
しかしながら、この設計方法にはいくつかの欠点があります。高精度抵抗を使用した場合でも、各ディスクリート抵抗固有の許容誤差が異なると、電圧分割比に大きなばらつきが生じ、電圧測定の精度が低下する可能性があります。また、ディスクリート抵抗は、温度変化や経年劣化により抵抗値が変化する可能性があります。このような抵抗では両端にある半田部分も露出しているので、コンフォーマル コーティングなどの保護を行わないと、リーケージや寄生容量または寄生インダクタンスが増加する可能性があり、コストが増加します。
長いディスクリート抵抗チェーンではこのような影響が複雑になる可能性があり、時間の経過に伴って電圧センシングの精度がさらに低下します。これにより、充電状態や健全性状態の推定に誤差が発生し、不適切な充放電サイクルなど、バッテリ管理が適正に行われなくなり、最終的にバッテリ寿命の短縮や EV の航続距離の低下などにつながります。
抵抗デバイダを内蔵した RES60A-Q1 の幅の広い SOIC パッケージは、国際電気標準会議 (IEC) 61010 規格で規定されている、最大 1.7kV の電圧に対応する沿面距離と空間距離の規格に準拠するように特に設計されています。
このデバイスには、性能と信頼性の点で大きな利点があります。初期の電圧分割比および公差の経時変化の最大制限値が規定されているため、経年変化や、温度変化などの環境変化の影響があっても、電圧分割比が正確なまま維持されます。この信頼性は、一貫したパフォーマンスを優先するアプリケーションで重要です。
IC パッケージに封止された設計により、長いディスクリート抵抗チェーンが不要になり、必要とされるプリント基板のフットプリントを低減できます。この統合により回路レイアウトが簡素化されるだけでなく、組み立てコストも削減されます。露出したノードの数が減ることでリーケージや寄生容量または寄生インダクタンスによる誤差の可能性が低くなるので、コンフォーマル コーティングが不要になり、コストの削減も可能になります。
図 3 は、RES60A-Q1、RES11A-Q1、AMC1311B-Q1 を使用して絶縁バリア両側の電圧を測定し、1% 未満のフルスケール レンジ誤差を達成する方法を提供する DC バス測定の回路図です。
差動出力を採用したテキサス・インスツルメンツの AMC1311B-Q1 のような絶縁型アンプが広く使用されています。これは、差動出力が、より長い距離にわたって信号を伝送するのに理想的である一方、設計者は安全性のために高電圧の電源から離れた場所に低電圧部品を配置することがよくあるためです。この信号をシングルエンド ADC に供給するには、内蔵の差動アンプ、またはアンプの周囲に構成された 4 つのディスクリート抵抗を追加することによる差動からシングルエンドへの変換が必要です (図 3 を参照)。
ディスクリート抵抗デバイダが減衰時に誤差を引き起こす可能性があるのと同様の理由から、ディスクリート差動アンプの実装では個別の抵抗により電圧分割比のドリフトが生じる可能性があります。RES11A-Q1 などの内蔵抵抗を OPA388-Q1 などの高精度アンプと組み合わせると同相信号除去比の高い差動アンプとなり、ノイズやその他の誤差を低減できます。
ディスクリート抵抗チェーンから RES60A-Q1 のようなソリューションへの移行は、BMS の高電圧減衰回路を設計する際に多くの利点があります。差動信号変換に、これらの統合型デバイスを RES11A-Q1 のような補完部品と組み合わせると、EV が長期間にわたってバッテリの健全性を維持するのに役立ちます。
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