電気を盗む一般的な非侵襲的方法の 1 つは、強力な永久磁石または AC 磁石を電気メータの近くに配置し、メータを改ざんすることです。永久磁石または AC 磁界は、トランス電流センサ、シャント電流センサ (シャントは AC 磁石のみの影響を受けます)、電源トランスなどのメータのコンポーネントに影響を及ぼす可能性があります。これらのコンポーネントは磁気改ざんに弱いため、公共事業の顧客が消費したエネルギーに対して、請求される料金が少なすぎ、結果として消費者は電気を盗むことができます。
メータは磁気改ざんを受けやすいため、電気メータでは多くの場合、磁気センサを使用して外部の磁界を検出し、メータへのサービスを切断する、または磁気改ざんに対して罰金を科すなど、適切な対応が行われます。この設計では、TMAG5273 リニア 3D ホール効果センサで磁気改ざん検出を行います。このセンサには、他の磁気センシング・デバイスや設計と比較して、以下のような利点があります。
- 組み立てが簡単:ホール・センサは一般に、リード・スイッチと比べて丈夫です。リード・スイッチは組み立て中に破損することがあります。
- 必要な表面実装 IC は 1 つだけ:TMAG5273 を使用して 3 方向のセンシングを行う場合、1D ホール効果センサなら 3 つの表面実装 IC が必要ですが、3D リニア・ホール効果センサなら 1 つで十分です。したがって、3D リニア・ホール効果センサを使用すると、よりコンパクトなプリント基板 (PCB) レイアウトを実現できます。さらに、1D ホール効果センサの実装では、方向のいくつかの検出にスルーホール・センサが必要な場合があるのに比べて、表面実装のみの場合は PCB の製造コストを低減できます。
- 磁気改ざんスレッショルドを柔軟に定義:3D リニア・ホール効果センサは、実際に検出された磁束密度値に関する情報を提供するため、各軸の磁気改ざんスレッショルドは、3D リニア・ホール効果センサの磁気センシング範囲に含まれる任意の値に設定できます。これにより、何が改ざんなのかの定義を変更できます。検出される磁束密度は、磁石からセンサまでの距離や、検出対象となる外部の磁石の性質によって異なるため、この定義は設計ごとに異なります。磁気動作ポイント (BOP) スレッショルドが固定のホール効果スイッチでは、このような柔軟な定義は行えません。磁気計算ツールを使用して、磁石からセンサまでの距離や、検出対象の磁石の種類ごとに、検出される磁束密度を判定し、磁気改ざんスレッショルドの適切な定義を見つけることができます。その後、定義された改ざん条件にさらされたときセンサで検出される磁束密度より低い値に、磁気スレッショルドを設定します。スレッショルドは通常、磁気改ざんを検出できるよう十分に小さく、しかしメータの機能に影響しない磁気を発生させる近くの機器によりシステムの誤検出が起きないよう、十分に大きな値に設定します。磁石とセンサの間の距離は、PCB 上のどこにセンサが配置されているかと、e メータのケースの寸法によって異なります。システムが小さい場合、基板の中央付近に磁気センサを配置すると、メータのケース全体にわたって対称的なセンシングを行えます。または、磁気改ざんの影響を受ける部品の近くに配置することも可能です。特定の多相メータのような大きいシステムでは、1 つの磁気センサでメータの表面全体にわたる改ざんを検出できない場合があります。このような場合、PCB 上に複数の 3D ホール・センサを互いに離れた場所に配置すると、広いセンシング領域をカバーできます。TMAG5273 には 4 セットの注文可能デバイスがあり、工場出荷時に異なる I2C アドレスがプログラムされているため、複数のデバイスが同じ I2C バスを共有できます。
- 複数のデバイス電力モードを切替可能:TMAG5273 は、システムの消費電流の低減が求められるどうかに応じて、複数の電力モード間の切り替えをサポートしています。TMAG5273 には、測定用のアクティブ・モード、消費電流を最小化するスリープ・モード、およびアクティブ・モードとスリープ・モードを自動的に切り替えるデューティ・サイクル・モードがあります。電気メータの各種電力モードの代表的な使用例を次に示します。
- アクティブ・モードは測定に使用され、最も消費電力の大きいモードです。アクティブ・モードが一般的に使用されるシナリオの例は、商用電源が利用可能で、メータが AC/DC 電源で動作している場合です。TMAG5273 のアクティブ・モード消費電流 (2.3mA) は比較的多いものですが、AC/DC 電源で動作していときは無視できます。
- デューティ・サイクル・モードでは、デバイスは測定を行ってから、ユーザーが指定した時間だけ自動的にスリープ状態になります。デューティ・サイクル・モードは、消費電流を抑えながら磁気改ざんを検出するとき、たとえばバックアップ・バッテリで動作しているときに低速で磁気的改ざんの検出が必要なときなどに適しています。デューティ・サイクル・モードで平均消費電流を低減するには、長いスリープ時間を選択します。スリープ時間を選択するとき、スリープ時間は磁気測定に求められる応答時間よりも短く設定します。たとえば、ウェークアップとスリープ・モードを使用して 2ms ごとに磁気改ざんを検出するには、スリープ時間を 1 秒ではなく 1ms に設定します。
- スリープ・モードでは、デバイスは磁気測定を行いません。ウェークアップおよびスリープ・モードの代わりに、MCU がセンサをスリープ・モードに設定し、目的のスリープ時間が経過した後にセンサをウェークアップするように設定することもできます。この方法を使用すると、MCU のオーバーヘッドは増えますが、MCU に独自のウェークアップおよびスリープ・モードがあり、そのサイクルごとに MCU が TMAG5273 を再構成できるなら、システム全体では消費電流を減らせることがあります。システムが、バックアップ・バッテリで動作しているときは磁気改ざんを検出する必要がないなら、バッテリで動作しているときは TMA5273 を単にスリープ・モードに移行してシステムの消費電流を減らし、システムが AC/DC 電源で動作できるようになったときアクティブ・モードに戻すことが可能になります。
- 磁気改ざんが検出されたときの GPIO ピンの割り込み (デバイスによって異なる):TMAG5273 には、いずれかの軸で検出された磁束密度がユーザー定義の磁気スイッチング・スレッショルドを超えたとき、割り込みピンをセットする機能があります。ユーザーは、改ざんを検出するため、割り込みの磁気スイッチング・ポイントを、目的の磁気改ざんスレッショルドに設定できます。ホール効果センサの割り込みピンを使用して、MCU が低消費電力モードのときにマイクロコントローラをウェークアップでき、マイクロコントローラはホール効果センサを読み取って磁気改ざんを判定する必要がないため、バックアップ電源で動作しているときは、ホール効果センサの割り込みピンでウェークアップされるまで、MCU を低消費電力モードに移行できます。汎用入出力 (GPIO) ピン割り込み機能とデューティ・サイクル電力モードを併用すると、システムの消費電流を低減し、バックアップ電源の寿命を延長できます。ホール効果センサの GPIO ピンによってマイクロコントローラがウェークアップされたら、MCU は割り込みを引き起こした磁界読み取りの検出値を取得してから、GPIO 割り込みによるウェークアップおよびスリープ・モードを再度イネーブルできます。
- AC 磁界の検出:AC 磁界は、電流トランスに影響を及ぼすだけではありません。AC 磁界はシャントおよび Rogowski コイルの電流センサにも影響を及ぼします。AC 磁界を検出するには、リニア 3D ホール・センサも使用できます。図 2-2 に示すように、AC 磁界を検出するには、実効サンプリング期間が十分に速く、スリープ時間が十分に短くて、AC 磁界の波形のサイクルに沿って十分な数のサンプルを正しくキャプチャできる必要があります。実効サンプリング期間は、1 セットのサンプルを取得するために必要な時間に対応しており、デバイスの内部サンプリング・レートによって異なります。リニア・ホール・センサでは、実際に検出された磁束密度の情報が得られるため、センサは低サンプル・レートのホール・スイッチよりも AC 磁界をより的確に検出できます。