JAJY142 January 2024 BQ79731-Q1 , DRV3901-Q1 , DRV3946-Q1 , TPSI2140-Q1 , TPSI3050-Q1
安全性、利便性、カスタマイズへの消費者の期待の高まりに牽引され、今や最新の自動車はソフトウェア中心の変革期を迎えています。スマートフォンが携帯電話の役割と意味を再定義したように、ソフトウェアで定義された車両は、車両のハードウェア アーキテクチャを再定義し、運転者が自動車に求める機能を柔軟に選べるようにしています。
今や自動車メーカ各社は、車両のハードウェア アーキテクチャとソフトウェア アーキテクチャを再構築する機会を手にしているのです。パワートレイン ドメイン制御やゾーン制御のアーキテクチャへの移行から、よりインテリジェントな半導体技術によって実現される、よりスマートなシステムの設計やマイクロコントローラ数の削減に至るまで、車両内のさまざまなサブシステムにおいて、ソフトウェア定義自動車が及ぼす影響を実感できます。
「バッテリ管理システムの技術革新がもたらす EV の普及」では、バッテリ管理システム (BMS) のアーキテクチャと重要なサブシステムについて検証しています。 ソフトウェア定義自動車への移行というトレンドが、HEV や EV の BMS にどのような影響を及ぼすかについて詳細に説明しています。
Dag Grini
Issac Hsu
Jordan Jennifer
Bryan Marshall
Mike Pienovi
Andreas Schaefer
車両アーキテクチャは、より集中処理化され、よりスマートなシステムへとトレンドが変化しており、これらのシステムに搭載される半導体技術も進化する必要があります。本書では、ハイブリッド電気自動車 (HEV) や EV パワートレインの構造に変化をもたらしているトレンドと、バッテリ管理システム (BMS) 関連の技術が、より安全でスマートな車両の要件に対応するためにどのように変化しているかを検証します。
1 ドメイン制御とゾーン制御に進化するパワートレイン | ドメイン アーキテクチャとゾーン アーキテクチャへの移行、およびシステム設計と半導体技術への影響について理解します。 |
2 BMS 内のインテリジェンスを実現する技術:マイクロコントローラ | より安全でスマートな BMS への移行がもたらす、マイクロコントローラ技術、通信インターフェイス、バッテリ ジャンクション ボックスの各設計の進化を確認します。 |
3 デジタル ツイン、機械学習、フリート管理 | インテリジェントなバッテリのデジタル ツインなどのトレンドをけん引する機械学習アルゴリズムがどのように応用できるかを説明します。 |
従来、設計者は、センサやアクチュエータにさらなるインテリジェンスが必要な場合、車両設計にマイクロコントローラを追加し、いっそう複雑な制御や通信の必要性を生み出してきました。しかし、異なる車両プラットフォームでさらに複雑なオプションを組み合わせると、車両システムの記述が複雑になり、開発工数が高くなり、メンテナンスも困難になります。たとえば、ワイヤレス更新では、すべての構成に対してテストが必要であり、そのプロセスにかなりの時間と複雑さをもたらしました。
複雑さ、重量、コストの課題を解決するために、ドメイン制御とゾーン制御のアーキテクチャ概念が生まれたのです。これらの異なるアーキテクチャが車両内のサブシステムに求めるものを見てみましょう。
ドメイン アーキテクチャでは、関連する機能に基づいて各ドメインが特定の電子制御ユニット (ECU) を集約します。たとえば、図 1 に示すように、オンボード チャージャ、DC/DC コンバータ、トラクション インバータ、BMS は HEV/EV 制御ドメインに含まれ、単一の集中型マイクロコントローラを共有します。これにより、分散して存在するマイクロコントローラの数を減らし、機能を近接させてインターフェイスを簡略化するとともに、同一の機能を単一のマイクロコントローラに集中させることでコンピューティング リソースの共有が可能になります。たとえば、OBC とインバータは同時に動作することはなく、代わりに計算能力を共有することになります。
ゾーン アーキテクチャは、ドメイン制御の考え方をさらに一歩進めたもので、図 1 に示すように、車両内の位置に基づいて、ゾーンごとに機能をまとめて、マイクロコントローラで制御します。複数のゾーンに分散して存在するセンサやアクチュエータは適時通信を必要とするため、各ゾーンは高帯域通信バックボーンで接続されています。ゾーン アーキテクチャを採用すると、必要なマイクロコントローラの数を削減すると同時に、配線ハーネスの複雑さや重量を軽減し、さらなるコスト節減と航続距離の延長が可能になります。ハードウェアとソフトウェアの更新サイクルは切り離されるので、自動車メーカはサービス ベースのソフトウェア構造に移行することができます。
ドメイン アーキテクチャとゾーン アーキテクチャにはそれぞれ異なる利点と課題がありますが、クロスオーバー アーキテクチャ内では同じ車両内に共存することもできます。たとえば、自動運転支援システム (ADAS) がゾーンを活用すると同時に、BMS はドメイン制御アプローチを使用することができます。パワートレインからドメイン制御アーキテクチャやゾーン制御アーキテクチャへの転換は、多くの場合、機能の安全性やシステムの機動性において具体的な課題に対処した後で行われます。マイクロコントローラの機能をできるだけ集中化させようという当初の理念に従うと、BMS は洗練されたインターフェイスまたは標準化されたインターフェイスを経由して通信しなければならず、エッジ側でのマイクロコントローラのインテリジェンスはないことになります。このタイプの実装は、マイクロコントローラの数を削減するという目標に合致しています。
ところが、セルやパックの高電圧チップセット データ (電圧、電流、温度の測定値および関連する安全対策) が未加工データとして転送されるため、技術的な課題が生じます。フォルト検出時間間隔、フォルト応答時間間隔、安全状態は厳密に定義されているため、インターフェイスで利用可能な帯域幅を詳細に観察して最適化する必要があります。また、ゾーン制御マイクロコントローラまたはドメイン制御マイクロコントローラには、特定の時間間隔内で処理するために厳格なタイム スロットが必要になります。図 3 は、BMS 内の組み込みシステム アーキテクチャの比較を示したものです。
高電圧チップセットにさらにインテリジェンスを搭載したり、BMS のエッジで、たとえばスマート バッテリ ジャンクション ボックス内に小型セーフティー マイクロコントローラを追加したりすると、課題はよりシンプルになります。機能の安全性対策にローカルで対応することで、BMS 内ではタスク以外のデータが送信されることはありません。エッジ側のローカル セーフティー マイクロコントローラは、基盤となる未加工データの代わりに、ローカルで取得した OK/nOK データを集中型マイクロコントローラに送信することで、タイミングと帯域幅に関する課題を大幅に軽減します。
このアプローチは、マイクロコントローラの数を削減するという当初の意図とは矛盾しますが、より多くの利点をもたらすものです。ローカル マイクロコントローラは、コントローラ エリア ネットワーク フレキシブル データ レート (CAN-FD) やイーサネット 10BASE-T1S のような標準化されたインターフェイスを使用できるようにし、さらに、パックのマルチ ソーシングや、クロス ビークル、クロス プラットフォーム、クロス ジェネレーションの互換性を有効にする、統一された抽象化レイヤを導入することができます。
これらのアーキテクチャをサポートし、よりインテリジェントなシステムを実現する BMS 内の技術についていくつか説明しましょう。