温室効果ガス (GHG) 排出量の削減に向けた世界的な取り組みにより、自動車の進化が加速しています。自動車メーカーにとって、新車のパワートレイン電動化の推進は不可欠になっています。マイルド・ハイブリッド電気自動車 (MHEV) は、48V モータ駆動システムの採用により内燃エンジン (ICE) からの GHG 排出量を削減し、フル HEV と比較して実装コストがはるかに低く抑えられることから、規制対応のための魅力的な選択肢として浮上しました。このホワイト・ペーパーでは、MHEV で Automotive Safety Integrity Level D (ASIL D:自動車安全水準レベル D) を達成するとともに、最大 30kW のモータ動力と高集積化を実現し、DRV3255-Q1 48V BLDC モータ・ドライバを使用してボード面積を縮小する方法を説明します。
米国、日本、中国、EU などの国々における温室効果ガス (GHG) 排出量の削減に向けた世界的な取り組みにより、自動車の進化が加速しています。たとえば、米国運輸省道路交通安全局は 2020 年 3 月に、2021~2026 年の自動車燃費規制のための最終的な環境影響評価書[1]を発表しました。この評価書のセクション 2.2.2.3 で、2026 年までの乗用車とトラックの企業平均燃費の目標値は 40.4mpg と見積もられています。また、EU は、パリ協定 (COP21)[2] の下、温室効果ガス排出量を 2030 年までに (1990 年比) 40% 削減することを表明しました。
自動車メーカーが GHG 排出量削減目標を達成する方法は複数あります。その 1 つが、48V モータ駆動システムを搭載したマイルド・ハイブリッド電気自動車 (MHEV) の開発です。内燃エンジン (ICE) は燃焼中に GHG を排出するため、自動車の走行中は MHEV の ICE はオフになり、ICE からの GHG 排出量が低減します。このようにして、48V モータ駆動システムは 48V バッテリを充電し、自動車に電力を供給します。自動車メーカーにとって、MHEV は、GHG 排出量削減目標を達成するための魅力的な選択肢です。その理由として、MHEV はフル HEV と比較して実装コストがはるかに低く抑えられ、設計の自由度が高いことが挙げられます。
MHEV の 48V モータ駆動システムは、設計目標に基づき、さまざまなポイントでトランスミッション・システムに接続できます。図 2-1 に、トランスミッション・システムの接続ポイントを示します。
48V モータ駆動システムは、P0 または P1 に配置された場合、スタータとジェネレータの両方の機能を実行する ICE に接続されるため、スタータ・ジェネレータとして機能します。P2、P3、または P4 に配置された場合、48V モータ駆動システムはモータ・ジェネレータとして機能します。
48V モータ駆動システムの設計を成功に導く要因がいくつかあります。それは高出力モータ駆動、安全性、および小型化です。高出力モータ駆動は、GHG 排出量削減を達成するために重要となります。安全性は、48V モータが走行時とブレーキ時の動力を生成するために重要となります。また、48V モータがスタータ・ジェネレータとして機能する場合は、エンジン始動時に動力補助を行うために重要となります。小型化は、48V モータ駆動システムを、ICE の近くのエンジン・ルームの限られたスペース内に搭載するために重要となります。
一般的な 48V モータ駆動システムは、自動車のパワートレイン・アプリケーションでは 10kW~30kW の電力を必要とします。48V と 12V のデュアル電源システムは、このレベルの高出力モータ駆動をサポートできます。48V 高出力モータ・ドライバ向けの電源アーキテクチャにはさまざまな種類があります。
図 3-1 に、最も一般的な 48V モータ・ドライバの電源アーキテクチャを示します。48V バッテリは、DC/DC 降圧レギュレータを使用してモータに接続し、モータ・ドライバ、パワー・マネージメント IC、およびマイクロコントローラへの給電を 48V から 12V にダウンコンバートします。12V バッテリからの 12V 給電は、ダイオードの並列接続により、不可欠のモータ制御機能用の12V 給電として確保されます。48V 電源電圧は、国際標準化機構 (ISO) 21780 でカバーされる規格に準拠する必要があります。図 3-2に、これを示します。
図 3-1 に示すように、48V 高出力モータ・ドライバは、外付けの金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ (MOSFET) を駆動し、モータを回転させます。10kW~30kW の給電をサポートするために、これらの外部 MOSFET は 200A~600A 以上の電流をサポートする必要があります。MOSFET の RDS(on) を最小限に抑えることで、放熱と導通損失を低減できます。場合によっては、各 MOSFET の放熱が分散されるため、チャネルごとに複数の MOSFET を並列接続する方が適切です。そのため、MOSFET のゲート総電荷は大きくなり、300nC~700nC などの大電流の範囲をサポートします。極端なケースで、30kW の給電をサポートする場合、MOSFET の総ゲート電荷は 1,000nC にまで達する可能性があります。
スイッチング損失によって発生する放熱を最適化し、ソリューション全体で電磁適合性 (EMC) の仕様を満たすことが重要です。MOSFET の VDS の立ち上がり時間と立ち下がり時間によって、スイッチング損失が決まります。立ち上がり時間と立ち下がり時間が短ければ、スイッチング損失を低減できますが、EMC の性能が影響を受けます。図 4-1 に、MOSFET のゲート電荷と MOSFET のスイッチング中の立ち下がり時間の関係を示します。
図 3-2 に示すように、48V バッテリが公称電圧を上回り、60V の制限値を超える過渡オーバーシュートが発生する可能性があります。逆に、モータ・ドライバの位相接続ピンは、負の過渡電圧に対する耐性を備えている必要があります。これは、MOSFET の寄生ダイオードの逆回復時間が原因で、応答速度が遅くなるためです。負の電圧に対処するとともに 48V よりも高い電圧で通常の動作を維持するモータ・ドライバを選択するのは困難です。
統合型の DRV3255-Q1 48V BLDC モータ・ドライバは、ハイゲート負荷 MOSFET を駆動する設計になっています。ゲート・ドライバ出力のピーク・ソース電流は 3.5A、ゲート・ドライバ出力のピーク・シンク電流は 4.5A です。このような高い電流駆動能力により、ゲート電荷が 1,000nC の場合でも、MOSFET の VDS の立ち上がり時間と立ち下がり時間を短縮することが可能です。また、DRV3255-Q1 は、選択可能なゲート・ドライバ出力電流レベルを実装しています。これにより、システム設計者は、調整可能な電流レベルで立ち上がり時間と立ち下がり時間を微調整してスイッチング損失を最適化できます。その結果、放熱と EMC の性能に効果が生まれます。
DRV3255-Q1 のハイサイド MOSFET ゲート・ドライバ・ブートストラップ・ピンの最大動作電圧は、定格 105V です。また、最大連続動作のモータ電源ピン電圧は 90V で、DRV3255-Q1 は、48V モータの回転時に、正確な 90V 動作をサポートします。ブートストラップ・ピン、ハイサイド MOSFET ソース検出ピン、およびローサイド MOSFET ソース検出ピンの負の過渡電圧の下限値は、定格 -15V です。