コントローラ・エリア・ネットワーク (CAN) プロトコルは、アービトレーション機能と優先順位設定機能により、電源供給、グリッド・インフラ、モーター・ドライブ、ファクトリ・オートメーション、ビル・オートメーションなどのアプリケーションに広く使用されています。これらのアプリケーションの多くには複数の電圧ドメインがあるため、これらの CAN ネットワークの信号パスに沿ってガルバニック絶縁が必要です。CAN 信号を絶縁する方法は、絶縁型 CAN トランシーバを内蔵したデバイスを使用するか、または CAN トランシーバの横にディスクリート・デジタル・アイソレータを配置することです。これにより、低電圧回路を高電圧側から保護できます。これらのデバイスは、ノイズ耐性も向上させ、異なる電圧ドメインの CAN ノード間で信頼性の高い通信を実現します。
ただし、信号パスの絶縁は、異なる電圧レベル間での通信に関連する課題の 1 つにすぎません。アイソレータと絶縁型 CAN トランシーバには、正常に機能させるために絶縁型電源が必要です。一部の限定的な状況では、2 つのドメインに存在するシステム電源から、絶縁デバイスの両側に直接電源を供給できます。より一般的には、1 つの基板の絶縁型 CAN トランシーバは、遠距離にある基板のトランシーバと通信する可能性が高いため、ローカルの絶縁型電源が不可欠となります。
このアプリケーション・ブリーフでは、絶縁型 CAN システムの信号と電源を絶縁するためのさまざまなオプションについて説明します。図 1 に、4 つの異なる絶縁型 CAN ノードを示します。ノード 1 からノード 4 までを見ると、各ソリューションの統合レベルは異なります。ノード 1 は完全なディスクリート・ソリューションで、CAN トランシーバとディスクリート・アイソレータを直列に接続し、トランス・ドライバが外付けトランスを励起し、絶縁型電源 (VISO1) を供給します。ノード 2 は類似の絶縁型電源を使用しますが、基板面積を削減する統合絶縁型 CAN デバイスを使用しています。
ノード 3 は絶縁型データ / 電源デバイス (ISOW7741) を使用して、ノード 1 のデジタル・アイソレータと絶縁型電源ディスクリート部品を排除しています。外付け CAN トランシーバを直列接続することにより、CAN 通信が可能になります。ノード 4 は CAN トランシーバを絶縁型データおよび電源デバイスに統合しており、設計をさらに簡素化できます。
ノード 1 とノード 2 に使用されているディスクリート・ソリューションには、それぞれ利点があります。電力伝送の効率は約 90% であり、トランス・ドライバのスイッチング周波数が低い (150kHz~420kHz) ため、放射エミッションは比較的低くなります。システム要件を満たすために CAN トランシーバを柔軟に選択できることが、ノード 1 と 3 の特長となります。ただし、ノード 4 の完全統合ソリューションが多くの設計者に受け入れられているのには、いくつかの理由があります。
平面トランスをパッケージに統合するには、課題が伴います。絶縁型電源回路によって生成される同相ノイズが発生しないように、ドライバ回路、トランス、レシーバがすべて適合している必要があります。さらに、トランスのサイズを小さくする必要があるため、スイッチング周波数は MHz の範囲内に制限されます。スイッチング周波数が高いほど、システムのノイズは増加します。
テキサス・インスツルメンツの絶縁型 CAN トランシーバ ISOW1044 は、絶縁型電源設計の対称型アーキテクチャを使用しており、競合ソリューションよりもエミッション性能が高くなっています。図 3 に、ISOW1044 放射エミッションのテスト構成を示します。評価基板上で ISOW1044 用の 5V 電源を生成するために、バッテリ電圧源と低ドロップアウト・レギュレータ (LDO) が使用されました。テスト用に、フェライト・ビーズを LDO の前後、および ISOW1044 の出力とグランドの間に配置し、エミッション・スペクトルの高振幅スパイクを抑制しました。
図 4 に示すように、ISOW1044 は、1Mbps の CAN データ・レートで、2 層 PCB 上にスティッチング・コンデンサ、Y コンデンサ、同相チョーク (CMC) を使用せずに、CISPRS32 Class B 規格制限に合格しています。
複数のダイを 1 つのチップに搭載すると、統合型デバイスの放熱性能が課題となります。ISOW1044 と競合デバイスは、どちらもフレキシブル・データ・レート (FD) 速度 5Mbps の同じ条件を使用して CAN でテストされ、熱画像はサーマル・ガンによってキャプチャされています。図 5 に示す結果で、上の画像は ISOW1044 を示し、最高温度は 39.3℃です。競合デバイスも図 5 に示されていますが、ISOW1044 よりも 6.2℃高い温度で動作しています。ISOW1044 の効率は 47% で、消費電力を低減し、サポートされる周囲温度範囲を -40℃~125℃に拡張します。
完全に統合された ISOW1044 は、1 つのデータシートで最高 5Mbps の CAN FD タイミング仕様を保証し、複数の部品を組み合わせることによる不確定性を排除します。また、ISOW1044 は最大 ±58V の拡張バスのフォルト保護機能も搭載しており、偶発的な CAN バスから電源への短絡を防止するための十分なマージンが得られます。さらに、内蔵の 10Mbps GPIO チャネルを使用して、追加のシステム・レベル信号絶縁を実現できるため、追加のフォトカプラやデジタル・アイソレータは不要です。ISOW1044 は単一の 5V 電源で動作させるか、個別のロジック電源を使用して最低 1.8V までの電圧で動作させることもできます。
DC/DC コンバータを内蔵したテキサス・インスツルメンツの絶縁型 CAN トランシーバ ISOW1044 は、市場で入手可能なディスクリート・ソリューションよりもコンパクトなソリューションを実現します。このデバイスは CISPR32 Class B の放射性エミッションに合格しており、高効率で、産業用温度範囲全体にわたって動作できます。
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