制御システムで何かを制御するには、それを検出する必要があります。これは、力率補正 (PFC) アプリケーションにも当てはまります。電力レベルが >75W のオフライン電源では、PFC が入力電流を制御して正弦波を生成します (正弦波入力 AC 電圧に追従)。入力電流を制御するには、入力電流を検出する必要があります。
最も一般的な電流検出方法では、入力電流を検出するため、PFC グランド帰還パスにシャント抵抗 (図 1 の R) を配置し ます。検出された入力電流信号 (ISENSE) は、平均電流モード コントローラ [1] に送信されます (図 2 を参照)。基準電流 (IREF) は入力電圧 (VIN) で変調されるため、正弦波になります。制御ループが入力電流を強制的に IREF に追従させることで、正弦波を実現します。
ほとんどの連続導通モード (CCM) PFC コントローラは、従来型の平均電流モード制御を使用します。従来型の平均電流モード制御は優れた力率を達成し、全高調波歪みが小さいという利点がありますが、特にトーテム ポール ブリッジレス PFC においていくつかの制限があります。この記事では、まったく新しい制御アルゴリズムである充電モード制御 [2] について説明します。
充電モード制御アルゴリズムは、制御における新しい概念です。対象物を制御するのにそれを検出する必要はなく、それがもたらす結果を検出することにより間接的に制御します。PFC の場合、この制御アルゴリズムは、入力電流を直接制御する代わりに、各スイッチング サイクルで PFC 出力に供給される電荷の量を制御します。このために、電荷を制御することで入力電流が正弦波になるようにする特殊な制御規則を使用します。
電荷量情報を取得するには、いくつかの方法があります。図 3 に、電流シャントと、積分器として構成したオペアンプ回路を使用する例を示します。PFC 昇圧スイッチがオフになると、インダクタ電流が PFC バルク コンデンサの充電を開始します。この電流はシャント抵抗で検出され、その後積分器で積分されます。積分器出力のピーク値は、各スイッチング サイクルで PFC 出力に供給される総電荷量を表します。この電荷 (VCHARGE) はコントローラによりサンプリングされ、制御ループの帰還信号として使用されます。積分器は、昇圧スイッチがオフになる前に、Q1 を介してゼロまで放電されます。
図 4 に、 PFC 出力側で電流トランス (CT) を使用する別の方法を示します。CT 出力は、コンデンサ C1 に接続します。PFC 昇圧スイッチがオフになると、インダクタ電流が PFC バルク コンデンサの充電を開始します。CT がこの電流を検出し、その出力が C1 を充電します。C1 の電圧が上昇します。C1 のピーク電圧は、PFC 出力に供給される総電荷を表します。ピーク電圧 VCHARGE はコントローラによりサンプリングされ、制御ループの帰還信号として使用されます。C1 は、昇圧スイッチがオフになる前に、Q1 を介して 0V まで放電されます。
図 5 に、充電モード制御の代表的な信号波形を示します。
各スイッチング サイクルの電荷量情報を取得する方法がわかったので、新しい制御規則を使用して正弦波入力電流波形を取得する方法を見てみます (図 6 を参照)。
図 2 に示す従来の制御規則と比較して、次の 2 つの違いがあります。
図 6 から、電流基準 IREF は次の式で計算されます。
ここで、IREF は電流ループの基準電流、A は電圧ループ出力 GV、B は VIN のフィードフォワード制御に使用される Vrms2、C は VIN2 です。
図 5 から、各スイッチング サイクルの平均インダクタ電流は式 2 で計算されます。
ここで、IAVG は平均インダクタ電流、I1 は各スイッチング サイクルの開始時のインダクタ電流、I2 は各スイッチング サイクルのインダクタ電流ピーク値、TON は昇圧スイッチ Q のターンオン時間、TOFF は昇圧ダイオード D の導通時間、T はスイッチング周期です。
各スイッチング サイクルの C1 (VCHARGE) のピーク電圧は、式 3 で計算されます。
ここで、C は C1 の容量です。
定常状態では、制御ループは VCHARGE を強制的に IREF に一致させます (式 4 を参照)。
定常状態で動作する昇圧タイプのコンバータでは、昇圧インダクタに印加されるボルト秒を各スイッチング周期で平衡させる必要があります (式 5 を参照)。
式 6 で、定常状態では C と T は両方とも一定であり、GV、VOUT、Vrms2 は変化しないため、IAVG は VIN に追従します。VIN が正弦波の場合、IAVG も正弦波となるので、PFC が実現されます。式 2 と式 3 は CCM と不連続導通モード (DCM) の両方に対して有効であるため、式 6 は CCM と DCM の両方の動作に対して有効です。
PFC が DCM で動作する場合、充電モード制御のループ補償はシンプルです。ただし、昇圧コンバータが CCM モードで動作している場合、制御ループ内に右半面ゼロ (RHPZ) が現れるため、ループ補償は課題となります [3]。RHPZ は位相降下を引き起こし、制御ループの潜在的な位相マージンに悪影響を及ぼします。式 7 は、制御ループの小信号モデルを表します。
ここで、RLOAD は PFC の出力負荷、D はパルス幅変調のデューティ サイクル および です。
式 7 は RHPZ ωZ を明確に示しています。その周波数は、負荷、昇圧インダクタンス、 D (D は入力電圧と出力電圧によって変動) によって変動するため、ループ補償は非常に困難です。
RHPZ を除去するため、 式 8 に示すように帰還信号を変更します。
図 7 に、変更された制御規則を示します。この図では、IREF は VIN2 ではなく VIN で変調されています。
この変更により、制御ループの小信号モデルは式 9 で表されます。
RHPZ が除去され、システムが 1 次システムになるため、補償が簡単になります。
図 8 に、新しい制御アルゴリズムを検証したシミュレーション結果を示します。正弦波入力電流波形が実現されています。
充電モードでは、入力電流を直接制御する代わりに、各スイッチング サイクルで PFC 出力に供給する電荷量を制御します。このアルゴリズムはすべての PFC トポロジで機能しますが、双方向インダクタ電流を検出するためにホール効果センサなどのセンサを必要としてきたトーテム ポール ブリッジレス PFC では特に有用です。ホール効果センサの問題は、高価であることに加えて、帯域幅の制限、磁界の影響を受けやすい、DC オフセットが温度により変化するなどの制限が存在することです。充電モード制御ではインダクタ電流を検出する必要がないため、高価な双方向電流センサは不要です。代わりに、電流センス抵抗をはるかに安価な低帯域幅オペアンプまたは CT と組み合わせて使用できます。
トーテム ポール ブリッジレス PFC は、高効率であることから、高効率が必要なアプリケーションに最適です。これまでは高コストが障壁となり広く採用されるに至っていませんでしたが、現在ではこの新しい制御アルゴリズムが、高効率と低コストの両方を必要とするアプリケーションでのオプションとなっています。充電モード制御は、テキサス・インスツルメンツの C2000™ マイクロコントローラや UCD3138 コントローラのような既存のデジタル コントローラを使用してを実装することも、新しいアナログ PFC コントローラの開発で使用することも可能です。
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