Jackson Wightman
高精度試験装置では、高精度のデータ コンバータを利用して、測定された測定結果が被試験デバイスを正確に表していることを確認します。テストおよび測定では、オフセット誤差、ゲイン誤差、または有効ビット数の減少は、いずれも生成される測定値に悪影響を及ぼします。しかし、残念ながらこれらの誤差すべてを排除して高精度システムを設計することはできません。温度ドリフトや長期ドリフトなどの要因は、最終的にはゲイン誤差またはオフセット誤差の形で表れます。このため、測定を正確に行うためにキャリブレーションを行う必要があります。
キャリブレーションを有効にするには、変化しない電圧レベルを利用できる必要があります。通常、これを「ゴールデン リファレンス」と呼ぶ場合もあります。A/D コンバータ (ADC) または D/A コンバータ (DAC) は、これらの既知の電圧レベルを測定するので、結果を比較し、その違いを使用してゲイン誤差とオフセット誤差を決定することができます。図 1 に、この回路の構成例を示します。
ゲイン誤差およびオフセット誤差を定量化すると、ソフトウェアはその差を補償できます。このキャリブレーション方法は、試験用の正確な測定を維持するために不可欠であり、可能な限り変化しないゴールデン リファレンスに完全に依存しています。もちろん、全く変化しない回路は存在しません。したがって、高精度の電圧リファレンスであっても、時間により小さなドリフトを示します。
時間とともに変化するゴールデン リファレンスが、システム全体の精度に影響を及ぼします。システムの精度に影響を及ぼすゴールデン リファレンスのパラメータには、長期ドリフト、温度ドリフト、ノイズなどがあります。
表 1 に示すパラメータによる誤差を最小限に抑える電圧リファレンスを選択すると、ヒーターを内蔵した埋め込みツェナー ダイオードの電圧リファレンスを選択することになります。埋め込みツェナー ダイオードの電圧リファレンスは、時間および温度による電圧レベルのドリフトを最小限とし、超低ノイズを実現しています。このようなデバイスの例として、テキサス・インスツルメンツの REF80 があります。表 1 には、REF80 のいくつかの性能仕様も掲載されています。
電圧リファレンスのパラメータ | 仕様 |
---|---|
長期ドリフト | 10ppm (0~336 時間) 0.9ppm (336~1,000 時間) |
温度ドリフト | 0.05ppm/°C (標準値) 0.2ppm/°C (最大値) |
0.1Hz~10Hz のノイズ | 0.16ppmp-p |
0.1Hz~10Hz のノイズと温度ドリフトは電圧リファレンスの出力に影響を与えるため、キャリブレーション誤差につながります。ただし、キャリブレーションの際に考慮する必要のある最も重要な仕様は、長期的なドリフトです。これは、システム全体のキャリブレーションが必要な頻度に直接影響するパラメータだからです。
試験装置および測定機器全体で ADC と DAC のキャリブレーションを行う場合、埋め込みツェナー ダイオードの電圧リファレンスを使用すると、ADC と DAC の出力値がどのように変化したかを判断するのに役立ちます。埋め込みツェナー ダイオードの電圧リファレンスの時間による変動はごくわずかですが、高精度の試験装置では、出力電圧のわずかな変動も考慮する必要があります。多くの試験および測定システムでは、ゴールデン リファレンスに依存するシステムのキャリブレーションが正確であるように、数か月の間ゴールデン リファレンスをキャリブレーションする必要があります。REF80 の長期ドリフトを、図 2 に示します。
高精度試験および測定システムのキャリブレーションに REF80 が適している理由を示している図 2 には、いくつかの重要な側面があります。まず、出力電圧ドリフトのほとんどは、デバイスが動作を開始した最初の 336 時間、つまり 14 日間に発生します。これは、出力電圧ドリフトのセトリングが速いと出力電圧のドリフトがそれほど大きくないため、キャリブレーションの必要性は少なくなるので重要です。つまり、長期ドリフトが減少すると必要な校正の回数も減るということです。自動試験装置のパラメトリック測定ユニットの場合、この結果は特に重要です (図 3 を参照)。
自動試験装置は、ゴールデン リファレンスの出力電圧ドリフトがテスタの測定精度に影響を与えないように、一定の期間後にキャリブレーションを行う必要があります。キャリブレーションが行われるたびに、システム全体をオフラインにする必要があり、時間とコストがかかります。REF80 などの埋め込みツェナー ダイオードの電圧リファレンスを使用すると、キャリブレーションに要する時間とコストを節約できます。
REF80 と高度なキャリブレーション方法を使うと、精密な試験および測定アプリケーションで、可能な限り長時間正確な精度を維持できます。REF80 が実現できるような精度がなければ、試験や測定は高度なエレクトロニクスを進歩を続けるために必要な結果を得ることができません。高精度新時代を切り開くためにテキサス・インスツルメンツが最善を尽くす中、REF80 のようなデバイスが道を切り拓きます。
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