JAJA612A January   2019  – September 2024 OPA1677 , OPA1678 , PCM1753-Q1 , PCM1754-Q1 , PCM5102A

 

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  3.   商標

設計目標

フィルタ特性
フィルタ入力 カットオフ周波数 フィルタのゲイン
4VPP、1.42VRMS 23kHz 時に -3dB –1V/V、0dB

設計の説明

この回路では、オーディオ デジタル / アナログ コンバータ (DAC) アプリケーション用 2 次アクティブ フィルタの実装を紹介します。車載ヘッド ユニット、ホーム シアターのサウンドバーAV レシーバなどのアプリケーションでは、可聴範囲である約 20Hz~22kHz での不要ノイズは最小限になることが極めて重要です。この理由から、多くのデルタ - シグマ タイプのオーディオ DAC には、ノイズ シェーピング機能が搭載されており、DAC のオーバー サンプリング機能により生成されたノイズを可聴範囲の外側に追いやります。このプロセスを「ノイズ シェーピング」と呼び、実際のノイズを「帯域外ノイズ」と呼びます。PCM1753-Q1 など多くの一般的なオーディオ DAC にはノイズ シェーピング機能があり、帯域外ノイズをデジタル音源のサンプリング レート fS の約 50% に追いやります。このノイズは一般に可聴とは見なされませんが、オーディオ DAC の出力に接続されるアンプ回路に悪影響を及ぼす可能性があります。たとえば、この帯域外ノイズが、より高い周波数で動作する Class-D アンプによりエイリアシングされ、可聴範囲に戻る可能性があります。さらに、フィルタ処理が実装されていない場合、このノイズにも出力アンプで同じアナログ ゲインが適用されます。2 次アクティブ フィルタ設計では、単純な 1 次 RC フィルタよりも、可聴帯域幅のより近くで高レベルのノイズ減衰が可能です。さらに、フィルタに使用されているオペアンプの出力駆動能力により、システムのオーディオ出力のインピーダンスと電流駆動能力を、オーディオ DAC が供給できるものよりも、低くすることができます。

デザイン ノート

  1. 設計の fC は、最低でも、オーディオ システムの一般的なサンプリング レート値である 44.1kHz に最適化されていることに注意してください。デルタ - シグマ変調器からの帯域外ノイズを減衰させるため、fC はサンプリング レートの約 50% にします。より高い周波数のサンプリング レートを使用する場合、カットオフ周波数を周波数ドメイン内でさらに外側に移動し、オーディオ DAC からの帯域幅を広くできます。
  2. すべてのオーディオ DAC に 2 次アクティブ フィルタが必要なわけではありません。一部のオーディオ DAC はノイズ シェーピング アーキテクチャが異なり、帯域外ノイズを可聴範囲からさらに遠くへ移動するため、単純な RC フィルタだけで不要ノイズを減衰できます。
  3. ほとんどのオーディオ システムには DC ブロッキング コンデンサが存在し、オーディオ出力をグランド センターにできます。この設計では、ブロッキング コンデンサを DAC の出力に直接配置しますが、アンプにもわずかなオフセットが存在するため、コンデンサは一般にフィルタの出力、またはアクティブ フィルタの後段のアンプまたはヘッドフォン ドライバの入力に配置されます。

設計手順

  1. DAC は、アプリケーションの要求に基づいて選択します。必要な信号対雑音比 (SNR)、全高調波歪み + ノイズ (THD+N)、サポートされる I2S インターフェイスのサンプリング レートを考慮します。ほとんどのオーディオ DAC は 16kHz~192kHz の範囲のサンプル レートをサポートしていますが、384kHz や 768kHz などのレートはサポートしていない場合もあります。サンプル レートが高いほど、ノイズ シェーピングで帯域外ノイズが可聴範囲から遠くなりますが、すべての音源がこれを行えるわけではありません。
  2. この設計で選択しているアンプ (OPA1678) は CMOS 入力アンプです。CMOS 入力アンプは、JFET タイプのアンプと比べて、低い周波数でアンプ入力の電流ノイズが小さくなります。フィルタの入力抵抗値が大きいことから、電流ノイズは出力で電圧ノイズに変換されるため、電流ノイズが小さいアンプを選択することが重要です。
  3. フィルタの抵抗および容量値は、-3dB ポイントが約 23kHz になるよう選択します。回路の fC は、次の式で計算できます。
  4. フィルタには COG/NP0 タイプのセラミック コンデンサを使用する必要があります。COG、NP0 タイプのコンデンサは容量の電圧係数が小さく、コンポーネントの容量値がデバイスに印加される電圧バイアスによる影響を受けにくくなります。コンデンサはフィルタの性能を左右するため、他のタイプのセラミック コンデンサは信号パスに使わないようにします。
  5. フィルタの抵抗素子には薄膜抵抗を推奨します。すべての抵抗には電圧ノイズが存在し、このノイズは次の最初の式に示すように、抵抗値と温度によって変化することがよく知られています。しかし、抵抗には電流ノイズも存在し、次の 2 番目の式に示すように、抵抗の両端の電圧、周波数、および定数 C に依存します。この定数は、抵抗の構成材料によって決定されます。
    ST = 4kRT

    ここで、

    • k はボルツマン定数
    • R は抵抗
    • T は温度
    SE = ( C × U2 ) ÷ ƒ

    ここで、

    • C は抵抗の材質で決まる定数
    • U は抵抗の端子間電圧
    • ƒ は周波数

シミュレートされたフィルタ応答

次のグラフは、ほぼ同じ fC を持つ 2 次アクティブ フィルタと、単純な1 次 RC フィルタについて、フィルタ応答をシミュレーションしたものです。1 次フィルタではフィルタのロールオフは -20dB/decade、アクティブ フィルタのロールオフは -40dB/decade であることに注意してください。

ノイズ性能のシミュレーション結果

次のグラフは、回路のうち DAC を除く全ノイズ寄与分をシミュレーションしたものです。このシミュレーションに使用されている OPA1678 は 1kHz で 4.5nV/√Hz、OPA1612 は 1kHz で 1.1nV/√Hz であると規定されています。結果から、システムの電流ノイズの寄与分のため、OPA1612 のほうが電圧ノイズが低いにもかかわらず、OPA1678 よりも OPA1612 のほうが全ノイズが大きいことが示されます。

出力スペクトラムの測定結果

DAC の出力を、2 次のアクティブ フィルタと 1 次の RC フィルタについて、周波数ドメイン内で測定したものです。DAC の出力は、サンプリング レート 48kHz で、1kHz の周波数において -60dB のフルスケール振幅に設定されています。

グラフから、帯域外ノイズは 24kHz の周辺で増大し始めることが分かります。これは、PCM1753-Q1 のノイズ シェーピングから期待される結果です。2 次フィルタは RC フィルタと比較して、100kHz において約 20dB 出力が低くなっています。

使用デバイス

デバイス 主な特長 リンク 他の使用可能デバイス
PCM1753-Q1、PCM1754-Q1
(1)
24 ビット、標準 SNR 106dB、標準 THD+N 0.002%、シングル エンド、電圧出力のオーディオ DAC 車載向け、106dB の SNR、ステレオ、D/A コンバータ (DAC) (ソフトウェア制御) オーディオ DAC
OPA1678 低歪み、低ノイズ、低入力電流のオーディオ用デュアル オペアンプ シングルチャネル、450nA、高精度、ナノパワー オペアンプ オーディオ オペアンプの概要
PCM1753 と PCM1754 はほぼ同一の部品で、SPI 制御か HW 制御かのみが異なっています。

設計の参照資料

テキサス・インスツルメンツ、SBAM410 回路のソース ファイル、ソフトウェア

その他のリンク:

テキサス・インスツルメンツ、高精度 DAC 学習センター、製品ラインアップの概要

テキサス・インスツルメンツ、プレミアム オーディオ システムの設計、ビデオ

テキサス・インスツルメンツ、オーディオ DAC、製品ラインアップの概要