LM5157x および LM5158x デバイスは、広い入力範囲に対応した非同期コンバータで、パワー・スイッチが内蔵されています。一般的な構成として、昇圧、フライバック、SEPIC の各トポロジがあります。このレポートでは、LM5157x および LM5158x を使用する昇圧コンバータの構成と設計について説明します。この設計例は LM5157EVM-BST 評価モジュールの作成に使用されるもので、結果は『LM5157 EVM-BST ユーザー・ガイド』に示されています。このレポートでは、昇圧コンバータとして LM5157x および LM5158x を実装する際の設計手順と検討事項のみを扱います。昇圧コンバータの基本的な概念と動作については、「スイッチモード電源の昇圧電力段について」を参照してください。
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この設計例では、LM5157 を使用して非同期昇圧コンバータを実装するための、一般的な設計手順と計算を紹介します。LM51571、LM5158、LM51581 を使用した設計は、ほぼ同じです。この構成は、レギュレートされていない 6V レール (3V~9V) から、レギュレートされた 12V の最大 1.6A の負荷電流を供給するように設計されています (6V 未満の入力については、負荷が半分にディレーティングされます)。AM 帯域 (530kHz~1.8MHz) での干渉を避けるため、2.1MHz のスイッチング周波数を選択します。パラメータを表 1-1 に示し、部品の選択についてはTopic Link Label2 で説明します。
パラメータ | 仕様 |
---|---|
VSUPPLY | 3V~9V |
VLOAD | 12V |
ILOAD | 1.6A (VSUPPLY= 6V~9V) |
0.8A (VSUPPLY= 3V~6V) | |
fSW | 2.1MHz |
η (推定効率) | 90% |
表 1-1 の設計パラメータに基づいて連続導通モードで動作する昇圧コンバータを実装するため、LM5157x および LM5158x に固有の計算を示します。
設計パラメータが与えられたとき、設計プロセスの最初の手順は、適切なスイッチング周波数を選択することです。一般に、スイッチング周波数が高いほどソリューション・サイズが小さくなりますが、その代わりにスイッチング損失が大きくなり、効率が低下します。したがって、スイッチング周波数を最終的に選択するときは、アプリケーション固有の要件に基づいて、電力密度と効率との間でトレードオフを決定します。EMC の要件が厳しい設計では、スイッチング周波数の高調波を考慮する必要があります。LM5157x および LM5158x の発振器の周波数を設定するには、Equation1 が使用されます。このサンプル・アプリケーションでは、2.1MHz のスイッチング周波数が選択されています。
RT には、標準値 9.53kΩ、公差 1% が選択されています。
LM5157x および LM5158x の内部発振器は、データシートに記載されている外部クロックと同期できます。LM5157x および LM5158x には、最大デューティ・サイクル制限があり、周波数に依存します。この制限は、データシートでも規定されています。
昇圧コンバータのインダクタンス値は、インダクタの電流リップル比 (RR、平均インダクタ電流に対するピーク・ツー・ピーク・リップル電流として定義) を使用して計算できます。インダクタンス値の選択を左右する主な検討事項は、電力損失、インダクタ電流の立ち下がり勾配、制御ループの右半面 (RHP) ゼロ周波数 (ωZ_RHP) の 3 つです。
最大リップル比が 30%~70% の場合、上記の検討事項の間で適切なバランスを取ることができます。この例では、インダクタ電流の最大リップル比が 60% に設定されています。連続導通モード (CCM) 動作では、デューティ・サイクル が 33% (DmaxΔIL=0.33) のときリップル比が最大になり、デューティ・サイクルが 33% のときの電源電圧はEquation2 で計算されます。
ここで
目的のリップル比である VSUPPLY_maxΔIL とスイッチング周波数が判明していれば、Equation3 を使用して1.6A 負荷でのインダクタンスの値を計算できます (VSUPPLY = 6V~9V)。
ここで
0.8A の負荷ケース (VSUPPLY = 3V~6V) で、デューティ・サイクルが 33% にならない場合、最大電源電圧 (6V、デューティ・サイクル = 0.5) を使用して最大リップル比を計算します。インダクタの値の計算には、Equation4 が使用されます。
両方の領域の要件を満たすために、LM の値として標準インダクタンスである 1.5μH を選択します。電源電圧が最小値 VSUPPLY_min で、最大負荷電流 ILOAD_max のとき、ピーク・インダクタ電流が最大になります。ピーク・インダクタ電流は、Equation5 とEquation6 を使用して計算します。ここでも 2 つの領域が別々に計算され、大きい方が最大値になります。
ここで
ピーク・インダクタ電流を使用して、LM5158、LM51581、LM5157、LM51571 のいずれかのデバイスを適切に選択します。それぞれの電流制限については、データシートを参照してください。部品の公差とレギュレータの電力損失があるため、計算されたピーク・インダクタ電流よりも多少の余裕を持たせてピーク電流制限を選択します。この例では、15% のマージンを考慮して、LM5157 デバイスを選択しています。