設計の説明

本書の目的は、差動アンプまたは計装アンプを使用して高い同相電圧 (Vcm) の信号を ADS86XX ファミリに入力できるレベルに変換することの利点と欠点を説明することです。ADS86XX ファミリは高い Vcm をサポートできないため、差動アンプまたは計装アンプを使用して ADC を駆動することでこの問題を解決します。INA828 は入力インピーダンスが極めて高く (100GΩ)、DC 精度に優れ、ノイズが小さい計装アンプです。INA828 は、その電源電圧 (±15V) 範囲内の同相信号に対応できます。INA149 は、入力同相電圧範囲が最大 ±275V と広いユニティ ゲイン差動アンプですが、入力インピーダンスは INA828 より低く、差動 = 800kΩ、同相 = 200kΩ です。ADS86XX ファミリの ADC はアナログ フロント エンド (AFE) とマルチプレクサを内蔵しているため、PLC (アナログ入力モジュール)、保護リレー、グリッド オートメーション、その他の各種産業用アプリケーションに理想的です。

デザイン ノート

1. アナログ フロント エンドとマルチプレクサを内蔵しているという理由で ADS86XX ファミリの HV SAR ADC を選択しました。AFE を内蔵しているため、追加部品を使わないで ADC を駆動できます。
2. 非常に大きな同相電圧 (Vcm = ±275V) を実現するため、INA149 を選択しました。
3. INA828 と INA149 を比較すると、INA828 の入力インピーダンスは高く (100GΩ)、INA149 の入力インピーダンスはそれより低い値 (差動 = 800kΩ、同相 = 200kΩ) です。また、INA149 の同相範囲は非常に広い (Vcm = ±275V) ですが、INA828 の同相範囲は電源電圧範囲 (±15V など) に制限されます。高い入力インピーダンスが必要な場合、INA828 を使用できますが、同相範囲を逸脱しないように注意する必要があります。センサの出力インピーダンスが高い場合、分圧効果が生じて誤差につながるため、高い入力インピーダンスが重要であることに注意します。
4. この例では、入力信号は ±10.24V です。したがって、INA828 の場合、ゲイン = 1 を設定するのに抵抗 Rg は不要です。入力信号がこれより小さい場合、適切な抵抗値を用いてリファレンス ピンに適切な基準電圧を印加することでゲインを設定し、ADC の入力範囲と一致する入力振幅を実現します。
5. 「計装アンプの同相入力電圧範囲を計算」ソフトウェア ツールを使用して、計装アンプの同相電圧範囲を確認します。
6. ゲインが必要な場合は、ゲイン精度を最大限に高めてゲイン ドリフトを小さくするために、ゲイン設定抵抗 (Rg) に 0.1% 20ppm/°C 以下の薄膜抵抗を使用します。

部品選定

1. ADS86XX は ±10.24V のシングルエンド入力信号に対応します。この例では、入力信号が ±10.24V であるため、INA828 の場合、外部ゲイン抵抗は不要です。INA149 はユニティ ゲイン差動アンプであるため、追加部品は不要です。
2. INA828 の基準電圧入力を使用して入力電圧をシフトし、ADC の入力電圧範囲と一致させます。この例では、ADC の入力電圧範囲は対称であるため、リファレンス ピンは接地します。
3. 「計測アンプの入力同相範囲を計算」を使用して、INA828 が同相入力電圧範囲を逸脱していないかどうかを判定します。この例では、INA828 は ±15V 電源、ゲイン = 1、Vref = 0V で最大 VCM 8.38V を達成できることが示されています。
   

DC 伝達特性

以下のグラフに、INA149 の出力の線形応答を示します。ADC の入力電圧範囲は ±10.24V であるため、アンプは ADC が要求する範囲を優に超えて直線性を維持しています。この件の詳しい理論については、『計測アンプ使用時の逐次比較型 (SAR) ADC の線形範囲の決定』を参照してください。

AC 伝達特性

INA149 での帯域幅のシミュレーション結果はゲイン = 1V/V (0dB) で 505kHz です。INA828 の帯域幅シミュレーション結果はゲイン 0dB で 1.78MHz です。どちらの帯域幅シミュレーション結果も、それぞれのデータシートとよく一致しています。この件の詳細については、アンプの帯域幅ビデオ シリーズを参照してください。

ADC 過渡入力電圧セトリング シミュレーション

差動入力電圧範囲 ±10.24V、同相電圧 275V で INA149 をシミュレーションしました。以下の TINA シミュレーションは、INA149 での差動入力とシングルエンド出力を示しています。本デバイスは同相電圧 200V で問題なく動作します。

差動入力電圧範囲 ±10.24V、同相電圧 7.75V で INA828 をシミュレーションしました。以下の TINA シミュレーションは、INA828 での差動入力とシングルエンド出力を示しています。

ノイズ シミュレーション

このセクションでは、INA149 と INA828 の簡易なノイズ計算を示します。シミュレーション結果は計算結果とよく一致しています。アンプのノイズ計算の詳しい理論については『Op Amps: Noise 4』を、データ コンバータのノイズについては『Calculating the Total Noise for ADC Systems』を参照してください。

ADS8688 には 15kHz の 2 次 LPF が内蔵されています。このフィルタは、計装アンプのノイズを大幅に低減します。

使用デバイス

主要なファイルへのリンク

テキサス・インスツルメンツ、SBAC224 ソース ファイル、ソフトウェア サポート