JAJY128 September   2022 AM2634-Q1 , UCC14240-Q1 , UCC5870-Q1 , UCC5871-Q1 , UCC5880-Q1

 

  1.   概要
  2.   Authors
  3.   EV トラクション・インバータの設計トレンドを確認
  4.   高速電流センシング・フィードバック・ループと高速コントローラにより効率を向上
  5.   ゲート・ドライバとバイアス電源を使用してEVの航続距離を延長する方法
  6.   まとめ

ゲート・ドライバとバイアス電源を使用してEVの航続距離を延長する方法

MCU および電流センシング・ループによって生成された制御信号は、出力段に供給されます。出力段は、バッテリとモーターの間を結びつける回路です。この出力段は、大容量コンデンサ・バンクによってデカップリングされた高電圧 DC バスに、IGBT または SiC MOSFET などの三相パワー・トランジスタが接続されたものです。出力段は、DC 電圧を AC に変換するときの電力損失を最小限に抑えるとともに、バッテリを効率的に使用するためにサイズを小さくする必要があります。これにより、車両の航続距離が増加します。ただし、高電圧大電力の部品は、通常、大きくなるので、これは困難な課題です。幸いなことに、技術的なブレークスルーにより、同じ部品サイズを保ったままで、より高い電力レベルが得られるようになりました。

トラクション・インバータのサイズに影響を及ぼす 2 つの要因は、高電圧トランジスタの種類とバッテリの電圧レベルです。SiC MOSFET は、同じ電圧定格の IGBT と比較してスイッチング損失が小さく、ダイ・サイズが小さいため、一部のエンジニアはトラクション・インバータの設計に SiC MOSFET を使用しています。SiC トランジスタを適切に制御すると、温度、速度、トルクなど、インバータが動作するあらゆる条件で損失の低減と信頼性の向上を実現し、航続距離を延長できます。

SiC MOSFET は効率的ですが、他のトランジスタと同様にスイッチング時に電力損失が発生し、このスイッチング損失がトラクション・インバータの効率に影響を及ぼす可能性があります。図 3 に示すように、スイッチング過渡時の電圧と電流のエッジはオーバーラップし、電力損失が発生します。ゲート・ドライバの出力電流が大きいと、SiC FET ゲートの充電と放電が高速になり、電力損失を低減できます。ただし、温度、電流、電圧の組み合わせによっては、できるだけ高速に切り替えることが最善の方法であるとは限りません。SiC FET での電圧の高速な遷移、すなわちドレイン-ソース間電圧 (VDS) の過渡電圧 (dv/dt) は、グランドに流れる電流という形で電圧オーバーシュートと電磁干渉 (EMI) を発生させます。大きい dv/dt によって、巻線間の静電容量で短絡が発生する可能性があるので、モーター自体に問題が生じることもあります。ゲート・ドライバ回路は、電力損失とスイッチング過渡の両方を制御できます。

図 3 MOSFET のターンオン充電プロファイルと、VDS および ID のオーバーラップに起因するスイッチング損失。

ゲート抵抗を使ってゲート・ドライバの出力ソースおよびシンク電流を制御すると、dv/dt と電力損失の間のトレードオフを最適化できます。出力駆動強度を調整して、温度および電流の全域にわたって SiC MOSFET スルーレートの変化を最適化できるゲート・ドライバの実装を 図 4 に示します。

調整機能は、EMI の低減および損失の低減を可能にし、その結果、効率が向上して駆動範囲が拡大するため、トラクション・インバータの性能にとって有益です。TI の UCC5870-Q1 および UCC5871-Q1 ゲート・ドライバは、30A の駆動能力を備えているため、ゲート抵抗の変更と最適化で調整可能なゲート・ドライブ・ソリューションを非常に簡単に実装できます。さらに、ガルバニック絶縁および 100kV/μs の CMTI により、高速スイッチング SiC テクノロジーを使用する高電圧アプリケーションで使いやすくなっています。

図 4 UCC14240-Q1 から電力を供給される UCC5870-Q1 を使用した、調整可能なゲート・ドライバ出力回路のブロック図。

バッテリの電圧レベルは、システムで発生する dv/dt の大きさにも影響を及ぼします。また、同じ電力密度と面積を維持したままで、EMI を最小化すると同時に、絶縁安全規格を満たす部品を選択する必要がある場合には、困難な課題が発生します。SiC MOSFET は、小型ダイ・サイズで 1,200V を超える高いブレークダウン電圧をサポートしているため、800V EV バッテリ・アプリケーション向けの電力密度の高いソリューションを実現できます。

電源の絶縁と良好なレギュレーションが必要な場合には、高電圧 SiC MOSFET のゲート電圧要件への対応は困難になります。ゲート電圧の影響は、図 5 に示す SiC MOSFET の電流電圧特性曲線を見れば明らかです。このグラフでは、ゲート-ソース間電圧 (VGS) が高いほど、リニア領域でより傾きの大きい曲線になっています。曲線の傾きが大きいということは、ドレイン-ソース間のオン抵抗 (RDS(on)) が小さいことを意味しており、導通損失を最小限に抑えて、熱暴走を回避できます。

GUID-20220818-SS0I-BZX4-S8CS-JPXL12SWG95M-low.png図 5 VGS に基づく SiC MOSFET の電圧および電流特性。

ゲート・ドライバに電力と電圧を供給する絶縁型バイアス電源は、高速過渡時に適切な正のゲート電圧を維持し、また、負の電圧にも対応して SiC FET を安全にオフに維持できる必要があります。半導体スイッチング・コントローラ付きのトランスは、絶縁型電源の構成によく使われています。ただし、このように複雑な設計は、電力効率と EMI の両方の観点から、出力の性能に直接影響を及ぼします。巻線間静電容量によって同相電流が大きくなり、EMI の発生につながるので、容量を小さくする必要がありますが、サイズ、電圧定格、効率の間でトレードオフが発生するため、設計時間が長くなります。

UCC14241-Q1 および UCC1420-Q1 などの統合パワー・モジュールを使用すると、1 次側と 2 次側の間の絶縁容量を 3.5pF 未満で良好に制御できるため、高速スイッチング SiC MOSFET で 150V/ns を超える CMTI を実現できます。HEV/EV サブシステムの設計は、トラクション・インバータと DC/DC コンバータの組み合わせなど、さらなる統合が進んでいます。UCC14241-Q1 は、図 6 に示すよう に、フライバック・コンバータを使用する標準的なバイアス電源ソリューションに比べて、部品表 (BOM) 実装面積を約 40% 削減できます。ディスクリート・トランス設計と比較して高さは大幅に低く、その結果、重心が低くなり、振動耐性が向上します。これらの要因を通じて、トラクション・インバータ・システムは、パワー・トランジスタの効率的な駆動に適した電圧を供給すると同時に、優れた信頼性と耐用寿命を実現しています。

GUID-20220818-SS0I-J5GP-QBZP-S90RKHWM0WFR-low.png図 6 標準的なフライバック・コンバータ・バイアス・ソリューションと UCC14240-Q1 の BOM 実装面積と高さの比較。