JAJA492D july   2016  – april 2023 INA240 , INA240-Q1 , INA253 , INA253-Q1 , INA254 , INA282 , INA282-Q1 , INA283 , INA283-Q1 , INA284 , INA284-Q1 , INA285 , INA285-Q1 , INA286 , INA286-Q1 , LMP8481 , LMP8481-Q1 , LMP8602 , LMP8602-Q1 , LMP8603 , LMP8603-Q1

 

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より高効率のシステムの需要が増加し続け、これを実現するために、モーターの動作効率と制御性の向上が求められています。このことは、白物家電、産業用ドライブ、車載などのアプリケーションを含む、ほとんどすべての電気モーター搭載製品にあてはまります。モーターから制御アルゴリズムにフィードバックされる複数の動作特性は、ピーク効率でモーターが動作していることを確認するために重要です。位相電流は、最適なモーター性能を引き出すためにシステム・コントローラが使うフィードバック要素の中で、最も重要なパラメータの一つです。

計測信号と位相電流を直接的に相関させるための、モーターの各巻線に流れる電流の理想的な計測位置は、図 1 に示すように、各相に直列の位置です。その他の位置で計測する場合、例えば各相のローサイド (低圧側) などの計測信号は、制御アルゴリズムで使用する前に、有意なデータを生成するため計測データの組み合わせやその他の処理が必要になります。

GUID-5890F721-1984-4595-A00F-201CFCA8CC03-low.gif図 1 インラインの電流計測

モータの駆動回路はモーターの動作制御を行うために PWM (パルス幅変調) 信号を発生します。これらの変調信号はインラインで配置された計測回路に、非常に短い期間に大きな電圧ステップを持つコモンモード電圧の過渡波形を発生させます。理想的なアンプであれば、計測されたコモンモード電圧成分を完全に除去し、シャント抵抗に流れる電流に対応した差動電圧だけを増幅する能力を備えています。しかし、残念なことに実際のアンプは非理想的特性で、PWM で駆動される入力電圧の大きなステップの影響を受けます。実際のアンプは無限大のコモンモード除去特性を備えていないことから、図 2 に示すように、大きな振幅の、不要な妨害信号が、入力電圧ステップに対応してアンプ出力に発生する可能性があります。アンプの特性によっては、これらの出力信号の擾乱、グリッチは大きな振幅となり、入力の遷移からセトリングまでに非常に長い時間が必要になることがあります。

GUID-C1CF252D-3F91-45F7-B0FF-4290EA54A307-low.jpg図 2 コモンモード入力電圧 VCM の大きなステップ波形によって発生する出力グリッチの代表的な波形

このインライン計測手法に共通の手法は、広帯域の電流センス・アンプを使うことです。PWM の変調周波数は、可聴周波数範囲よりも上の周波数を保つために、通常、20kHz~30kHz を選択します。このような PWM 駆動アプリケーションでインラインの電流計測を行うためのアンプには、200kHz~500kHz の範囲の信号帯域幅の製品を使います。これまで、アンプの選択は PWM 信号よりも大幅に低い、実際の信号帯域幅を元に選択されていたわけではなく、入力電圧の遷移の後、出力グリッチを高速でセトリングさせるために、より高い帯域幅の製品を選択していました。

INA240 は、特にこれらの PWM 駆動アプリケーション向けに開発された、高い同相モードの双方向電流センス・アンプ製品です。このデバイスでは、出力の擾乱を大幅に減少させるとともに、短いセトリングタイムを可能にする、エンハンスド PWM リジェクション回路を集積し、大きなコモンモード電圧ステップが存在する中で、小さな差動電圧を計測する場合の困難に対応しています。標準的な電流センス・アンプは、ステップ入力後に出力を高速で回復させるために高い信号帯域幅に頼り、一方、INA240 は高速の電流センス・アンプに PWM リジェクション回路を集積して、出力の擾乱を減少させ出力応答を改善しています。図 3 に、INA240 のエンハンスド PWM リジェクション機能による出力応答の改善の様子を示します。

GUID-FEB68B75-D49C-4C7E-A448-B1EBBC3874FE-low.jpg図 3 エンハンスド PWM リジェクション機能による出力グリッチの減少の様子

多くの三相アプリケーションでは、このようなインライン電流計測の精度はそれほど必要ではありませんが、出力グリッチの制限は過電流表示を防ぐため、また出力の高速応答によって補償ループの十分な制御を提供するために必要となります。その他の、例えば EPS (電動パワー・ステアリング) などのシステムでは、トルク・アシスト・システムで要求されたフィードバック制御を提供するために、高精度の電流計測が必要です。EPS システムの主要な目的は、運転者がハンドルに加えたトルクに、追加のトルクを与えてアシストすることと、走行状態に対応した擬似的な応答感覚をハンドルに戻すことです。このように厳しく制御されたシステムでは、相の間での電流計測誤差が目立つようになることもあります。考慮されていない各相の変動は、直接、トルクのリップル増加を招き、これはハンドルを通して運転者に知覚されます。常に違和感のない使用感を提供するためには、計測誤差、特に温度によって発生する誤差を減少させ高精度のフィードバック制御を保つことが大切です。

一般的なシステム・レベルでの較正は、アンプの性能への依存を低くし、室温での高い計測精度を提供するために役立ちますが、動作温度の変化に伴う入力オフセット電圧やゲイン誤差などのパラメータ変化への対応は、より困難です。良好な温度補償手法は、動作温度範囲内でのアンプ性能変化の評価に基づくとともに、システム間の外部要因変化に対して一貫し、高い再現性の応答を使います。複雑な補償手法をなるべく不要にするためには、温度変化によって発生する変動を最小限にして、アンプ性能の安定を保つことが理想的です。

INA240 の室温における入力オフセット電圧は最大 25μV で、ゲイン誤差は最大 0.20% です。温度の安定計測を必要とするアプリケーションにとってより重要な点として、デバイスの入力オフセット電圧ドリフトが 250nV/℃で、アンプのゲイン・ドリフトが 2.5ppm/℃であるため、システムの温度範囲全体に渡る動作温度の変動に対しても、一貫した計測精度を提供できます。

INA253INA254 は、INA240 アンプの性能上の利点をすべて備え、シャントを内蔵しています。内蔵のシャントは、低誘導性で精度が高く、0.1% の許容誤差を持つ 2mΩ (INA253)、または 0.5% の許容誤差を持つ 400μΩ (INA254) であり、温度ドリフトはどちらも 15ppm/℃未満です。INA253 は最も精度の高い電流センス・アンプで、シャントに起因する誤差やレイアウトに起因する寄生を排除します。

計測の温度安定度、広い動的入力範囲、そして最も重要なエンハンスド PWM リジェクション機能を併せて提供する INA240 は高精度に制御された性能を発揮することから、高精度で高い信頼性の計測を必要とする PWM 駆動アプリケーションに適した選択肢です。

その他の推奨デバイス

システム要件に応じて、必要とされる性能と機能を備えたその他のデバイスも利用できます。INA282 は、PWM 駆動アプリケーションで通常見られるほど高速には変化しない大きな同相電圧を非常に正確に計測できるため、このデバイスは高電圧 DC アプリケーションに適しています。INA241B は、PWM 除去技術を採用した高い同相電圧に使用される双方向電流センス・アンプです。

表 1 その他の推奨デバイス
デバイス 最適化されたパラメータ 性能のトレードオフ
INA282 同相モード入力範囲:-14V~+80V、MSOP-8 パッケージ DC アプリケーションに適した低い帯域幅
INA241B エンハンスド PWM リジェクション機能搭載、-5V~110V、双方向、高精度電流センス・アンプ IQ の増加
表 2 関連するテキサス・インスツルメンツのアプリケーション・ブリーフ
SBOA202 PWM アプリケーションにおける電流検出用の低誘導性シャントの利点
SBOA163 ハイサイド・モーター電流の監視による過電流保護